冷や汗を流しながら尋ねてくる紅実の方を見るシュートは、ニヤァと笑う。その顔は今朝の休み時間に見せた時と同じ、口を三日月のような形に歪めて、悪だくみをしているようなもので、
「 復讐の 続きだよ 」
と楽しさを爆発させたようなテンションで答えるのだった。
「ふ、復讐……?」
「そう。委員長も他のクラスメイト連中も、そこのクソ担任もとっくに知ってると思うけど、俺は今までそこにいる
中里たちを指差しながらシュートはこれまでの虐めのことを全員に聞こえるように説明していく。
「やっぱり、君は今までそんな酷い虐めを受けていたんだな……中里君たちから」
「そう。そのことをそこのクソ担任や生活指導の先生なんかに何度も通報しても、だーれも虐め事件として取り扱ってくれなかった。どうしてだと思う?
単純な話、汚い大人たちは自分に責任が回るのが嫌だから、保身が大事だからって虐めのことを大事にするのを避けたんだよ……!この学校自体が、俺があいつらに虐められてることなんか無かったことにしようとしてるんだよ!」
次第に感情的になって怒りがこもった声で告げるシュートに、紅実は手で口を覆う。虐められてることは薄々気付いてはいたがここまで酷いことになってるとは思いもしなかったのだ。一方の青野は自分のことを言われて肩身を狭くさせている。同時にシュートをどう言い負かせ、クラスの生徒たちをどう説き伏せてやろうかと言葉を考えてもいた。
「俺は確信したんだ。この学校に任せてはダメだ。中里たちへの然るべき処罰を待ってるだけじゃ俺は報われない。だったら俺がこの手で直接、あいつらに然るべき罰を下すべきだ。そもそも自分が散々酷い目に遭わせられてきたんだから、その仕返しは自分自身でするべきだろ?
だからまずは今日の昼休みに早速、虐めの主犯の中里たちに少しだけ、今までのことへの復讐を実行した!」
紅実や他のクラスメイトたちは中里たちに目を向ける。三人とも包帯だらけで痛々しい様相である。これらを全て、あの三ツ木柊人がやったのか、と全員改めて衝撃を受けるのだった。
「な……私は確かに聞いたぞ!?三ツ木、お前は今自分の口からはっきりと、中里君たちに暴力行為を行ったと言った!その件と、先程からの教師に対する態度と言動、この騒ぎを起こした事全てこの後校長に報告を―――」
この状況で尚もシュートの問題行動を指摘して彼を停学もしくは退学処分にかけようとする青野。そんな男の言動にシュートは苛立ちに満ちた目を向けて、
「 お前はもう黙ってろ 汚くて最低の大人野郎 」
ゴオォ―――ッッ 「ぐは、、ぁ……」
青野に向けて風の魔術による空気弾を飛ばして、青野を黒板に貼り付けるかのようにそこへ叩きつけた。青野は何が起きたのか分からず、見えない力に対する恐怖でパニックを起こす。
空気弾の風圧で教室中が少々散らかる。クラスメイトたちが使っている机や椅子は乱雑に倒れており、ノートや教科書、文房具も床に散乱していた。
「せ、先生が今、吹っ飛ばされてなかったか!?」「でも三ツ木は離れたところにいるぞ!?」「え、何?超能力!?」
土砂の出現に続く常軌を逸する現象に教室内は再びパニックに陥ろうとしている。
「ほんっっと、お前は自分のことしか考えられない汚い大人の模範野郎だよな?大企業の偉い会長の息子を庇うことで自分の地位を守ろうとする。何の地位も無い俺を排除することで解決しようとしやがって……」
ギロリと、殺意がこもった目で、
「 ぶち殺すよお前 」
その一言と同時に再びスキル「威嚇」が発動。怒りがトリガーとなって発動されたそれは前よりも強力なもので、教室にいる全員がその威圧感に押しつぶされて、誰一人声を発することすら封じられる。
(―――――)
紅実も息を詰まらせて床にへたり込んでしまう。冷や汗を流して半泣きになった目でシュートを見つめる。彼女が知っている彼はもういなくなってしまった、と思うのだった。
「威嚇」を解除して深呼吸するシュート。押しつぶされそうなプレッシャーから解放されたクラス全員のほとんどが床に座るように倒れていく。
昼休みに散々甚振られた中里・谷本・大西は、教室の中心で床にへたり込んでいる。昼休みのことを思い出した彼らは目と鼻から体液を流し、恐怖で全身を震わせている。中里の同じカースト上位のクラスの男子も数人、同じようにへたり込んで怯えている。
中心地にはさらに板倉も同じように床に倒れている。学年一の美少女ともてはやされている彼女の整っていたはずの顔は、豹変したシュートへの恐怖ですっかり歪めてしまっている。先程の強気な態度は完全に引っ込めている。
そして青野は真っ青な顔を盛大に引きつらせて背中を黒板にへばりつけて震えている。
2のAの教室の支配権は今、シュートの手に完全に握られている。
「ふぅ……続きはどこからだっけ」
この状況をつくりあげた本人のシュートは、教室にいるクラスメイトと担任教師全員にゴミを見るような目を向ける。
「まぁいいや。じゃあ宣言通り、復讐の続きをしようか」