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「異世界マイホーム」

 夜、シュートたちが村で就寝している頃…森の中では―――


 「う、うわあああああ!?」

 「く、来るんじゃねぇえええ………!!」


 シュートが再起不能にさせた盗賊たちが、夜になったことで通常よりも強くなったモンスターたちに襲われているところだった。足を欠損している為逃げるどころか立ち上がることすら出来ない彼らは、レッドドッグに捕食され、スライムに飲み込まれて溶かされてしまうのだった。


 「ち、ちくしょう!あの傭兵野郎からの頼みなんか断れば良かったんだ………。こんな、ことになるなんて――――(グチャ………)」


 最後の盗賊もそんな言葉を漏らす途中、オーガに踏み砕かれたのだった。


 盗賊集団が最初に襲った村から遠く離れたトッド村へ襲いに行こうとしたのには理由があった。それは傭兵ダンデ(シュートが村で返り討ちにした傭兵)に頼まれたからだ。

 ダンデと盗賊は実は裏で商売仲間として繋がっていた。ダンデは元は盗賊出の傭兵である。先日シュートによって苦汁を舐めさせられたダンデは、盗賊を使って彼とトッド村に復讐するべく動いていた。

 その盗賊が為す術無く全滅したことをダンデが知るのは、彼らと連絡が取れなくなってからのことである。





 盗賊たちを全滅させた日から数日後、約束していた用心棒を務める期間が終わる日が訪れた。シュートにとっては待ちに待っていた日であり、今日の彼は幾分か機嫌が良い。


 「村を守ってくれてありがとうね、シュート君!色々あったけど、この一週間楽しかったよ!」

 「いえ、どういたしまして」

 「何だか嬉しそうね?用心棒の仕事が終わったことがそんなに嬉しいんだ?私たちからやっと解放されたーって思ってたり?」

 「い、いやそんなことは……」

 「ふふふ、なんてね!」


 からかいに成功したサニィは楽しそうに笑う。そんな彼女にシュートは微かに胸をときめかせていた。この一週間でサニィとはほぼ毎日一緒にいることが多く、親しい感情も当然芽生えている。


 (誰かとこんなに楽しくおしゃべりしたのはいつ以来だろう。学校で虐められる前は、花宮やクラスの男子たちともこんな風に仲良くしてたんだっけ。今はあいつら全員敵にしか思ってないけど)


 現実世界ではシュートは友達と楽しく会話などしていない。誰とも親しい交流などしていない。そうなったのは中里たちによる虐めが当然原因となっており、学校での孤立はかれこれ一か月以上も続いている。


 (もしここに新しい学校ができたら、そこに通うのも良いかも。ここの村の人間たちが集う学校なら元の学校よりは楽しめるんじゃないか?友達になれるかどうかは別として)


 そんな妄想をしながら身支度をして、仮家を出て村の入り口まで移動していく。サニィやテムジがシュートを見送りに来ていた。他の村民も何人かはいたが遠目に見ているだけだった。他の村民たちが距離を置いているのは、盗賊の件が関係していた。保護した子どもたちから事情を聞いたことで彼らはシュートのことを冷酷な人間だと評価して、近づきがたく思うようになった。


 「それで、シュート君は村を出てからもこの世界の探検?それとも君が住んでいる世界へ帰るの?」


 シュートに近づいたサニィが誰にも聞かれないよう小声でそう尋ねた。


 「そうですねー、少し探検しつつやってみたいことをやってから、元いた世界に帰る予定です」

 「やってみたいこと?」

 「まぁ、成功したらまたここに来て教えます」


 それからテムジともお礼と別れの挨拶を済ませて、シュートはトッド村を発った。


 「また村に来てね!シュート君ならいつでもどこからでも来られるってこと知ってるんだから!」


 最後にサニィはそんな言葉を大声で言った。それくらいなら異世界転移のことはバレないから大丈夫か、とシュートは苦笑して手を振ったのだった。



 村を発って森を抜けて、最初に訪れた時と同じようなだだっ広い無人の草原まで移動したところでシュートは一旦歩を止める。


 「………よし。この辺で良いかな」


 シュートが村でぽつりと言っていた「やってみたいこと」、それは異世界での自分の「家」を建てることである。異世界で自分が使う家…拠点が欲しいな、とシュートは村にいる間ずっと考えていた。それも、なるべく現実世界の自宅と似た家を欲していた。間取りはもちろん電気やガス、水道もちゃんと使える現代の家を再現させたいと考えていた。


 「魔術を工夫すればさ、本当にあっちの世界の家を建てられると思うんだよなー。やってみよう」


 そう決めると背負っているリュックを足元に置く。ここを転移先の仮ポイントと見立てる為だ。


 「まずは土台、木材の調達から」


 「空間転移術」で先程通過した森林へワープして、片っ端から木を伐採していった。シュートは木造の家を建てるつもりだ。家を建てるのに十分な量の木を用意し終えると再び「空間転移術」でリュックがある地点へ繋げると木をせっせと運んでいった。

 全ての木を運び終えたところで草原へ戻り、家の土台の創造に取り掛かる。


 「おおおおお……!」


 土の魔術でコンクリートを量産させるところから始める。強くイメージし続けているうちにコンクリートが出来上がるようになり、それを大量に生産することで家の土台を完成させた。



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