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「あんな裏切り絶対に許さない」

 中里や谷本たちに復讐していた時と同じ、悪魔のような形相で笑うシュートがいたのだった。


 「………ひっ!?」


 そんなシュートの豹変を目にした板倉は思わず足を止める。紅実たちも同じく再び豹変したシュートを見て酷く戦慄する。


 「へ……え?え??」

 「いや、え?じゃなくて。さっきまでのあれは、う・そ ってこと。

 許すわけねーじゃんっ」


 ボゴォ「う……ごぉ!?」


 そう言い終えたと同時に、シュートは後原に思い切り腹パンをくらわせる。先程までの弛緩していた空気が再び険悪なものに戻る。


 「いやぁ~~見事に騙されてやんのお前ら。笑えるわ。昼休みお前を痛めつけなかったのは単に時間が足りなかっただけ。はじめからお前も中里たちと同じくらい壊す気なんだよ、クソ野郎」


 そう言ってからシュートは後原の胸倉を掴んで軽々と持ち上げる。シュートが自分に対して怒り狂っていることを理解した後原は泣き喚き出す。


 「うわあああ!?そんな、許してくれるって……う、嘘!?」

 「悪気はなかった?魔が差した?もう反省している?あれだけ楽しそうに俺を甚振っておいて、よくもまぁペラペラと嘘を言えたなぁ?」

 「ひぃええあああ!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい―――」

 「謝罪の言葉なんてもう要らねーんだよ。どうせその場逃れの為の、その場限りの空虚な謝罪なんだろうからさ。

 お前本気でごめんなさいなんて思ってねーんだろ?」


 ぎゅうう、と胸倉を掴む力が増して首が絞まりだして、後原は苦しそうに呻く。シュートが後原が心から謝っていないことを、スキル「看破」で見破っていたのだった。シュートを甚振っても楽しくなかった、が嘘だったのだ。


 「お……え”ぇ!ほ、本当です!本当に申し訳ないって、思ってます…ぉえ!お願い信じて――(ベキィ)――いぎゃあああああ!?」


 耳障りな言葉を黙らせるべく、シュートは必死に言い繕おうとする後原の前歯をつまんで、乱暴にへし折った。欠損箇所から血が噴き出てその痛みに絶叫する後原を見て、シュートは面白そうに笑い出す。

 しかしすぐに、その顔は憤怒の形相へと変わりだす。


「とりあえず言っておくか―――テメーよくも裏切りやがったな!善意で中里たちの虐めから助けてやったのにその見返りがその中里たちの仲間に入って俺を虐めだすとか何なのお前!?しかもたいそう面白そうにして俺を容赦なく痛めつけやがったな!楽しかったか!?虐めから助けてもらった恩を最悪の形で返したことは!なぁどうだったんだ!?楽しかったんだろーな!?この最低裏切りクソ野郎が!殺してやりたい気分だよこっちは!


 あんな最低な裏切り、絶対に許さねぇ!!」


 シュートは内に溜まっていた憎悪の言葉を出しながら後原の首から下の全身を殴り、殴って、殴りつけて、殴りまくった。一ミリの容赦も無い憎悪の拳が後原を壊していく。怒りに任せてはいるものの殺さないようスキルは発動しないでいる。

 それでも絶え間ない殴打を浴びた後原の肋骨は骨折および損傷、肩・腕・脚の複数の骨は複雑骨折・開放骨折、損傷あるいは剥離、内臓のいくつかは破裂あるいは損傷と、どの箇所も壊れてしまっていた。

 骨や内臓を砕き・壊す音が響き、後原の口から何度も吐き出される血に、紅実たちは再び目を閉じるあるいは逸らしたり耳を塞ぐのだった。


 「ひ……いぃ……っ」


 シュートの本性を目の当たりにした板倉は、さっきしようとしたその場凌ぎの謝罪と告白を諦めて、再び隅へ引っ込んだ。同時に恐れてもいた。次は自分かもしれない、と。

 やがて殴打の嵐が止んで、シュートはまたペンチを取り出して後原の爪や歯を剥がしにかかる。


 「俺は心底後悔してるよ、お前なんかを虐めから助けてしまったことを。以前からそれなりに喋ったり一緒にお昼食ったりして友達だと思ってたのに、恩を仇で返す最低のクソ野郎だとは思わなかったよ」


 お喋りしながら慣れた手つきで足の爪と手の爪を剥がすシュート。その間後原の絶叫が絶えることはない。


 「けど、お前のお陰で学んだことがあったわ。

 他人を善意で助けるという正義なんて、クソ喰らえだってことだ。他人を思いやっての正義を振りかざすことは何の為にもならない。むしろ損をすることばかりだ。この俺が良い例だ。お前が教えてくれたんだよな、他人を助けることがクソだってことをさぁ!」

「あ、あああああああ―――(ぐりっ、ぼちゅう…っ)――げあ”あ”あ”あ”あ”っ」


 シュートはそう述べて笑いながら、後原の奥歯を何本も引っこ抜いた。そんなシュートが叫んだ今の言葉を聞いた紅実は、胸を痛めていた。


 (あのシュート君が、そんなことを言うなんて……。進んで誰かを助ける、正しいことを率先して言ったり行動していたシュート君は、もう……。

 中里くんたち虐めの主犯グループが、彼をあんな風に変えてしまった。

 いや違う……何もしてあげられなかった私や、見て見ぬふりをしていたクラスのみんな、虐め問題を提示しなかった青野先生も、みんなが間違ったことをしたから、今のシュート君になってしまったんだ)


 紅実だけがひどく悔やんでいた。自分に出来たことがもっとあったはずなのに、と。


 「はははははは!自分を散々虐めてきた相手を存分に壊すのってやっぱ面白いなぁ!」

 「い、嫌だ……目は止め――(ぐりぃ、ぐぼ、ずちぃ……)~~~~~うbcべくえtりっっ」


 命乞いの言葉も空しく、ペンチで右目を抉り、潰されて地獄の痛みを味わいながら、後原は心底後悔していた。自分が中里たちに屈してシュートの虐めに加担してしまったことを。シュートがこうなってしまったのは自分のせいでもあると。自分がしでかしたことに今更ながら後悔して反省するのだった。


 「はぁ、後悔とか反省とかしたって、もう遅いんだよゴミクズ野郎」 


 全ての工程を終えたシュートは、壊し切った後原健を持ち上げて、黒板の方へ投げてそこへ叩きつける。近くにいた青野は情けない声を上げて、隣にある掃除ロッカーに入ってそこで震えるのだった。


 「次ぃ~~~」


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