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「シュートの正義」

 村長テムジから許可をもらったシュートは、サニィとの同行を条件に村から少し離れた地帯を探索する時間をもらった。早速二人で村を出たのだった。


 (昨日は森へ行こうとしたけど夜で真っ暗だったから、今日は明るいうちにもう一度森へ…あの奥へ行ってみよう)


 行き先を再び森に決めてそこへ向かう。


 「探索なのでモンスターとけっこう遭遇することになると思いますけど、それでも良いですか?」

 「う、うん!ちょっと怖いけどシュート君が一緒だから大丈夫!ちゃんと私を守ってよね?」

 「はい、分かりました(自分から付いて来ておいて……)」


 心の中で文句を垂れるシュートだったが、サニィに頼りにされて満更でもないのだった。この二日間で彼女に嫌味や見下した感じなどが無いと判断したシュートは、彼女に少しずつ気を許しはじめているのだった。


 森に出現するモンスターはゴブリンやホブゴブリン、レッドドッグにスライムといった一般的なモンスターばかりだった。その中にシュートにとって初遭遇となるモンスターもいた。

 ハリネズミとよく似た見た目のとげとげしい鼠…ニードルマウス。その背に生えている棘はよく刺さるもので、素手では触れられない。頑丈でもあるため剣での攻撃も大してダメージは負わせられない。故にシュートは炎の魔術でマウスを火だるまにして討伐したのだった。


 (夜戦った時と比べて随分弱い気がするな……オーガとかはいないのか)


 手応えの無さに訝しんでいるシュートに、サニィがモンスターについてレクチャーをする。


 「夜になるとモンスターが強くなるの。その理由は未だにはっきりされていないみたいだけど。だから夜の森には決して近づいてはいけないって、戦士たちの中では常識なのよ」

 「あ、そうだったんですね」


 夜になれば昨夜のオーガのような強敵と遭遇できるのか、とシュートはまた一つ異世界の知識をつけたのだった。


 「それにしても凄いね!ホブゴブリンですら苦戦することなく倒しちゃうんだから!」

 「ああ、どうも」

 「それだけ強いなら、国の“兵士”になるのも良いかもしれないね!

 「兵士、ですか?傭兵とか戦士とか色々聞きますけど、どういうものなんですか?」

 「モンスターとか盗賊とかと戦って討伐する職業を“戦士”って言うの。それで戦士には“兵士”と“傭兵”の二種類あるの―――」


 サニィが説明する内容をまとめると、大都市にいる国王直々に任命された戦士を兵士といい、兵士に任命されず傭兵ギルドに登録した戦士を傭兵という。

 兵士は潔白な人間にしかなれず、過去に一つでも不祥事を起こしていれば任命されないことになっている。当然裏口での採用も無しだ。反対に傭兵はギルドが出す試験にさえ受かれば誰にでもなれるようになっている。


 「兵士が給料多めの国家公務員で、傭兵が地方公務員もしくはどこにでもいるサラリーマン……ってやつかな。いやさすがに違うか」

 「???」


 因みに兵士でも傭兵でもない実力者はフリー戦士と呼ばれているが、そういった者はごく稀とされている。力ある者は皆、兵士か傭兵かになるのが当たり前となっているからだ。今のシュートはそのフリー戦士にあたる。


 それから一時間程、モンスターを討伐しつつ森の奥へ進んだ頃。


 「色々教えてもらっているうちにけっこう奥まで来ちゃいましたね。素材や怪鉱石も随分集めてリュックが重くなってきたし、そろそろ村に帰りますか」

 「そうね。約束の時間もそろそろだし。それで、どうやって転移して―――」


 サニィが転移術のことで興味津々に尋ねようとしたその時、二人の前方から複数の人間が馬車を引いてやってきた。


 「あん?こんな深い森の中に人がいやがったぜ」

 「男一人に……女一人、か。しかも女は中々の上玉と見た」

 「ここにいるってことは、もしかしてこれから襲う予定の村の奴らじゃね?」


 彼らの言動と装いからして善人ではないな、とシュートはそう判断する。サニィも同じ反応をしていており、微かに恐怖を抱いてもいた。


 「あれ……盗賊だよ、きっと……」

 「盗賊、ですか」


 改めて盗賊集団を観察するシュート。全員アニメや漫画によく見られるチンピラ風の服装をしており、剣やナイフ、石斧といった武器を携帯している。最後尾にある馬車は大きな布で中身を隠されている。盗賊からして中身は盗んだ金品か何かだろうと予想する。


 「リーダー、こいつら捕まえて村のとこまで案内させましょうや!剣とかで脅せば簡単に吐いてくれるでしょう!」

 「ああ、悪くねぇな。このまま進んで本当に標的の村に着けるのか怪しく思ってたところだ。野郎ども、その二人を生きたまま捕らえろ」


 白髪の無精ひげ面の男…盗賊のリーダーがそう命令すると盗賊たちはひゃははは!と笑いながらシュートたちに襲い掛かった。


 「ね、ねぇ……あの人たち、これから襲う村とか標的の村とか言ってたけど……その村って私が暮らす村のことなの…?」

 「あ………」

 「き、きっとそうだ……!トッド村からいちばん近くの村でも、歩いて2~3日かかる距離にあるから。このままだとこの人たちはトッド村を……!」

 「……………」


 ただの盗賊ではない、サニィが暮らす村を襲おうとしている盗賊だった。しかもシュートとサニィにその位置を吐かせようともしている。

 彼らの思い通りにさせたら自分たちはもちろん、自分が滞在している村とその人々も悲惨な目に遭うだろう、とシュートは嫌な予感をよぎらせる。

 シュートのすぐ傍ではサニィが身を震わせている。自身と村の人々に起こるかもしれない悲劇を想像してのことだ。そんな彼女を一瞥してからシュートは改めて盗賊の男たちに目を向ける。


 「っつーか男は殺して女だけ捕らえれば良いんじゃね!?情報吐かせるのに二人もいらねーだろ!」

 「んなこと言って本当はあの女とシたいからなんだろ!?」

 「ひゃははは、バレたか!」

 「おい、協力してやるから後で俺にも寄越せよな!」


 聞くに堪えない会話をしながらこちらに向かってくる盗賊たちを、シュートは心底蔑み・苛立ちが満ちた目で睥睨する。


 (ああ……異世界に来ても、人間っていうのは割と同じなのかもな。どこでも必ず、ああいう人間のクズは存在するんだ)


 現実世界では中里たちのような虐めグループ、板倉のような人の気持ちを弄んで見下す女。弱い人からカツアゲで金を巻き上げようとする不良たち。彼らは誰一人として人の痛みなど知らない・知ろうともしない、弱い人の気持ちなど知ろうともしない人間だ。

 そしてこの盗賊の男たちも同じ、奪い傷つけて虐げることを平気で行う。それは人の痛みや奪われる者・傷つけられる者たちの気持ちなどを解していないからだ。

 シュートはそんな人間たちをクズと断定している。この世で最も必要無いと決めつけてもいる人種であると認識している。


 故にシュートは、襲ってくる盗賊たちを容赦無く殴りつけたのだった。


 ガッ ドッ ゴキャア メキャア ベキィイ

 「「「「「がぁ!?(ごぉえ!?)(えあ”…っ)(――っ)(あ”……あ”)」」」」」


 襲ってきた五人の盗賊を瞬く間に殴り・蹴り飛ばして、それぞれ別の大木に激突させた。五人とも内臓や首、睾丸に人中じんちゅうといった急所部分を打ち抜かれており、体をピクピク痙攣させて危険な状態となっている。


 「す、凄い……!」

 「な、なんだと……!?」


 サニィはシュートの強さに改めて感心して、盗賊のリーダーは予想外の事態に狼狽した。部下の盗賊たちも同じく動揺を見せている。


 「サニィさん」

 「え……何、どうしたの?」


 シュートは静かな声でサニィに呼び掛けると、盗賊たちに指をさしながらこう問いかけるのだった。







 「あのクズ共も、モンスターとして扱っていいですか?殺しても罪にならない、かな?」

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