「成長期、ねぇー?シュート君って年いくつだったかな?」
「もうすぐ14になります」
「その年頃だったら確かに成長期なんだろうけど、それでもいくらなんでも“それ”がただの成長期で済ませていいのかなぁ……」
村を歩き回りながらシュートはサニィに見た目のことで問い詰められていた。シュートにとっては既に終わった話であるが、サニィたちにとってはたった一晩でシュートが大きく変わったと捉えているのだから混乱するのも無理はない。当然トッド村の全員がシュートがシュートであると気付くのに時間がかかった。
異世界では今日からトッド村の用心棒を務めることになったシュート。期間は約一週間となっており、その間遠くへの探索が出来ないようになっている。用心棒とはいってもこの村に昨日のような、モンスターが襲ってくる事案が頻繫に起こることはない。サニィ曰く、村にモンスターが群れをなして襲ってくるのはひと月に一回あるかないかのことだった。仮に襲ってきたとしても昨日シュートがボコボコにしてしまった傭兵たちがすぐに退治してくれていたから、村は比較的平和だという。
「それを聞くと、俺が用心棒する必要がますます無いんじゃないかって思うんですけど……」
「そんなことはないわ!昨日のモンスターの群れが来たのだって誰も予想できてなかったんだし。シュート君がいてくれなかったらみんなこの村から逃げなきゃならなかったんだから。それにこの一週間以内にまた襲ってこない保障もないことだし」
それを言われるとそうですかとしか言えないシュートだった。その彼をサニィは物珍しげにまじまじと見つめてくる。
「な、何ですか?」
「あ、えーとね?見た目はもちろんなんだけど、何というか…雰囲気とか言葉遣いとかも昨日とはだいぶ変わったなぁって」
「あー……自分でも驚くくらい体が大きくなったから、それに合わせて中身も変わってやろうって思ったから、それで…」
「………ねぇ、本当にただの成長期なの?やっぱり普通じゃない変化だと思うんだけど」
サニィはじぃっとシュートを凝視して再度問いかける。異性の上目遣い視線にまだ不慣れなシュートは慌てて目を逸らしてごまかそうとする。
「そ、そういえば聞きたいことがあったんだ!この村の近くに出現するモンスターって、他に何が………」
「聞いてるのはこっちの方なんだけど?シュート君、まだ隠してることあるでしょ?良かったら……ううん、普通に教えて欲しいなぁ」
目を逸らされたことに不満を感じたサニィは回り込んで目を合わせようとしてくる。シュートはまた逸らそうとする。そんなやりとりをしながら村を一周(モンスターが襲ってこないかどうかのパトロールである)した後、シュートは自分の家に帰るのだが、サニィも勝手に上がり込んでしまい、その後も彼女にしつこく問い詰められるのだった。
そして結局……
「はぁ、分かりました。どういうことなのかちゃんと説明します」
しつこい質問責めに折れたシュートは、サニィに自分が異世界転移したことを話しし始めた。
「へーえ!?ニホンって国があるんだ?村は……え、村じゃなくて“シ”って言うの?もしかしてシュート君は本当に大都会の住人だったんだ!?」
サニィは興味津々といった様子でシュートの話を熱心に聞いていた。
「俺が住んでいる世界にはあんなモンスターもいないし、傭兵なんて仕事も存在しません。というか街中で剣とか斧なんか持ち歩いてたら捕まっちゃいますからね」
「へぇーそっちの世界には戦士系の職業が存在しないんだ。じゃあシュート君はそっちでは普段何をしているの?」
「中学校っていう俺みたいな13才から15才の学生が対象の学校に通ってます」
「そっか、学生っていうんだ。それって楽しいところなの?」
「っ……………」
サニィの何気ない質問。しかし最後の質問はシュートには触れてほしくないものだった。唐突にシュートの顔が険しくなったの見たサニィは、まずいことを聞いちゃったかなと申し訳なさそうにする。
「ごめんね、ちょっと質問し過ぎちゃったみたいで」
「いえ、別に………」
シュートの脳裏には中学校での忌まわしい出来事が浮かんでくる。中学生になってから良かったこと楽しかったことなど全く無いな、とシュートは改めて自覚したのだった。
「正直、学校なんてところ行かなくても良いかもしれませんよ。あんなところ通わなくても世の中どうにかやっていけそうだし。この世界だって、学校なんか無くたってやっていけてるみたいですし」
「そう、なんだ………。私は少し興味あるかも!村の人間にはそんなところへ行くお金も機会も無かったから」
「そうですか」
学校のことにシュートが嫌悪を示したことで少し気まずくなってしまう。すぐにサニィが別の話を始める。
「あ、そうだ!じゃあシュート君は全く違う世界からどうやってこの世界にやってきたの?」
「それは、俺もまだよく分かっていないけど、黒い渦巻きが自宅に突然現れて、そこから異世界へ行き来できるようになったんです」
「じゃあその渦巻きに入ればシュートがいる世界へ行けるのね!」
「はい。もしかして、興味ありますか?俺の世界へ行ってみたいとか」
「え?うん、行けるなら行ってみたいけど……私も行けるのかな?」
そこまで話したところでシュートはモンスターの素材が自宅へ持ち帰る途中で消失してしまったことを思い出す。果たして「物」だけがそうなるのか、と新たな疑問が浮かび上がった。
「どうでしょう……。以前この世界で手に入れた素材を元の世界へ持って帰ろうとしたんですけど、そしたら素材が消えちゃったんですよね。たぶんですけど、この世界の物を俺がいた世界へ持ち込めないようになっていて、それは……人間も同じだったりするのでしょうかね…?」
「そ、それって……私が渦巻きの中へ入ったら、私が消えちゃうかもしれない……ってこと?」
「た、たぶんですけど」
途端にサニィは顔を青くさせた。
「あ、あはは……。残念だけど、シュート君が住む世界には行けないかもね」
「まぁ、そうなりますね」
それから二人はお互いが住む世界について教え合うことに時間を費やした。特にサニィはシュートがいる世界の文明・文化、色んな価値観などに大変興味を示したのだった。
「すごい……シュート君が住んでいる国って、世界って凄いことばかりね!
今教えてもらったこと、こっちの世界の国に知れ渡ったら、すごく発展しそう!」
「確かに、こっちには魔術もあるからそれを上手く使えば、俺がいる世界よりもすごいことになりそうですね」
「ね、ね!“キカイ”ってどこまで出来るの!?人を遠くへ運んだり難しい計算を一瞬でこなしたりも出来るんだ!?」
サニィは現実世界では当たり前・普及されていること・物をどんどん学んだのだった。ひとしきり会話を終えたところで、シュートはある提案をする。
「一日のうちちょっとで良いので、探索する時間をもらえないですか?」
「シュート君は“空間転移術”で村にもすぐ帰れるんだよね?それなら良いよ!テムジ(村長)さんに掛け合ってみるね!その代わりに、私もシュート君の探索に付いて行くことを受け入れること!」
「え……?まぁ、良いですけど」
サニィはシュートに大変興味を抱いていたのだった。