「 あ”? 」
瞬間、シュートの目から感情が消えた。氷のような冷たい瞳で板倉を睥睨する。先程までの激しい怒りとは違い、どこまでも底冷えたもので、虚無すら感じられる。
「……………お前みたいに、平気で嘘告を実行して、平気で人を騙して嘲笑うような女に告られて、少しでもときめいてしまった自分を心底恥じてるよ。
まあそれはそれとして……詐欺とかデスゲームとかを題材にした映画やドラマの話でさ、“騙された奴が悪いんだ”ってセリフをよく聞くんだけどさぁ……」
一転して静かに話し始めるシュートが、板倉や紅実たちには却って気味悪く・怖く感じられる。
「現実だとやっぱり、人を騙す奴の方がどう考えても悪いだろうが!それも悪意でそうする奴なんかはさぁ!」
一瞬で板倉の目の前に移動したシュートは、彼女の腹部を見据えて拳を構える。
(大体……この辺りかな――)
ゴッッ 「あ……ぐ、ぅ………!?」
板倉の子宮が位置する腹部に容赦ないパンチをぶつけてめり込ませる。板倉は口から体液を盛大に吐いて悶絶する。
「あ……かひっ、お、お腹……あ、あああああ……っ」
「これでお前は一生、子どもが産めない体になったかもな」
シュートの的確な腹パンで、板倉の子宮は破裂して機能が死んだ。女としての身体機能の一部を壊した。しかしシュートの彼女への暴力はまだ続く。
ザク……ッ 「い”……!?え、え?い、痛いぃいい……!!」
続いて貫き手を板倉の下顎部分に深く突き刺す。その部分から血が滴り落ちて、板倉は痛みに苦しむ。
「や、やだ……痛い!な、何するつもりぃ……!?」
「さっきから媚びる態度とか、泣き落として許しをもらおうとするとか、かわい子ぶった声とか、何もかもが目障りで、すげぇムカつくんだよ…!全部心からの態度と言葉じゃねーのが、今なら余裕で分かるし。
とりあえずあれだ……今後二度と、その無駄に恵まれた顔と体を使って人を騙したり色々悪いことができないよう――」
シュートはここで、あの憎悪を孕んだ鬼の形相で笑ってみせる。
そして―――
「 その嘘と悪にまみれた分厚い面を剥がしてやるよ――― 」
スキル「怪力」を発動して貫き手状態の左手に超人的な力を発揮した――
ピッ、ベリィイイ!!
「~~~~~!?!?ぎゃあああああ”あ”あ”あ”あ”っっ!!」
分厚い皮を勢いよくめくるような音が響いた直後、板倉の口から彼女が今まで生きてきた中で体験した全ての苦痛をいっぺんに味わったかのような絶叫が、教室中に響き渡った。
「遊び気分で人をどん底に陥れるような嘘を吐いたり、無実の罪を悪意で被せたりするような、最低のクズで存在自体がブスの、ゲロ糞女が。罰としてお前の無駄に恵まれてる顔を、奪ってやる」
べちゃっと、シュートはたった今剥がしたもの…板倉の顔の皮を床に叩き捨てる。綺麗に剥がされたその顔の皮はリアルな顔面パックのよう。目、鼻、口、眉毛、睫毛まで全てくっきりと残っている。
そして皮が無くなった板倉の顔からは、血がボタボタ流れ落ちており、まるで人体模型の様相である。
「あ~~~ははははは!嘘偽りの無い顔になったじゃねーか!?その顔ならもう嘘偽りない自分をちゃんとみせられるんじゃねーか?人を平気で貶めるようなお前に、ぴったりの面だぜ?良かったなぁ…くく、くはははははははは!!」
「う………あああああああ…!!こんな………酷い、酷いよ……痛っ!痛い、痛いよぉ………」
激痛に加えて醜くなった自分の顔を晒された板倉は声を上げて涙を流す。しかしその涙が剥き出しになった顔に沁みて激痛を呼んでさらに苦しむことに。絶え間無い地獄の痛みに板倉は声にならない悲鳴を上げ続けるのだった。
「う、わぁ……」「ひ、ひでぇ…!」「う、おぇ……無理、吐きそう」「お、俺も……」「ひ、人の皮が、あああああ……!」「あんなの、あんまりだよぉ……」
女として死んだ板倉ねねの悲惨な姿を目にしたクラスメイトたちは、目を逸らし(以下略)
「ああそうだ。先週こいつの仲間に、俺がストーカー行為をしてるよう見せかけた写真や動画を撮らせてたんだっけ。そいつは確か………いた」
シュートはクラスメイトの群れをきょろきょろ見回して、一人の女子生徒(花柄の髪飾りをおでこ付近に付けている)を発見して、睨みつける。睨まれた彼女は顔を蒼白させて全身を硬直させる。すぐさまに彼女のもとに立ったシュートは脅すように話しかける。
「先週俺を撮った時に使った携帯電話を出せよ」
板倉の仲間の女子生徒は脂汗を流しながらポケットから携帯電話を取り出す。シュートは咄嗟にそれを奪い取って床に叩きつけて、さらに足でそれを粉々に踏み砕くのだった。
「現物はこれで消滅。それで、お前が撮影しやがったあのデータ、パソコンとかに保存してたり裏掲示板とやらにも出してたんだよなぁ?今すぐ消せ。今日中に消してなかったら、お前もあの嘘告クソ女の仲間入りになるぞ」
板倉に指を差して、さらに女子生徒の髪を乱暴に掴みながら殺意を込めた声で脅す。シュートの殺意がこもった「威嚇」に当てられた女子生徒は泡を吹いて気絶した。
「ふぅ…。復讐すべきクズどもは、これであらかた潰せたかな。いや~~~最高の気分だわ!自分をどん底に落とした人間のクズどもを、自分の手でぐちゃぐちゃに壊すって、めちゃくちゃ気分爽快!これが最近よく聞く“ざまぁ”ってやつ?」
シュートは心底楽しそうに笑い続ける。彼が笑いながら立っている場所はまさに惨状を極めていた。シュートの復讐で壊されたクラスメイトが五人以上。その五人とも筆舌に尽くしがたいレベルの損傷を負っており、放っておくと死に至るおそれすらある。
そんな猟奇的な暴行を何人にも強いたにも関わらず楽しそうに笑っているシュートを、教室にいる生徒たちや担任誰もが恐怖し、戦慄し、気味悪がっていた。シュートは今も、顔の皮を剥がされて激痛に苦しんでいる板倉を見て笑っている。
そんな板倉ねねに、一人の女子生徒が駆け寄っていく…紅実である。彼女はソフト生地のタオルを取り出して、板倉の顔に当てて血を押さえはじめる。クラスメイトたちにタオルやハンカチを持ってくるよう頼み、借りたそれらも使って板倉の顔を外気に触れないようにした。
そして、自分に目を向けているシュートに、悲痛な面持ちで呼び掛けるのだった。
「シュート君、もう止めてほしい……」