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0012 わかれ

私には日本の記憶があります。

ショベルカーもブルドーザーも知っています。

でも、この子達はそれ以上の働きをしています。


私が山からダイダラボッチにして切り出して作った、巨大な岩の固まりを、イサミちゃんが拳で叩くとヒビが入り、割れて岩から石になっていきます。

イサミちゃんが石にした物を、チマちゃんとシノブちゃんが風魔法で竜巻の中に巻き込み、粉にしていきます。

石のつぶてが、飛び交うなかでヒジリちゃんが、ドーム状の結界魔法を使って身を守りながら、重い金属を川の中から拾っていきます。


「す、すごい……」


みるみるダイダラボッチから、ただの砂になっていきます。

そして、今度は、イサミちゃんとチマちゃんとシノブちゃんが、水魔法で砂を洗い流しました。

比重が軽い砂が、ザーーと川を濁らせながら流れていき、後には重い金属が残りました。


残った金属を五人とゴーレムで拾い集めました。

それでも短刀一本分の金属には到底足りませんでした。

なかなか貴重な金属のようです。

集中してやっていたために、気が付いたらもう夕方になっています。


「残りは、また明日やりましょう」


「はーーい!!」


その日の夕食は、簡単な食事で済まし、疲れていたのですぐに眠りました。


「……!!!!????」


やられました。

翌朝、目が覚めたら、まわりに誰もいません。

私は部屋の床で一人になっていました。

昨日、また明日って言ったのに……。

いつもなら、起こしたってなかなか起きない子供達が今日は誰もいないのです。


私は少し呆然として、その後ポロポロ涙がこぼれ落ちました。

いつまでも、こんなことをしていても、らちがあきません。

涙をそでで拭きながらドアを開けました。


「あら、あら、夜泣きですか。レイカ姉はまだまだお子ちゃまですねえ」


一番年下だったチマちゃんに言われてしまいました。


「あ、あなた達! 何をしているの?」


「うふふ、朝食の準備ですよ」


イサミちゃんが笑いながら言いました。


「ばかーーっ!!」


私はイサミちゃんに抱きついて大声で泣いてしまいました。

大人のつもりでいましたが、感情はまだまだ幼児なのかもしれません。


「レイカ姉、驚かせてすみません。でも、安心してください。私達四人はレイカ姉を一人にしません」


そう言って、イサミちゃんは私をギュッと抱きしめると、頭を撫でてくれました。

それを見た、チマちゃん、シノブちゃん、ヒジリちゃんが私に抱きついてきました。

一番年下だったチマちゃんとヒジリちゃんも七歳になり、いつの間にか私より大きくなっています。

私は、やっと元通りの六歳の体になりました。

時々無茶をして、魔法を使いすぎるのでなかなか成長できません。歳は八歳になりましたが、見た目は六歳児のままです。


「皆の方がお姉さんみたいね」


「ううん、いつまで経っても、レイカ姉が一番のお姉ちゃんだよ」


一番大きい、イサミちゃんが言ってくれました。

皆が激しくうなずきます。

こっ、この子達!!

かわいい!! 可愛すぎる!!!! 私は胸がキュンキュンしてとまりません。

私のなんだか表現しにくい感情が爆発してしまいました。






「どうやら、レイカ姉は追ってこないみたいだ。じゃあ、皆、ここで別れよう」


体の一番大きな、イクサが言いました。


「……」


皆が無言でうなずきます。

私達五人は、これから、男として生きて行きます。

お互いを呼び捨てにすると決めました。

真夜中の森の中を一晩中走ったので、かなりヤマト村からは離れたはずです。


「じゃあ、最初に決めたとおり、アサが北、私は北西、トウカは西、ライは南西、マイは南だ。レイカ姉の夢を実現させるため、それぞれの行き先で頑張ろう」


イクサが言いました。

私は……俺は、北に向います。

名前はアサコですが、これでは女です。

今日からはアーサーと名のる事にしました。


「おう!!」


全員で男の様に返事をしました。

レイカ姉の夢は、かわいそうな奴隷のいない世界。

そんな世界を実現するため、俺達は、それぞれの道を進むと決めたのです。


「うふふ、みんな元気でね」


一人だけ一コ年下のマイが、女の子のように言いました。

目には涙が溜まっています。


「うわーーん、うわーーん」


それを見た、トウカとライが泣き出しました。

つられてマイも私も涙が止まらなくなりました。


「ば、ばか!! 泣いたらダメだろーー!! うわぁーーん!!」


そう言いながら、最後はイクサも泣いています。

五人は抱き合って、泣きました。

不安で、心細くて……。

ヤマト村はとても楽しくて幸せでした。それが思い出されて涙が止まりません。

自分たちで決めた事ですが、すでに少し後悔をしています。


抱き合っていると、イクサの胸が柔らかいのに気が付きました。

少し体が太くて大きいイクサは胸が大きくなっているようです。こんなんで、男としてやっていけるのでしょうか。心配になりました。


「ぎゃーーーー!!!!!! おまっ、お前達、何をするんだーー!!!!」


イクサが叫びました。考える事はみんな同じようです。

さすがは姉妹です。いいえ、兄弟です。

四人の手が、イクサの胸をもんでいました。


「ぎゃはははははははーーーーーーー」


全員、涙は止まっていませんでしたが、全力で笑い合いました。

不安を吹飛ばすように……。

そして、無言でしばらく抱き合いました。


「じゃあ、行こうか」


イクサが沈黙をやぶって言いました。


「うん」


私達は吹っ切れたように清々しい顔で返事をします。

五人は腰の刀を抜き、高く持ち上げて刀同士を重ね合せました。

私達は、この刀にヤマト魂と名付けています。


「ふふふ、ヤマトだましぃーーー!!!!!」


全員で腹から声をだしました。

そして、笑顔でそれぞれの方角へ別れました。

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