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「異世界マイホーム」2

 「ぜぇ、ぜえ、はぁ………。ま、魔術の使い過ぎで体力が……」


 魔術の使い過ぎで疲労してしまい一時間程休憩。それから再び作業にかかる。用意した木に「作製」を発動して、家を建てる木材を造り上げていく。二階建てにする気はない為、大したサイズではない。

 完成した木材で家の骨組みを造り、家の外壁・外装も造っていく。それから中からコンクリートや木の壁を上手く使って内装も仕上げていく。


 (なんか……ところどころ間違った工程かもしれないけど、今は現実世界のちゃんとした家の完全再現までいこうとは考えてないから、こんなもんでいいか)


 外壁工事と床や内壁、天井といった内装工事、そして屋根工事も尋常じゃないスピードで仕上げていく。普通なら二~三ヶ月かかる工程を、シュートはわずか半日で完成させたのだった。もちろんプロの大工と比べれば不安定が残る出来となっているのだが、シュートにとっては満足いく出来だった。

 それから少し休んでから中の造作工事に取り掛かる。トイレ、キッチン、風呂、ベッド、照明具…今回は生活に最低限必要な物だけを製造した。

 土の魔術をフル稼働させていた為、いつの間にか土の魔術だけ高レベルなものへと進化していた。今のシュートなら錬金術を実行するレベルにまで進化したのだった。


 「(はぁ、はぁ、はぁ……)で、できた……!とりあえず、は……………(どさり)」


 夜が更ける前には中の様相もほぼ完成させるところまで進めたシュートは、疲労困憊の状態で木造のベッドに倒れ込んだ。


 「弱いモンスターと戦った時よりも疲れ、た………。寝具とかはまた今度、大都会とやらで調達しよ………zzz」


 そう呟いてから眠りにつくのだった。簡素で不安定さもあるが、シュートのマイホームが異世界の無人草原に建った。魔術さえあれば水道も電気も火・ガスも生成出来る為、生活費が全くかからない究極の自給自足の家が完成したのだった。



 翌日、家具を揃えるべく、大都市「コロッサン」にある店を回って寝具や食器、食卓に衣類などを購入した。それらを買う為のお金は今まで貯めていた使わないモンスターの素材と怪鉱石で余裕で工面出来たのだった。特にオーガの素材を見せた時は周りの人たちから大層驚かれたのだった。

 家の様相の完成も見えてきたシュートはご満悦といった様子で大都会からすぐ出て行った。


 「今日からまたモンスターと戦いまくって、力をつけよう。そろそろ元の現実世界での時間を過ごさないといけないし。

 何より、復讐したいしな……!」


 シュートが異世界に来て十日近く経っている。あまりこの世界に長く居過ぎると中学生で成長期であるシュートの見た目がまた変わる恐れがある。これ以上中学生離れした見た目になるのは元の世界では不便だろう、とシュートはそう考えている。



 家を建ててから約二日間、シュートは別の森や小さな洞窟などへ足を運んで多くのモンスターを討伐して、自身をさらに鍛え込んだ。


 あっという間に二日以上経ち、三度目の異世界転移から十日後、シュートは現実世界への帰還と元の世界での暮らしをしばらく続けることも決めた。出来たばかりのマイホームにしばらくの別れを告げて黒い渦巻きのところへ行こうとする。


 「今回はトッド村辺りに出現してたんだっけ。出来ればこの家から元いた自宅へ行き来したいんだけどな」


 そう独り言を呟いたその時、家の外から妙な音が聞こえてきた。不審に思って外に出ると、


 「いぃ……!?あの渦巻きじゃねーか!」


 異世界転移する為の黒い渦巻きが家の前に出現していたのだった。


 「もしかして俺がさっきあんなことを言ったから?それともただの偶然?まぁ今後もここを定位置にしてもらえばありがたいけど」


 そんな願望を口に出してから、シュートは現実世界へ帰還していく。


 「さぁ、準備は整った。明日から始まるんだ」


 「 今まで散々虐めをはたらいてきたクラスメイトどもへの 復讐が 」


 虐めの主犯である中里たちを復讐で壊すことを思い浮かべては、シュートは目を爛々とギラつかせるのだった―――






 大都市コロッサン。その中心地に存在する王城―――


 「………して、その村に凄腕のフリー戦士が滞在していたと、おぬしはそう言いたいのだな?」

 「はい。剣に長けており、杖を使うことなく魔術を放つことも」


 大きな椅子に座っている男は目の前で自身に畏まっている傭兵の言葉にピクリと反応する。


 「魔術を素手で放つ剣士だと…?そんな戦士がこの世に存在するというのか?」

 「この目で見た私自身ですら信じ難いことですが、今の言葉に嘘偽りはありません」


 傭兵…カロナは先日のことを思い出して汗を滲ませる。彼の態度を見た男は何か考える仕草をする。


 「トッド村と言ったな?そこに例のフリー戦士はまだ滞在しておるか?」

 「いえ…恐らくですが長くは滞在していないかと。既に別のどこかへ移動しているかと思われます」

 「行方は把握出来ず、か。まぁよい。そのような希少な戦士こそ、我が国の兵士に迎え入れたい。至急、トッド村に捜索隊を向かわせるよう指示を」

 「国王メテロ様の意のままに」


 男…メテロの後方に控えていた兵士が恭しい態度で応じた。彼こそがここシガネ王国の国王である。髪は短めの銀色、太い眉で鋭い目をしている。体は大きい割に体脂肪は少ない。若い頃は兵士だった時もあった身だ。


 「おぬしも大変興味深い情報の提供、大儀であった。カロナとやら」

 「恐縮です」


 カロナはメテロに一礼すると即座に退室していった。傭兵ダンデが盗賊にコンタクトを取っていた一方で、兵士の一人と繋がりを持つカロナはこうして国王たちにシュートのことをバラしたのだった。


 (あのガキの力は未知数……。奴がどうなろうが知ったことではないがあのまま自由に野放しさせておくのは癪に障る。王国に鎖で縛ってもらえれば少しは溜飲を下げられそうだ……)


 カロナはそんな考えを抱きながら王城を出て行った。



 自分の復讐を果たすべく元の現実世界へ帰ったシュートがいない異世界では、彼の思いもよらない事態が発生しようとしていたのだった―――

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