「次ぃ~~~」
そう呟きながら、シュートは教室をぐるりと見回す。その際クラスメイトのほとんどが彼と目を合わせないよう必死に逸らす。シュートはしばらく見回したのち、一点の箇所に目を留める。
隅っこで震えている女子生徒…板倉ねねである。彼女もシュートの復讐対象に入っている。現実世界での先週、シュートに嘘告白をして騙して心を弄んだことに加え、彼がストーカー犯であるという濡れ衣を着せて陥れたりもした。
「中里たちと一緒なって俺をどん底に叩き落として嘲笑った、最低の女狐が…っ」
ぎりり…と怒りで歯を軋ませながら板倉の前に立つと、彼女はびくりと震わせて恐る恐るシュートを見上げる。
「あ、あの………その……」
「とりあえずまず最初にさ、お前の口からあのふざけた話が嘘だってこと明かせよ」
「ふ、ふざけた話って……?」
「………どこまで、とぼけるつもりだ……っ」
怒りで顔をしかめたシュートは近くにあった机を蹴り上げる。机は宙を舞って誰もいないところへ落下する。その音に板倉がびくりとする中、シュートから声を大にしてあの忌まわしい件について話す。
「何が、俺がお前のことストーカーしていた、だよ!?俺は一度だってそんな陰湿行為したことねーよ!よくも、中里たちとグルになってそんな噓八百の事案を学校中に広めやがって!先週の金曜から俺は無実の罪を着せられて悪者、ストーカー野郎扱いの誹りを受け続けてんだぞ!?」
「ひっ……、ど、怒鳴らないでよぉ……!」
「はぁ……?」
偽りの罪を被せられて激怒するシュートに対し、板倉はわざとらしく怯えて涙声で喋りだす。この期に及んでかよわい女を見せる板倉に、シュートの怒り・憎悪のボルテージはさらに増していく。
「まず、このクラス全員に、お前の口から正直に話せ。あれは自分たちがでっち上げた嘘だったって。俺が想像してた以上に馬鹿なこいつらやこの学校のほとんどの連中は、お前らのクソ下らなくて最低な嘘をまんまと信じてやがるんだぞ!?」
まぁ半分以上はこのクズどもの悪意に進んで乗っかったんだろうな、とシュートは心の中でさらに毒づく。
「う、うぅ…分かったわよ。
みんな聞いて、先週私たちが流した、三ツ木君にストーカーされてたって話。あれは私たちがつくった嘘なの。裏掲示板とかに書いてることもほぼ全部嘘だったの」
「ほぼ?他に書いたことって何?」
「そ、それは……三ツ木君が私に告白したこ――」
「それも全く違ぇだろ!お前が俺を呼びだして、告白してきたんだろうが!しかも、嘘の告白だった!」
「ひぅう……!」
怒鳴ると板倉はまたわざとらしく怖がって縮こまる。その演技くさい態度を見たシュートは確信する。こいつ全然反省なんかしていない、と。
一方、板倉自身から明かされた真実を聞いたクラスメイトたちは驚きを含んだざわめきを漏らす。あの学年人気ナンバーワン女子である板倉ねねが嘘の告白で騙したり嘘の罪を被せて人を陥れようとしていたことに誰もが衝撃を受けていた。
「で、でもさ……今の話も三ツ木に脅されてそう言ってるだけなんじゃ……」
「あー、言えてるかも」
ポツリとこぼれた誰かの発言を聞いたシュートは声が漏れた方を睨みつける。
「今、ふざけたことほざいた奴、誰だ?」
全員の心胆を震わせる程に響いた怒声に、教室内はシーンと静まり返る。シュートのどす黒い怒りに当てられて誰も何も言えないでいる。
「………いいさ。本人が違うって誤解を解いてるのにそうやって曲解しようとする馬鹿どもに、何言っても通用しないだろうし。腹いせに後でそいつらを壊せばいいか」
シュートの言葉に数名が息を詰まらせる。そんな中、板倉は目に涙を溜めながらシュートに謝罪の言葉を告げる。
「み、三ツ木君!本当にごめんなさい!軽い気持ちで酷く傷つけてしまって、すごく反省してます!」
「後原と同じかよ?軽い気持ちとか魔が差したとかのやつ。先週お前に言われたこと忘れてねーからな?告白を本気にした俺を馬鹿すぎるとか気持ち悪いとか言って……」
「だ、だから…ごめんなさいって……」
「俺を虐められっ子の底辺男ってゴミみたいに見下して、」
「ご、ごめんって………」
「ただ面白いとかそんな理由で、悪いことしていない俺の気持ちをおもちゃみたいに弄んで楽しんで……」
「~~~っ!う、うるさいのよ!さっきから!!」
板倉は我慢の限界とばかりにシャウトした。紅実たちはギョッとして彼女の方を見る。シュートは不愉快げに板倉を睨みつける。
「さ、さっきから前に言われたことを掘り返して、何なのよ!私ちゃんと謝ったじゃない!後原とかだってそう!あいつもちゃんと謝ってたのに、あんたは容赦無くズタボロになるまで痛めつけて!ちゃんと謝ったんだからもういいでしょ!?」
「………何が、もういいって?」
「騙してごめんなさい、嘘を広めてしまってごめんなさいって、一応加害者の私がそう謝罪して誤解も解いてあげたんだから、もう終わりでいいってことにすればいいじゃない!」
「だからさぁ、加害者側のお前らが、何勝手に終わらそうとしてやが……」
板倉の逆切れはさらにヒートアップする。
「大体何今さら暴れ出してんのよ!?だいぶ前から虐められてたんでしょ?だったらその時にちゃんとやり返してれば、こんなことにならなかったんじゃない!
あんたが騙されたり虐められたりするようになったのも、自分で解決できないあんたが悪いのよッ!」
「……………」
「何で私がこんな目に遭わないといけないの!?私はあんたなんかとは違うんだから!可愛くてキレイで、何もしなくてもみんな私を讃えてくれる。あんたなんかよりもずっと優れてるんだからぁ!!」
それだけ言うと板倉は叫ぶのを止めて肩で息をする。対するシュートは無言のまま、彼女に近づいていく。しまった言い過ぎた、と板倉は今さら後悔する。これでは自分も中里たちと同じ目に遭わされる…それをひどく恐れた板倉は、また媚びる態度をとりだす
「ご、ごめんなさい!カッとなって言い過ぎちゃって…。で、でも相手がちゃんと反省してるなら、過去のことは水に流していい、っていうか……」
プチン シュートの中で糸が切れた感覚がした。