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「退学」

 校長室には既に人が揃っていた。校長のはざまと教頭、そしてもう一人…この中学校の理事長である中年の女性がいる。本来ここにはシュートの担任の青野がいるべきなのだが、彼は未だ入院中にある(主に精神的な問題で。シュートの力を前にして精神が壊れてしまった)為にここにいない。


 「三ツ木柊人。君をここに呼び出したのは他でもない。

 君はたった今、本校の生徒ではなくなった。今日付けで退学処分とする」


 開口一番、硲はシュートにそう言い渡した。


 「退学?それって俺だけすか?」

 「そうだ。君だけが退学となる」

 「おかしいな?俺を虐めまくった中里たちも同じように退学すべきだと思うんだけど。あいつらも俺に散々暴力を振るってたんすよ?」

 「彼らが暴力を振るった証拠が出ていない」

 「あいつらはスマホとかで俺を痛めつけてるところを撮ったことがある。あいつらにそれらを提出させて画像とか動画探せば、証拠なんていくらでも見つけられる」

 「それはプライバシー侵害に関わる為、認められない」

 「虐めは立派な犯罪だ。事件捜査の一環として、多少のプライバシーくらい目を瞑って良いはずだ」

 「とにかく彼らにはしばらくの停学処分を科す。それ以上の処罰は無い」


 シュートに殺意が湧く。拳を強く握って硲を睨みつけるが、その硲はシュートを見下した調子で見返してくる。


 「……お前らも中里を庇ってんだろ?あいつのバックに大企業の会長がいるからってさぁ」

 「庇い立てなどしていない。理事長と交えて議論した末に出た決め事だ」


 直後、シュートから殺意がこもったプレッシャーが放たれる。


 「舐めてんじゃねーぞ、ゴミどもが」


 スキル「威嚇」で三人を威圧する。硲の言葉に嘘があることは、スキル「看破」で分かっていた。


 「ぐ……!?」「~~~っっ」「ひっ!?な、何!?」


 シュートの「威嚇」に三人とも冷や汗をかいて動揺する中、シュートは話を続ける。


 「お前らも青野のクソ野郎と同じ、保身と世間体を優先して、虐められていた生徒を蔑ろにすることを選びやがったんだ。教育者失格だな、お前らは……っ」

 「………何でもかんでも自分が望む通りに世の中が動くと、思うな…!」


 硲は額に汗をびっしょり滲ませながらもシュートを睨んだまま意見する。教頭と理事長もシュートを非難する視線を向けている。


 「警察に連行されて少しは頭が冷えたかと思えば、全くそうはならなかったようだな。思い通りにならないと分かればすぐに癇癪を起こす」

 「俺がすぐに切れるガキかどうかって話は、今はどうでもいいんだよ!俺が今はっきりさせたいのは、お前らが中里たちを庇って、俺だけがトカゲの尻尾切りとして学校から排除されたってことだ。

どうなんだ?もう一度下らない嘘で誤魔化そうとしやがったらお前らも中里たちと同じ目に遭わすぞ?今ここでだ」


 再び「威嚇」で脅して、真実を話すよう強要する。シュートの圧力に耐え切れなくなった硲は、固く閉ざしていた口を開いてようやく正直に答えるのだった。


 「………中里君の父親は、日本屈指の大企業の会長だ。東京都内はもちろん、全国各地にもその大企業の傘下となっている会社があり、それらは中里大企業から莫大な出資金も得られている。特に東京の経済の八割程は、中里大企業に支えられてると言っても過言ではない。

 そして…この私立天成てんせい中学校もまた、大企業から莫大な出資金をもらっている立場にある。我々にとって中里会長は必要不可欠なスポンサーも同然。彼の不興や怒りを買うのはあってはならないことだ。もし出資してもらえなくなったら、我が校の運営は困難となる。彼からの信頼と恩恵を失うことは許されないことなのだ。

 そして…去年から彼のご子息が我が校に在籍している。もちろん中里…優太君に何かあれば、中里会長の怒り等を買うことになる。

 故に、明らかな犯罪行為が教職員の耳目に触れない限りは、多少の“行い”には目を瞑ることにしている」


 硲の話をシュートは途中から全く聞いていなかった。聞く価値が無いと判断して後半から聞き流していた。


 (クソな権力者とクソな一般人……どっちか害悪で悪影響を及ぼすのか。もちろん、それらは全て前者だろうな。一応こいつらも学校内では権力者。だからこいつらが及ぼしてる悪影響は、反吐が出るくらいに大きい)


 話を聞く程にシュートは怒りを募らせていくばかりだった。


 「そういうことならさぁ、あいつらの虐め行為って教師の何人かからとっくの昔にバレてただろ?それを大企業の会長とやらに報告するくらいできただろ?

 お前らが虐めを隠そうとしたのって、中里大企業からの出資金だけじゃないだろ?他に理由があるよな?」


 そう尋ねるシュートだが、彼はもう一つの理由が何なのかはある程度察しが付いていた。ありきたりな理由だろうな…と考えているとその予想通りの答えが返ってくる。


 「我が校は国内屈指の名門私立中学校だ。この私が校長となる前から、全国から多くの信頼・憧れ・賞賛が得られている。私の何代も前の校長たちによる努力の結果だ。私にとっても我が校は宝そのものだ。何十年も前から積み重ねてきた努力を、私の代で台無しにすることは許されないのだ…」


 長々と話していた硲だったが、要は自分の地位と学校の名声、国中から寄せられている信頼や期待、憧憬を失いたくないだけだった。彼の言葉からそういう意図を察したシュートは、怒りを通り越して呆れた気持ちをおくびにも出すことなく貶しはじめる。


 「くっっだらな!要は自分と学校可愛さに、虐めとかを平気で無かったことにしようとしてるってことじゃん。マジでゴミだなお前ら」

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