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「シュートの将来性」

 そのことを聞いたシュートは大して意外には思わなかった。子どもが警察にいると聞けば流石に放置してられないだろう。何よりも自分たちの沽券や世間体にふれることになる。


 「というか、このまま留置とかされると思ってたんすけど。そっから下手すれば少年院に送られたりもして」

 「残念ながらお前が生徒たちに暴力を振るったという物的な証拠が一つも挙げられていないからな。それらが一つでも見つからない以上いきなり少年院へぶち込むことは出来ない。もっとも、お前の口から犯行を認めることを聞いた以上、覆ることも十分あり得るがな」


 お前には聞いてねぇよ、とシュートは大藤を内心で罵る。


 「あーあ、あの二人(=両親)に何言われるやら」

 「とにかくまずは心配や迷惑かけたことに謝ること。親御さん方に連絡を入れてからまだ一時間程度しか経っていない。慌てて署まで来てくれたんだろうね」


 菫がまた諭すように話しかけるが、シュートは別のことで困っていた。それは急成長した自分の体見た両親がどう思うのか、である。二人はまだ成長したシュートを目にしていない。まさかこんな形で二人に初めて見せることになるとは、とシュートはやや苦い思いをしていた。


 「さぁ行こうか。事情聴取はひとまずこれで終わりだ。親御さんと家に帰って、じくり話し合うんだよ」


 ぽんと菫はシュートの背中を優しく叩く。彼女からは香水ではない何か良い香りがして、シュートは彼女をチラ見する。


 (この女刑事はまともで良い人間…なんだと思う。異世界のサニィとは違った、何となく親しめそうな感じもする。この女には嫌味が全く無かったし、割と親身になってくれた気もした。子どもの俺に目線を合わせて話して……悪い感じはしなかった。

 まぁ、もう一人の中年刑事は、クソだったな。虐められてた人間の気持ちなんて知ろうともしない、警察という地位を持っていい気になってるだけの、偽善野郎だ)


 この瞬間、シュートは二人の命の価値を定めた。花宮菫は善人であり今後窮地に陥ってたら救うべき人間、一方の大藤は自分にとって価値が無くて何の益をもたらさない人間で、死にそうになってても助ける必要は無い、と。



 署の一階のロビーに降りるとそこにシュートがよく知る人物が二人…彼の父親と母親がいた。

 まず母親…三ツ木羽佳理はかりが花宮に頭を下げて、息子が迷惑かけたことの謝罪をする。次いで隣にいるシュートに目を向けた途端、ギョッとした顔になる。

 羽佳理のリアクションに花宮が首を傾げる中、父親…三ツ木彰司しょうじは三白眼の瞳をシュートに少し向けるだけで何も言わずに、母親と同じく頭を軽く下げるだけだった。

 父親は成長したシュートを見ても大して動じてはおらず、母羽佳理の方は今のシュートを見て明らかな違和感を示していた。小声で「柊人なの?」と何度も問うて、目の前にいる少年が自分たちの息子…柊人であると分かるまで時間を要した。


 「……………」


 そして父彰司が急成長したシュートを目にしても何のリアクションを見せなかったのは、彼が我が子への関心が薄過ぎるのが理由である。シュートが中学校へ通うようになってから、彰司がシュートと顔を合わせることは滅多に無くなっていた。家に帰ったとしても彼はシュートの顔をあまり見ることもしなかった。

 それが積み重なった結果、彰司はシュートの顔をちゃんと覚えておらず、急成長した姿を見ても「こんなものだったか」としか思っていないのである。

 母親と比べて父親はシュートへの関心がかなり薄いとされている。


 「はい……では、これで」


 菫との話を終えるやいなや、彰司はシュートたちに背を向けてすたすたと署から出て行った。羽佳理も刑事たちに一礼してからシュートに行くよと帰宅を促して彰司の後を追う。


 (はぁ……帰ったらめんどい話をやりそうだ。久々の家族の会話が、そんなめんどいことになるとは)


 溜め息をついてシュートも家へ帰るべく署を出ようとする。そんな彼に菫が声をかける。


 「三ツ木君、学校に行くことがあれば紅実と仲良くやってほしい。それと、これ以上行き過ぎた事を起こしてはダメだからね」


 シュートは無言で菫に一礼してから立ち去っていった。菫がシュートの背をしばらく見つめていると大藤刑事が声をかける。


 「あの少年、将来的に野放しにするのは危ういと思える……。彼の犯罪予防について考える必要があるな。それよか花宮よ、彼のことが気になってるみたいだな?」

 「はい……。これまでたくさんの未成年を補導・取り締まりをしてきましたが、あんな子は初めてでしたから。これまでの子たちとは……何かが違って見えるんです」


 菫はそう答えてからシュートの今後に少し懸念を抱く。


 (あの子が今回以上の事件や騒動を起こすことはあまり考えたくないけど、放ってもおけないな。親御さんたちはどこか彼と上手くやれてるようには見えなかった……。

 あの子が将来的に正しいバランスを保てるのかどうかが気になって仕方がない)


 どうしてシュートをこんなに気にかけてしまうのかと、菫は自分に少し戸惑っている。姪である紅実と同じ学校に通っている子だからなのか、それ以外の何かに引き寄せられたのか、彼女にはまだはっきり出来ないことだった。


 (正しい方向に導いてやれるかは分からない。けど大きく外れた方にいかないようにはしてあげたいな…。今後あの子と関わりがあれば、の話だけど)


 そう考える菫は、シュートとまたどこかで会えること(取り調べ室以外で)を少し望んでもいた。


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