「あ”………っがぁ」
シュートに殴り飛ばされた大柄の不良は、顎が外れて喋れなくなっていた。
(な、何だこの力…!?いやそれ以前に、あのガキが“殺すぞ”って言った瞬間、マジで死ぬかと、思った……っ 何だよあれ、絶対誰か殺したことあるだろ……!?)
殴られる直前に襲ってきた未知の力を思い出して体を恐怖で震わせる。まるで首元に死神の鎌を突き付けられていたかのよう。自分たちが報復しようとしている相手がとんでもない化け物であると、今さら気付くが、彼らはシュートが許さない限りもう逃げることが出来ない身となっている。
「あ、あの先輩がぶっ飛ばされたぞ!?」
「嘘だろ!?体重100kgはある巨漢なのに……っ」
「つーかあいつ本当に中坊なのかよ!?」
集団のリーダー格の不良が簡単にぶっ飛ばされたことに浮き足立つ不良たちだが、手にしている武器がある限りまだ有利だと思い直す。
「調子に乗るんじゃねぇええ!!」
一人の不良がバットを振り回してシュートに突撃しようとする。それを見たシュートはつまらなそうに溜め息をついていたが、接近間近まで来たところで不良が手にしていたバットを突如投げつけてくるのを目にした途端おっ、と目の色を変える。躱せる速度であり躱せるだけの反射反応を持つシュートだが、これもあえて受けてあげた。
「おらぁ、この、クソガキがっ!!」
不意を突いたつもりの不良たちがここぞとばかりにバットや鉄パイプでシュートを滅多打ちしにかかる。5秒、10秒とリンチが続くがシュートが苦悶の叫びを上げることはもちろん、苦痛に顔を歪めることすらなかった。それどころか殴りつけている不良たちが徐々にスタミナ切れを起こそうとしていた。
「喧嘩慣れしてるな?投げつけてくるのは予想できなかった」
まぁしようと思ったらできたんだけど、とシュートは心の中で呟く。スキル「近未来予知」で今の行動も予測できたシュートだが、そんなものを使うまでもないと高を括り、あえてスキルは使わなかった。完全に舐めプ状態である。
やがて何もしないことに飽きたシュートは鉄パイプを一つ片手で受け止めて、一人の不良の動きを止めた。
「………(ヒュ――――ッ)」
そして空いている方の拳を鉄パイプに叩き込んだ。
――――ッ!!
激しい炸裂音。次の瞬間、不良が持っていた鉄パイプの半分から先が折れて無くなっていた。それを目の当たりにした不良たちは顔を凍り付かせる。速過ぎるあまり誰もシュートが今放った拳など視認出来ていなかった。もし今の拳が鉄パイプではなくそれを持っていた不良の手首だったら、ぐしゃぐしゃに粉砕していたことだろう。
ガッ 「ぐごぇ……!?」
シュートは鉄パイプを持っていた不良の胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げると、それを陸上競技の槍投げのように投げ飛ばした。
「ぎ、ゃああああぁぁぁ―――(ドキャッッ)っが、あ”あ”………っ」
受け身がとれないまま地面に激突した不良は、全身を痙攣させて藻掻き苦しむ。それを目にした不良全員が、恐怖に震えるのだった。
「に、人間業じゃねぇよ……っ」
「ひ、人をあんな風に投げるとか、化け物じゃねぇか……!」
ある者は後ずさり、ある者は腰を抜かしてへたり込み、ある者は震える手で武器を持つのもやっと……など様々だが、誰もが最初に見せていた威勢など消失していた。
「や、やってられるかよ!逃げるしかねぇよ!!」
「逃げるってどこに!?ここはどこなんだよ!?」
「で、出口を探せぇ!」
次第に蜘蛛の子を散らすようにシュートから逃げ出そうとする不良を、シュートは逃がさないとばかりに電撃の魔術(スタンガンレベルの出力)を全員に放って、麻痺させた。
「「「「「うごぇえ!?(し、痺れ……)(い、痛ぇ!?)(動けねぇよ!?)(た、助け……)」」」」」
その光景はゲームで例えるならば、パラライズ(麻痺呪文)で動きを封じられたモンスターたちのようだった。シュートはゴミを見る目を向けたまま、近くに倒れている不良の前に立つ。
「あ、あ………?」
無言で見下ろされて何をされるのか分からないでいるドレットヘアの不良は、怯えた目でシュートを見上げる。次の瞬間シュートはその不良の襟を掴むと、頭上に高々と持ち上げ、そこから不良を地面に向かって勢いよく叩きつけた。
ダァン!「ぐふぉ……!?」
その際シュートはこの不良が後頭部を強く打って即死しないよう、背中が激突するように叩きつけた。それでもやられた側にとっては深刻なダメージで、肺から空気が出る苦しみを味わわされた。
ダァン! ぐぃ、ダァン! 「ぐぼぉ!」「おげぇ!」
それは一回では終わらなかった。倒れているドレットヘア不良の襟首を掴んで引きずり起こすと同じように頭上に持ち上げ、同じように地面におもい切り叩きつけたのだった。それを二度、三度と繰り返す。
ドレットヘア不良は苦しそうな呼吸を繰り返し、地面に叩きつけられた時の挙動は殺虫剤を噴射されて足掻く虫のようだった。それから何度も宙を舞っては地面に叩きつけられる。
「く、ふははははは……!」
その間シュートは微かに笑っていた。自分がクズだと思う人間を、自分のこの手で存分に痛めつけて苦しめていることが、堪らなく爽快だと感じていたのだった。
「も”、もぉ、許じで……ぇ」
何度目かの地面の激突でとうとう体が耐えきれなくなり、ドレットヘアの不良は痙攣し、血が混じった泡を吹いて気を失った。
「これだよこれ!俺はお前らみたいなクズどもを、ゲームの雑魚敵みたいにこうしたかったんだ!良いな、良いなぁ!!」
堪え切れなくなって笑い声を上げるシュート。不良たちにとってそれは悪魔の哄笑にしか聞こえなかった。失神しているドレットヘアの不良の状態は、背骨と肋骨が数本折れており、意識を戻したとしても自分で起き上がることは不可能だ。
死んでいないのを確認したシュートはこれくらいの加減で大丈夫かと判断して、次の獲物を仕留めるべく歩き始めた。
地面に転がっている不良達を一人ずつ、つまみ上げては地面に叩きつけていくシュート。何度も何度も地面に叩きつけられる不良達は全員、骨が折れて血の泡を吹いて失神するまでその仕打ちを受け続けたのだった。
一人、また一人、地面叩きつけ地獄をくらっていく仲間を見て、不良たちは次は自分もああなると想像して全身をガタガタ震わせた。