目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
「vsオーガ」

 「でっかい……」

 「gjfiogfvkdfjds……ッ」


 シュートを認知した大型のモンスター…オーガは、人外の言葉を発してぎらついた目で睨みつける。

 オーガはホブゴブリンが当然変異して発生した、ゴブリン種の上位モンスターである。別名ゴブリンオーガともいう。性格は凶暴であり、ゴブリンやホブゴブリンを複数率いて人里(村)をよく襲う。上級の傭兵などの戦士に任命されてようやく単独で討伐しに行くのが認められる程に強く危険なモンスターである。

 現時点のシュートにとっては少々手強い敵だ。今のオーガもゴブリンやホブゴブリンを率いて行動していたようで、周りにはそれらのモンスターが複数いる。


 「今の俺じゃあまあまあキツい相手なのかな…。かといってここから素直に逃がしてくれる……雰囲気じゃないよな」


 殺気を放ってくるオーガに少々緊張しながらも、シュートは逃げることなくオーガと戦うことを選んだ。

 先手必勝と言わんばかりに真っ先に駆け出して、夜の暗さを活かしてオーガの死角へ回り込む。そして武器の剣でオーガの右脚を深く斬りつけた。


 「~~~~~ッ!dsdfurivnnlk!」


 オーガは苦痛で顔を歪ませたものの倒れることなく、シュート目がけて豪腕をぶつけにかかる。


 ドッッッ 「っくぅううう……!(何て、クソ力だ……っ)」


 剣を盾にして受け止めようとしたシュートだったが、想像を絶する馬鹿力に押し負けてしまい、後ろの巨木に背中を打ちつけてしまった。


 「これは、真正面からいったらダメなやつだ……」


 オーガの圧倒的な腕力を思い知って真っ向勝負を諦めたシュートは、不意を突きまくって討伐する作戦に出ようとする。まずは周りのゴブリンたちを処理するべく、俊敏に動き回ってオーガの視界から姿を消して、モンスターたちの見えない位置から電撃の魔術を周囲一帯に全力で放った。


 「「「「「~~~~~~ッ!………」」」」」


 魔術への耐性が低いゴブリンとホブゴブリンたちは為す術無く力尽きていった。ちょうど技の範囲内にいたオーガにもそこそこのダメージが入ったようである。


 「ir dfrjfgrvbccb……!!」


 オーガは憤慨した様子で辺りをきょろきょろしている。シュートは地面に手をついて、土魔術による攻撃を頭の中で強くイメージする。そしてイメージ通りの土魔術を放った。


 ボゴォオ! 「~~~!?」


 オーガの足元からその頭サイズ程の土の拳が飛び出して、オーガを殴り飛ばした。


 「まだまだ……!」


 シュートは攻撃の手を緩めることなく、電撃・炎などゲームに出た技を思い出しながら魔術を放ってオーガを追い詰めていった。オーガの体には火傷や裂傷がかなり刻まれたものの弱った様子はまだ見せていない。魔術をたくさん放ったシュートの方が疲弊の度合いが大きい。


 「(はぁ、はぁ……っ)ダメージは積んでるはずだけど、全然弱ってないな……。体力がホブゴブリンとは段違いだ」


 やがてオーガはシュートの気配を察すると、近くにある木をへし折ってそれを彼目がけて投げつけた。シュートは慌てて跳んでそれを躱して、木の上に飛び移る。そこから木から木へとひたすら飛び移ってオーガを翻弄しにかかる。しばらくそうしているうちに、新たなスキルの気付きが生じた。


 「スキル “浮遊”…?空中移動が可能、だって……?」


 木に乗った態勢のままそこからどうしようか躊躇するシュート。やがて意を決して木の枝を蹴って何も無い空間へ身を投げた。直後自分が空中を飛び回っていることを確信すると……シュートは何も無い空間で直立していた。


 「マジで浮いてる……すごい」


 リアルに浮いている状態を実感したシュートは感動していた。しかしすぐに戦いに切り替えて下にいるオーガを見据える。オーガは空中にいるシュートにまだ気付いていない様子である。

 シュートはオーガの真上まで移動して、剣でその頭に狙いを定める。そして空中を蹴って急降下してオーガの脳天に剣を突き刺した。


 「~~~~~ッ!?xewkjjgbn、……………」


 完全に不意を突かれたオーガは驚愕に満ちた表情を顔に貼り付けたまま、前のめりに倒れてそのまま絶命した。


 「(はぁ、はあっ……)なん、とか……勝てた。次また戦うことがあれば、真正面から戦って、こいつを倒したいな………」


 ゲームでもシュートはこのような回りくどい方法よりも真正面から力をぶつけて戦うやり方を好む性格であった。次にまたオーガのような上位モンスターと戦うまでにさらに力をつけておこうと目標を立てたのであった。

 しかしそんな疲弊状態のシュートに、次の刺客が容赦なく襲いかかる。


 「うわっスライムだ!?しかも前よりデカい!?」


 シュートがいる辺りの地面からスライムが5匹も飛び出してきた。草原で初めて遭ったのと同じ水色の個体もいれば、紫色の個体、橙色の個体、ピンク色の個体など多彩な色のスライムが出てきた。そしてそれら全てのサイズが、成長したシュートと変わらないものとなっていた。


 「デカいし色が違うのがたくさんいるし、どうなってるんだ?」


 敵の分析する暇を与えまいと、紫色のスライムが同じ色の液体をシュートに吐き出してきた。それをさっと躱すシュートだが、液体が地面に付着した瞬間、ジュウッと音が出たと同時にそこから紫色の煙も発生した。


 「なんか…毒々しいな。もしかして本当に毒だったりするのか?」


 シュートの推測通り、紫色のスライムが吐く液体には、あらゆる生物を死に至らせる毒を孕んでいる。故にこのスライムはポイズンスライムと識別されている。


 「えーと、あのオレンジ色のスライムが…炎を吐く“フレイムスライム”。あっちのピンク色のスライムが…へぇ、回復効果がある液体を作り出す“ヒールスライム”っていうのか」


 ゲームにもスライムに多種類の個体がいることもあって、実際にそれを目の当たりにしてもシュートは大して驚くことはなかった。それどころか真っ先にヒールスライムに突撃しに行った。


 ザク、ブシャアア…… 「おお、傷が治った…!」


 剣で突き刺してスライムの体液を浴びてみると、オーガにつけられた傷が少しずつ塞がっていき、消耗していた体力も回復しつつあった。これは棚ぼただ、とシュートが喜んでいるところに、フレアスライムが炎を吐いて攻撃しにかかった。それを咄嗟に水の魔術で相殺して、続いて水の砲弾を放ってフレアスライムを蒸発させた。

 そして最後にポイズンスライムに刃状の炎魔術をぶつけて溶かして消失させた。


 「何とか全部倒せたけど……何か朝戦った時よりも、モンスターが強くなってないか…?」


 シュートはそう愚痴をこぼしながら森を抜け出して、来た道を戻っていく。その道中でレッドドッグの群れに出くわして戦ったが、やはり以前よりも手こずったのだった。

 この世界にはゲームのようにレベルが上がり続けるようなインフレなど存在しない。なのに強くなったはずのシュートが手こずるくらいにモンスターが強くなっている原因は、現在の異世界が夜だからである。

 夜になるとどういう因果か、異世界に存在する全てのモンスターが強くなるのだ。故に先程シュートが森で戦ったオーガも、当然今のシュートにはまだ早過ぎる相手だった。もし森ではなく遮蔽物が無い草原などで戦っていたとしたら、シュートには逃げる以外の選択肢がなかっただろう。


 空が明るくなって早朝の時間になったとことで、シュートはトッド村に到着した。用意されている家に戻る途中でサニィとばったり会う。彼女はシュートを見て、


 「あれ……?この村の人じゃないですよね?行商人の方でしょうか?」


 初対面時と同じセリフを言ったのだった。


 「あの、シュートですけど」

 「え?シュート君っていったら私と同じくらいの身長の男の子だったはずだけど……………マジ?」

 「はい。マジです」


 サニィはシュートを見つめたまましばし放心していたのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?