ゴッ、ガッ、ドスッ、ガス……ッ
「うぅ…っ」「ぐ、ぉ……」「あ、ぐ……」「………っ」
シュートは瞬く間に全員の不良高校生に一撃を入れて、地面に這いつくばらせる。力を抑えた一撃で全員がノックダウン寸前まで追い詰められていた。シュートはゴミを見る目で、最初に逃走を止めた金髪の不良の髪を再び掴んで無理矢理立ち上がらせる。
「不利になったらすぐ逃げようとするんだ?で、自分より弱そうな人には威張って、暴力も振るうんだろ?こんな風に」
ゴギャ! 「げぇええ!?」
金髪不良の鼻に拳を入れる。髪を掴んでいるので倒れない。しばらくして彼の鼻から鼻血が滝のように流れ出た。
「で、血を流して怪我をしてるのを見て面白そうに笑ったりするんだろ?僕は笑わないけどね」
「ごべ、ごめんなさい……。許し、て……」
「は?お前が今言った同じ言葉を言った人を、お前らはさらに痛めつけたりしてんだろ?カツアゲして暴力振るって、嫌がることばかりして。何がごめんなさいだよ、ちっともそう思ってないくせに」
スッ―――ゴン! 「いぎゃああ!」
片腕で金髪不良の体を楽々と持ち上げると、一気に振り下ろして地面に打ちつける。金髪の不良の肺から空気が抜けて、掠れた声を上げて再び這いつくばる。
「ひ、ひぃいい…!」
「や、ヤベーよこの中坊……っ」
「に、逃げろ―――」
ピアスをつけた不良がどうにか立ち上がって逃げ出そうとするが、
「だからまだ逃がさねーって」
ガッ 「うわあああ!?は、離せぇえ!」
足を掴んでそのまま上へ持ち上げる。男子高校生を片腕で楽々と持ち上げてみせたシュートの怪力に、不良たちはすっかり怯えていた。
「離すよ、ほらっ」
ドチャッ 「あっ、がぁあ……っ」
持ち上げた不良をさっきのように地面に振り下ろすと、バウンドして地面に叩きつけられた。その不良のところに移動してその顔を持ち上げる。擦り切れて血が出ており、腫れも見られる。
「………………(ブチィ)」
「い~~~ぎゃあああああ!!」
シュートは無言のまま不良の顎に付いていたピアスを力いっぱい引き千切った。ピアスがついていた箇所から血がボタボタと流れ出ている。
「耳にもけっこう付けてるんだ?全部千切ったら凄いことになりそうだね」
「や、止めてくれ……。そんなことしたら、俺の耳が無くなっちまう……!」
不良は体をガクガクと震わせて命乞いをする。
「別に良いんじゃない?音は聴こえるままで済むんだからさ」
淡々と返事するシュートに不良は顔を真っ青にさせる。シュート自身も少し意外に思っていた。自分がこんなことを思いつき、平気でやろうとしていることに。異世界に行く前の自分では考えられないことだった。
(僕っていつの間にこんなこと考えつくような人間になってたんだろ……?)
少しボーっとしていたシュートだったが気を取り直してこの不良集団をどう甚振ってやろうかと考えることにする。
「とりあえず、しばらくは自分で歩けないようにしてやろうか。暴力振るえないよう手と腕もへし折ってやって……」
独り言の内容を聞いた不良たちはさらに恐怖する。シュートがいざ行動に移ろう、としたその時、遠くからパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
「えぇ……誰かが通報したのかよ」
数秒ごとに音が近づいていくことに、シュートはこれ以上の不良たちへの「制裁」を諦める。足が完全に壊されていないことが幸いした不良高校生たちは、起き上がってシュートから一目散に逃げ出した。
(物足りない……あいつらはまだ五体満足じゃないか。あのままだとしばらく経った後また弱い人をカモにするに違いない。ああいうクズどもが警察とかに捕まることなくのうのうと過ごすのかと思うと、僕は我慢ならない……!)
自分に背を向けて無様に逃げている不良高校生たちに、シュートは脅し文句をかけた。
「運が良かったな!?今日のところはこれで見逃してあげるよ。けど忘れるなよ?お前らクズどもは僕が完全に壊してやるからな!?顔もしっかり覚えたから、明日以降お前らを捜し出して、手足を完全に壊して二度と外に出られなくしてやるからなァ!!」
シュートの言葉を聞いた不良高校生たちは、恐怖で顔を引きつらせ、目や鼻、口から体液をまき散らしながらコンビニから消えて行った。コンビニ付近に残るのはシュート一人になり、サイレンの音がさらに近づこうとしている。
「………運動したから、よけいに腹が減った」
シュートはすぐさまコンビニでおにぎりやホットスナックを購入して、誰も見ていないところで「空間転移術」で自宅へ帰ったのだった。
シュートによる不良高校生たちへの暴行(傍から見ればそう映った)の一部始終を店内から見ていたコンビニアルバイトは、自分は何も見ていなかったし何も知らなかったと、警察が来たらそう主張しようと決心したのだった。
自宅に帰って本日の夜食を食べてからこれからのことを考え始めるシュート。思い出すのはついさっき…コンビニでの出来事。不良高校生集団に絡まれたことで、異世界で得た力がこの現実世界でも使えるということ。その力は凄まじく、喧嘩慣れした不良高校生五人を一方的に打ち負かした程だった。今のシュートなら、格闘技で高校の部はもちろん、成人の部でも全国上位ランカーに上り詰められるだろう。
「力を手に入れた……。僕が欲しいと願ってたのが、まさにこの力だった。それが、ついに僕のものに、なったんだ……」
改めて力を得たことを実感するシュートは、体をふるふると震わせる。恐怖からではなく、歓喜からのものだった。
「僕は異世界へ行ってきた……。あそこでモンスターと戦って強くなった。そしてこっちに帰ってきた後も、強くなったままでいられている……。
僕は、力を手に入れたんだ……」
直後、シュートから笑みがこぼれた。
「 だったら、復讐だ…!! 」
この力があれば、自分を虐めてきたクラスメイトたちに復讐が出来ると、シュートは大いに喜びと期待で胸を膨らませた気分になる。この力があれば今日の不良高校生集団のようにクラスメイトたちを力でねじ伏せることができ、これまでの仕返しを存分にしてやれる、と想像をかきたてた。
「許さない……どいつもこいつも。僕に理不尽な暴力を振るう中里たち、虐めから助けてやったのにあいつらと一緒になって僕を虐めやがった後原、嘘の告白で僕を騙して、ストーカーという濡れ衣まで着せやがった板倉……!」
ぎりり、と歯を軋ませる。
「見て見ぬふりをしたクラスメイトどもと大人たちも同罪だ。クラスメイトの中には虐めをはやし立ててたのもいた。あいつらも許さない……。酷い目に遭わせてやる」
拳を握る力が強まる。爪が皮膚を破って血が滲む程の力だ。
「正義……それは僕が幼い時から憧れていたような、綺麗なものなんかじゃない。僕は大きく勘違いしてたんだ。
正義とは、自分にとっての“害悪”を排除することなんだ。
虐めをすることは悪だ。理不尽な暴力は悪だ。人の気持ちを弄んで騙すのも悪だ。それらを面白がってはやし立てるのも悪で、増長させることも悪だ。
正義は、そんな悪どもを排除しないといけない。
それは僕の為……僕が救われる為なんだ。
だから、やるんだ!復讐を!!」
この日の夜、シュートは復讐を決意し、新たな「正義」に目覚めた。
その正義は「弱き人を助ける」ような綺麗なものではない。自分本位に満ちた、暗くて黒く血塗られたものだった。