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「校長室での告発」

 (あれ…?勝手に消えた?もしかして時間が経つと消えるものなのか…?)


 教室のスライドドアの前に積もらせておいた大量の土砂が消えたのを見て、シュートは内心首を傾げる。

 スキル「作製」による加工や製作が施されていないただの土は、時間が経つと自然消滅する仕組みとなっている。火や水も同じく、発生しただけの物に何のスキルや何か手間を加えなければ自然消滅するようになっている。因みに異世界のマイハウスに使った土嚢などにはスキルがかかっている為、自然消滅はしない。

 思わぬ発見をしたシュートが次から注意しておこうと心に留めているところに、土砂によるつっかえか無くなったスライドドアが開かれて、外から教師が数人慌てて入ってくる。


 「やっと入れた、中で一体……っ!?な、何だこれ、は……!?」


 最初に入ってきたのは学年主任の教師。続いて体育の教師と生活指導の教師も入ってきて、二人とも同じように驚愕する羽目になる。


 「そ、そこの生徒がやったのか…?」


 学年主任は中心に立っているシュートを指して、紅実たちを見て問いかける。彼女たちはぎこちない動きで首を縦に振って応じる。


 「な、中里君……!?それにいないと思ったら谷本と大東も、青野先生まで!?他にも倒れている子がこんなに……っ すぐに救急車を!」


 倒れている中里たちを介抱し始める教師たちを見たクラスメイトはようやく助かるんだと思って安堵し始める。シュートもこれ以上暴れることは止めておこうと思っている。


 「な、何だこの状態は……っ、目が無くなってる子もいるなんて……っ」


 中里たちの悲惨な姿を見た教師全員が動揺する。数分で全員を保健室へ運ばせると、学年主任はシュートに目を向ける。その目には怒りが含んでいる。


 「君、2のAの生徒のようだが、名前は?」

 「三ツ木柊人」

 「三ツ木だと…!?以前の彼はそんな姿じゃなかったはずだが」

 「成長期だ」

 「ぐ、う……。とにかく三ツ木、職員室に来なさい!」

 「職員室に連れてどうするんだ?虐めに対してずっと見て見ぬフリを通してきた教師の風上にもおけない無能教師が」

 「な……教師に向かって何だその口は――」

 「 ああ”? 」

 「~~~っ!?」


 シュートに睨まれた学年主任はその威圧にあてられて思わず身を竦めて声を詰まらせる。他の二人も同様に萎縮している。


 「はぁーあ、下らねー。話し合いがしたいってんなら、校長や教頭、この学年の担任教師全員も連れて来いよ。こっちも色々言いたいことが腐る程あるからさぁ」


 シュートは傲然とした態度で主張して、職員室の同行に応じた。学年主任は今まで目立たなかったシュートの偉そうな態度に憤りを感じながらも、どうにか静めて教室から出て行った。


 「(さて、次はこの教師全員に好き放題言ってやるぜ……)良かったなお前ら、今回は見逃してやるよ。

 けど忘れるな?お前らも同罪だ。絶対に許さねぇからな―――」


 教室を出る寸前、シュートは紅実たちの方を見て悪魔の笑みを浮かべてそう言い残すのだった。教師たちに連れられて教室から出て行ったシュートを、紅実は複雑な面持ちで見ているのだった。


 「出会ったばかりの頃のシュート君は、もういなくなってしまったというのか……」


 そう言って悲しそうに目を伏せる紅実だった。




 はじめは職員室で話をしようとしていた教師一行だったが、騒ぎを聞いた校長が話し合いに加わるとのことで、場所は校長室にある応接間へと移る。

 この場にはこの私立中学校の校長…はざまと同校の教頭と2年生の学年主任と生活指導の教師、そしてシュートが揃っている。シュートだけが教師たちと相対する形で座っている。


 「………それでつまり、三ツ木君は自分を虐めていたクラスメイトたちへの復讐として、彼らにあそこまでの傷害を負わせたということだな?」

 「そういうこと」


 白髪混じった黒髪で顔年齢が五十後半の厳めしい面をした硲の確認問いに、シュートは傲然とした態度で肯定する。校長を前にしての態度に教頭は額に青筋を浮かべる。


 「………君も知っていることとは思うが、我が校は都内ではもちろん国内でも名門私立校として知れ渡っている。この学校は私にとっても誇りなんだ。そんな我が誇りに傷がつくような事件を起こしてもらっては困る。分かってもらえるだろうか」

 「誇り……埃、ね。こういうゴミと同じ埃のような学校がねぇ」


 シュートはそう言いながら座っている椅子に付着していた埃を摘まんで、ふっと息を吹きかけて飛ばす。そんな彼の無神経で舐めきった態度に業を煮やした教頭が怒鳴りつける。


 「貴様、校長先生に対してさっきから何だその態度は!?自分が今どうしてここに連れてこられて、我らと話をすることになったのか分からないのか!」


 「………(ギロリ)」

 「~~~っ!?」


 シュートのひと睨みを受けた教頭は怯んで声を詰まらせる。校長も同じくそのプレッシャーに当てられて内心動揺する。


 「話っていうか、これってどう見ても俺を糾弾してるようにしか見えないんだけど。というか校長先生さぁ、さっきの騒動の以前に、俺が今までずっと中里たちに酷い虐めを受けていたことの方を先に問題に挙げてほしいんだけど」


 シュートはトントンとテーブルを叩きながら、自分が優先したい問題を主張する。


 「じ、事情説明でも聞いた虐めの話か。しかし今回の話し合いはそんなことじゃなくて、君が起こした傷害騒動についてが主体だ!それにさっき私に向かって思い切り睨みつけたことも新たに問題として――」


 ドンッッッ 「「「「~~~!?」」」」


 教頭の言葉が、シュートの拳によるテーブルへの叩きつけで発した音でかき消された。同時にその衝撃でビリビリと震動して、教師全員が身を強張らせた。


 「そんな、こと…?一生徒に向けられた深刻な虐めが、そんなことだと?」


 拳が引き抜かれたテーブルには、拳一つ分の大きな穴が空いていた。その衝撃的光景を目にした教師全員が驚愕に目を剥く。


 「き、君はいったい……!?」

 「校長先生たち、これを機にいい加減、中里たちが俺を虐めていたことを問題として挙げてくれません?まずそっちについて話をしましょうよぉ!良いですよね?」


 トントンと穴が空いたテーブルを叩きながら、シュートは硲たちに自分の話を主張する。硲たちは今まで名前すら知らなかった一生徒が、得体の知れない脅威的存在として認識を改めて緊迫した態度になる。


 「わ、分かった……。では三ツ木君の口から虐めのことについて話してくれ」

 「分かりましたー。えーとですね―――」


 それからシュートは硲たちに中里たちによる虐めの全てを告発した。自分がどれだけ理不尽な暴力を受け続けていたか、助けてあげたクラスメイトからにも虐めを受けたこと、板倉に嘘の告白で呼び出されて、彼女がシュートをストーカー犯に仕立て上げて誹謗中傷を負わせたことも全てしっかり説明したのだった。


 「あいつらは理由もなく、ただそれが面白いからってだけで俺を虐めたり無実の罪を被せたりもした。あいつらは人として最低の行為をしたんだ。俺という一生徒の平穏を乱して散々貶めたんだ。

 しかも、俺はあいつらから受けた虐めを担任の青野に告発したんだけど、あいつは中里たちを庇いやがったんだ!当然クラスメイトたちも見て見ぬふり、楽しんでみてる奴までいた!俺は、クラス全体から虐めを受けていたんだ!」


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