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「この程度で済んだ」

 紅実がシュートの猟奇的な暴力を今まで止めずにいたのは、彼を中途半端に止めようとしても全く意味が無いと悟ったからだ。無理に止めに入るよりも、一度発散させるだけさせて、気が済むまで暴れさせようと思いつき、今まで静観していた(もちろん目を逸らしたりもしていた)。

 中里や後原、板倉に対して特に復讐したいと思っているシュートを変に止めれば、自分や周りのみんなにも被害が出てしまうのでは、と恐れてもいた。

 故に紅実は怖く・歯がゆい思いをしながらもシュートの猟奇的な復讐行為を黙って見ることにした。中里たちには悪いと思いながら。

 幸いにもシュートは中里たちに対して死に至らしめるまでの暴行を加えるつもりがないと何となく分かっていた。もし彼が殺すつもりだったらその寸前で彼に追いすがってでも止めるつもりだった。

 とにもかくにも一区切りついたタイミングを見計らって、こうしてシュートにこれ以上の暴行を止めるよう呼びかけたのだった。


 「もう、止めてくれ…。明らかにやり過ぎてる」


 紅実はシュートにこれ以上の暴力を重ねないよう懇願する。


 「やり過ぎ、ね……………まぁそうかもな」


 紅実にそう指摘されたシュートは改めて教室中を見回す。特に自分の手で徹底的に壊されたクラスメイトや不良生徒たちを注視する。


「えーと……復讐した男子四人:腕骨および大腿骨が粉砕骨折および解放骨折、睾丸片方が破裂、内臓いくつか損傷、背骨や肋骨、胸骨数か所が骨折および亀裂損傷、手指と足指が全本複雑骨折。その他も色々骨折。

 手指・足指の爪が全部雑に剥離されて、口内の歯が多く欠けている。そして、片目が抉られてるせいで失明…か。

 で…女子一人:子宮破裂、顔の皮膚がひどくめくれていて筋肉組織が丸見え、と」


 シュートは倒れて動かない中里たちやタオルで顔を覆った板倉が負った傷の内容を平然と読み上げていく。クラスメイトたちはそのおぞましい内容を聞いただけで気分をひどく悪くして、中には嘔吐する者もいた。紅実もシュートのセリフを聞いてひどく戦慄している。


 「まあこんなところか。こっちの平和な世界だと、確かにこれはやり過ぎだよなぁ。

 それはそうとさぁ……」


 シュートは不愉快さを露にして板倉がいるところに目を向ける。そこには紅実と他のクラスメイト数人が集まっており、皆が板倉のことを介抱しようとしている。


 「は?何それ……?表向きはみんなに良い顔だけ見せて、腐った本性を隠してきたその女を、どうして心配してるんだよ?そいつは人を平気で騙して気持ちを弄んで、無実の罪まで被せようとした、最低の糞女なんだぞ……!」


 板倉のところに集まっているクラスメイトたちに罵声を浴びせるシュートを、彼らは怯えつつも非難する目を向けてくる。そんな彼らに益々腹を立てるシュートだが、深呼吸をして気を落ち着かせてから、紅実に向き直る。


 「まぁ後回しにして……それでさ、花宮。区切りの良いところで止めにきたところ悪いんだけどさ。

 まだ終わってねーんだわ」

 「え……?」


 紅実がどういうことかと問おうとした瞬間、シュートは黒板の傍にあるロッカーへ移動して、その中を勢いよく開けて中にいる担任の青野を引きずり出した。青野は顔を蒼白させて引きつった悲鳴を上げている。


 「今日の朝のホームルームで、俺言ったよな?“本当にそれで良いんだな?”って。後でやっぱ無しも聞かないから、とも言ったよな?」


 胸倉を掴んで持ち上げながら脅す口調で話すシュートにすっかり怯えている青野。そこに教師としてのプライドなど微塵もなかった。


 「俺は今まで散々、中里たちから虐めを受けているって報告して助けを求めてたのに、お前はよくもまぁ、あいつらの肩を持つからさぁ」


 ぶん、と青野を散乱している机に投げ飛ばす。頭や肩を打ちつけた青野は痛みに悶えている。


 (物理的に痛めつけるのも良いけど、このクソ担任には社会的な抹殺も加えてやりたい。ひとまず後回しだ)


 シュートは青野を無視して教室中をぐるりと見回しながらこう問いかける。


 「今朝、俺の上履きと下駄箱が酷く荒らされてた。丸められた紙屑とお菓子の包装紙と吐き捨てられたガムなんかのゴミが詰めこまれてて、上履きには穴を空けられてて、俺を侮辱した落書きも書かれてた。

 あれやった奴ら、誰?十秒以内に答えないと全員壊す。女子も一緒だ」


 数秒の沈黙ののち、一人のクラスメイトが倒れて動かない中里たちに指を差す。それに続いて複数人も彼らを指差していった。


 「そ、それとたぶんだけど、他のクラスの何人かも!板倉のファンの奴らがやったんだと思う。あの噂を真に受けた、から……」

 「ふーん、そう。本当みたいだな。他クラスにも俺を貶めたクズがいるんだ。

 けどまぁ、とりあえず―――」


 するとシュートは突然姿を消したような速さで動いて、一人の男子生徒を掴み上げた。最初に中里たちを指した生徒だ。


 「うぅおお……!?」


 「お前嘘ついたな?だから分かるんだってば、お前らの下らない嘘は。お前も今朝、下駄箱にゴミ入れた奴だな?というか中里は下駄箱には何もしてなかったみたいだぞ?」

 「な、なんで、ぞんなごど……っ」

 「だから分かるんだって。俺の超能力(半分本当)で。まぁとにかく、このクズ野郎がっっ」


 ベキ、メキャ! 「ぎゃあ”あ”あ”あ”あ”っ」


 腕の骨をへし折った後、床に叩きつける。男子生徒は白目を剥いて失神する。


 「し、シュート君……!」


 紅実が制止するよう呼びかけるがシュートはそれを無視する。

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