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「これが俗に言うテンプレ展開」

 中里たちが先に屋上へ入るのを見計らってから、シュートも屋上へ続く階段を上がって行く。そして扉を開けて屋上へ入る。初夏の季節であることから日差しが当たると暑く感じる気候の中、屋上にはシュートの狙い通り既に中里たち同じ二年の不良グループが揃っていた。


 「お、おいマジかよ…!?あれが本当にあの負け組三ツ木なのか?」

 「冗談だろ、別人過ぎるじゃねーか!?」

 「それな、マジで変わりすぎじゃん!?」


 谷本と大東をはじめとする不良生徒たちは、屋上にやって来たシュートを目にすると2のAの生徒たちと同じようなリアクションをする。皆がしきりに中里と後原にあれがシュートなのかと確認しても、二人はそうだとしか言えなかった。


 (……………)


 中里たちのところへ向かう間、シュートの中に思うところがあった。

 中里たち虐めグループの顔ぶれを目にして最初に感じたことは、先週まで虐められていたことに対するトラウマだった。今朝のホームルームでも、中里に絡まれた時本当は少し萎縮していたシュート自身がいた。


 (………うん。やっぱりもう大丈夫だ)


 しかしそれはすぐに別の感情へと塗り替わる。どす黒い怒りや憎悪といったさらなる強い負感情へと。虐められていたあの頃とは違う。心はもう萎縮していない、虐めに対する恐怖心はとっくに消えていた。

 今はただ、理不尽を散々強いられてきたことへの圧倒的な怒りと憎しみがシュートの背を押し続けていた。奴らに復讐せよ、惨たらしい仕返しを為せ、と。


 (絶対に許しちゃいけない…。全員、殺すギリギリのところまで痛めつけて苦しませてやる。そして自分たちがどれだけ許されないことをしてきたかを、思い知らせてやるんだ…っ)


 ギリ…ッと、閉じている口の中で歯を強く食いしばるシュートに、中里たちは余裕に満ちた態度を見せてヘラヘラしている。


 「ははっ!いつもはビビった顔して俺たちのところにくるのに、今日はなんかカッコつけてねぇか?整形してそんな顔になったからか?

 ―――ムカつくんだよおい。弱い三ツ木のくせに」


 ヘラヘラして馬鹿にした態度から一転、中里は心底不愉快そうにした様子を見せた。握る拳が怒りで震えている。


 「今朝のあれは何だよ?担任の先生に虐めのこと思い切りバラしやがって。まぁこの学校じゃあ底辺のお前があれだけ言っても、あの馬鹿なセンコーはお前のこと全く信じようとはしなかったけどな。

 おれは大企業の会長の息子で、社会的地位がお前や他の誰よりも高い!優等生の俺と負け組底辺にいるお前、どっちが信じてもらえるかなんて分かり切ってたけどなぁ!」


 煽り調子でシュートを罵倒して笑うと、谷本たちもつられて笑い出す。


 「ピーピーゲラゲラうるせーんだよ、人間のゴミクズどもが」


 そんな中、静かな池に一石を投じるかのように、シュートはぴしゃりと言い放った。


 「……………何だと?」

 「その耳腐ってんのか?うるせー人間のゴミクズが、って言ってんだよ。分かる?」


 今度はシュートが中里たちを煽りはじめる。自身の耳を指でトントンと叩くシュートの態度に、中里たちは顔を怒りに歪めていく。


 「さっきからムカつくっつってんだよその態度!整形が成功したからって何調子に乗ってるわけ?そんな姿になってもお前は俺たちに虐められてるゴミムシのままなんだよ!」

 「徒党を組んで一人に寄ってたかって暴行するお前らの方がよっぽど最低のゴミムシだろうが。特にお前のこと言ってんだよ中里。

 口を開けば“俺は大企業の会長の息子だ”ばかりほざいてばかり。偉いのはお前の親だけで、お前はそれに縋りついてるだけの、七光り野郎だろうが!」

 「………今日はよっぽど、いつも以上に痛めつけられいたみたいだなぁ」


 中里がシュートとの距離を詰め始める。まずは自分が先だってシュートを徹底的に痛めつけるつもりだ。


 「今日はそのウザい顔面も狙ってやるよ。せっかくの整形顔を台無しにしてやる。それで、醜く腫れ上がったお前の顔と無様な姿を撮って裏掲示板にでも晒してやるよ」


 中里の言葉を聞いた仲間たちが、これから起こるショーを録画しようと、携帯電話を取り出す。それでシュートの醜態を撮影して、ネットに拡散して楽しむつもりなのだ、とシュートは確信する。谷本たちに目を向けると彼らは下卑た笑みを返す。


 「撮影されるからってカッコつけるのは良いんだけどさ。やるならお前一人じゃなくてこのクズども全員でかかってきた方が良いよ。これ忠告な」

 「は?カッコつけてんのはテメェだろ?いつまで気取ってるつもり?」


 中里が拳をぶつけられる範囲まで近づいた中、シュートは頭の中で中里たちにどう復讐してやろうかといくつもシミュレートしていた。


 (まずは力の差を思い知らせてやろう。好きなだけ殴らせて蹴らせてやる。当然何もしないわけじゃない。スキル“剛体”で体を頑丈にさせておく)


 そう決めて「剛体」を発動した直後、中里がシュートの腹に容赦の無い蹴りを入れた。サッカー部で鍛えた彼のキック力は強力で、今までのシュートだったら激痛に悶えて地面にうずくまっていただろう。


 ガンッッ 「~~~っっ!?い、てぇ……!?」


 しかし結果は、シュートには全く痛みがおとずれることなく、反対に中里が蹴った足を押さえて痛みにのたうち回ることとなった。予想外の事態に谷本や大東、後原は驚愕に目を見開いている。

 なんて途轍もなく遅い蹴りなんだ、とシュートはそう思わずにはいられなかった。正直今までこんな攻撃を受けて何でダメージを受けてたんだろう、とさえ感じられずにもいられなかった。それだけ異世界での体験がシュートを途轍もなく強くさせていたのだ。


 「この……腹に何か仕込んでるな!?だったら顔だ―――!」


 痛みに堪えながら中里は起き上がると、固く握りしめた拳でシュートの顔面を殴りつけた。その結果は先程と同じで、殴った方の拳を痛めるだけに終わる。殴られた側のシュートは倒れるどころか痛がる素振りすら見せない。実際にダメージは0か1くらいしか受けていない。


 「な、んだよこの、硬さ……!?なんで、ビクともしねぇんだ!?」


シュートの頑丈さに困惑している中里は谷本たちにシュートへの攻撃を指示する。中里の様子を不審に思いながらも彼らは動いてシュートを取り囲む。またいつものように集団暴行して無様な格好にしてやろうと、彼らはこの時余裕に浸っていた。まさか自分たちがこの後、かつてのシュートと同じ立場になると思いもせずに。


 「さっきから聞いてりゃあさぁ、今日の三ツ木マジでムカつくんだけど!ねねちゃんをストーカーしていたクズ野郎がさぁ!」


 谷本がシュートの頬めがけて拳を振るってくる。飛んでくる拳にシュートは迎え撃つように、自分の額をぶつける。その結果、谷本の拳がひしゃげて、指が全て脱臼した。


 「えぎゃあああああ!?ゆ、指がお、折れ……!?」

 「ストーカーはお前らがでっち上げた嘘だろうが」


 シュートの前で右手を押さえて痛みに呻く谷本を、冷徹な目で見下す。中里と谷本のやられ様を見た大東は焦るが、他の仲間たちと一緒になって攻撃にかかる。仲間たちに紛れた彼は、部活で使うバットでシュートの脛部分を殴りつける。シュートの体に拳や蹴りをぶつけた他の不良たちはその部位を押さえて痛みに悶え、バットで殴られてもビクともしないシュートの反応を見た大東はどうしてだと何度も繰り叫ぶ。繰り返しバットを振り続ける大東を鬱陶しく思ったシュートは蠅をしっしっと追い払うように、バットを手で払う。その勢いに負けた大東は後方へ飛んで転がるのだった。


 (ああ、ヌルゲー過ぎる)


 この時点でシュートが思うことはその一言に尽きる。ここでの戦い…というより喧嘩など、今の彼にとってヌルゲー以外の何ものでもなくなっている。ゲームのチュートリアル戦にすらならないレベルだと、呆れるしかなかった。同時に言葉に表せないくらいの怒りに苛まれる。こんな雑魚どもに自分は今までこいつらのいいように痛めつけられていたのか、とかつての自身の無力さに腹を立てる。


 (けどそんな日々はもう終わったんだ……!)


ここまでくれば中里たちはシュートがおかしいことに気付く。同時に得体の知れない恐怖に駆られてもいた。


 「なんで……俺たちが疲れて、傷を負ってんだよ……!?」


 これは偶然だ・何かの間違いだ、と自分に言い聞かせながら、中里は不良たち全員でシュートへ攻撃にかかるその際彼だけはメリケンサックを嵌めて殴りにかかった。

 なんでそんな物を学校に持ち込んでるんだよ、とシュートは呆れながら、谷本たちの攻撃を躱して、最後に中里の攻撃を、メリケンごと拳を掴んで止めてることで防いだ。そして握る力を強めて、メリケンだけを砕いた。

 その異常な現象を目にした中里が唖然とする中、防御と回避だけに飽きたシュートは中里の拳を掴んだまま、





 「 次は 俺の 番 だな 」




 ニイィ…と待ちわびたと言いたげに嗜虐的な笑みを浮かべた。その直後――



 ――――――ゴッッッ

 「ぉぼ、えぇ……っ」


 中里の腹につま先蹴りを放って、後方へ吹っ飛ばしたのだった。それは中里が最初にシュートに蹴りを入れことへの意趣返しだった。


 そこからシュートは、中里優太をはじめとする虐め主犯たちへの本格的な復讐を始めるのだった。


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