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「復讐の 続きだよ」

 午後の授業が始まるギリギリの時間にシュートは教室に戻って席についた。チャイムが鳴って教師が教室に入ると同時に後原も後方のドアから入って着席する。その際彼が顔を真っ青にして体を微かに震えさせているのを、クラスメイトたちは不審に思った。


 (後原君、何かにすごく怯えている……どうしたんだ?それと、シュート君は……何事も無いように見えるけど、昼休みはどうだったんだろう?)


 昼休みに委員会の用事があった紅実はシュートの動向について一切知らない。昼休みに彼女も屋上へ訪れていたのだが、扉が固く閉ざされていたのを理由に、早々に諦めて教室に戻っていた。


 「ん?中里君は欠席か。体調不良で保健室にでもいるのかな」


 中里の席が空いているのを見た教師はそう判断して欠席扱いにする。同時に後原から大量の汗が流れ、シュートは面白そうに笑うのだった。


 (昼休みに、いったい何があったんだ…?)


 二人の様子を見た紅実はますます疑問に思うのだった。



 それから午後の授業が全て終わり、帰りのホームルームが始まった頃、2のAに衝撃の事態が訪れる。


 「え……?中里君?」


 クラス担任の青野が連絡事項を告げようとしたところに、後ろのスライドドアから後原に連れられた中里が入ってきた。クラスメイトたちが衝撃を受けた理由は単純、中里の姿がとんでもないことになっていたからである。顔だけは無事であるものの、首から下のあちこちに包帯が巻かれており、どう見ても重傷患者である。

 さらに何故か違うクラスであり中里と同じ不良グループとして知られている谷本と大東も同じ状態で教室に入ってきたのだ。


 「おい、中里の体、どうして包帯だらけなんだ?」「知らないよそんなの」「ていうか何で谷本と大東も来てるんだ?」「後原以外の全員が包帯巻いてるぞ?」「え?喧嘩してたの?」「何がどうなってるんだ?」


 クラスメイトたちは困惑の言葉を口々に出して戸惑っている。中里たちは無言のまま、そして怯えた様子で教室に入って後ろで佇んでいる。


 「な、中里君!いったいどうしたんだ!?それに谷本と大東がどうして入ってくるんだ?まだホームルームが終わって―――」


 ガタンッ


 青野が中里たちにいくつか問いかけようとしたその時、シュートが言葉を遮るようにして席を立ち、後原の方に目を向ける。


 「ちゃんと三人を連れて来たな。もし言いつけを破ってたら手足のどれか一本を千切ってやるとこだった」

 「……っ!ひ、ぃい……っ」


 シュートが笑いながらそう言うと後原はビクビクして震えだす。その異様なやり取りを見たクラスメイトたちはシュートが関係していることを知る。


 「し、シュート君?中里君たちをどうし――」


 紅実がシュートに問いかけようとしたその時、教卓にいる青野が苛立たしげに呼び掛ける。


 「三ツ木!中里君たちの大怪我について何か知ってるようだが、いったい何をしたんだ!?」


 青野はシュートが問題を起こしたと決めつけ、彼が全て悪いことにして職員会議に持ち出そうと決めている。シュートが何を言おうが彼が十割悪いということに済ませようとしている、いつものように。

 さらに今朝のシュートの自分への態度のことも許せないでいた。

 またいつものように中里たちが自分を暴行したんだ、と必死に弁解しようとするシュートを想像してどう言い潰してやろうか、と彼の言葉を待つ青野を、


 「 黙ってろよ クソ担任 」


 ―――――


 「「「「「~~~っっ!?!?」」」」」


 シュートはただのひと睨みと一言で黙らせ、青野含む全員をスキル「威嚇」でねじ伏せる。シュートの豹変に誰もが驚愕し、気圧されて身動きがとれなくなった。


 「………!し、シュート君……!?」


 皆と同じ縛り付けられたかのような感覚に襲われている紅実は困惑と恐怖が混じった目でシュートを凝視するが、当の本人は気にも留めていない。


 「このホームルームは今から、俺が取り仕切る。題材は…俺が今まで受けてきた虐めに対する復讐、ってことで」


 復讐という言葉を耳にした中里グループはビクリとさせて顔を恐怖で引きつらせる。


 「ね、ねぇ!さっきから何なの!?これ全部三ツ木の仕業なわけ?気持ち悪いからさっさと止めてほしいんだけど!」


 困惑や不安が飛び交う中、板倉ねねがそれらの感情を不快感に対する怒りで押さえながら、シュートに向かって叫ぶ。彼女の中ではシュートは今も格下の存在であり、自分が彼を貶めてやったとマウントを取り続けている。彼が妙なことをしているのは不気味だが自分が一喝すれば止めさせられるだろうと思い込んでいた。今までもこれからも自分が学校の中心的存在にある、と思っている故の傲慢な態度の表示である。

 そんな板倉に対しシュートは一瞥をくれるだけで、彼女を無視すると教室のスライドドアに土の魔術による土砂を積もらせて、教室を密室状態にする。突然の土砂の出現、それもシュートがそれを実行したことに全員さらなる衝撃を受ける。板倉もシュートへかける次の罵声を出すのも忘れて唖然としている。


 (どうなってるんだ!?シュート君の手から土砂がたくさん出てきたように見えたけど……っ)


 紅実たちは自分の目を疑わずにはいられなかった。2のAの生徒たちと担任教師は今、非日常の出来事の中にいるのだと自覚する。


 「これでよし。途中退出するのは絶対に許さない。全員、ここにいてもらう。連帯責任だ」


 ドアの封鎖を終えて自分の席へ戻るシュートに、今度は紅実が声をかける。


 「シュート君、色んな事が起き過ぎてどこから尋ねたらいいのか分からないけど、まずはこれだけ聞かせてほしい。教室を封鎖してみんなを閉じ込めて、君はいったい……何をするつもりなんだ?」

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