私には日本の記憶があります。
ショベルカーもブルドーザーも知っています。
でも、この子達はそれ以上の働きをしています。
私が山からダイダラボッチにして切り出して作った、巨大な岩の固まりを、イサミちゃんが拳で叩くとヒビが入り、割れて岩から石になっていきます。
イサミちゃんが石にした物を、チマちゃんとシノブちゃんが風魔法で竜巻の中に巻き込み、粉にしていきます。
石のつぶてが、飛び交うなかでヒジリちゃんが、ドーム状の結界魔法を使って身を守りながら、重い金属を川の中から拾っていきます。
「す、すごい……」
みるみるダイダラボッチから、ただの砂になっていきます。
そして、今度は、イサミちゃんとチマちゃんとシノブちゃんが、水魔法で砂を洗い流しました。
比重が軽い砂が、ザーーと川を濁らせながら流れていき、後には重い金属が残りました。
残った金属を五人とゴーレムで拾い集めました。
それでも短刀一本分の金属には到底足りませんでした。
なかなか貴重な金属のようです。
集中してやっていたために、気が付いたらもう夕方になっています。
「残りは、また明日やりましょう」
「はーーい!!」
その日の夕食は、簡単な食事で済まし、疲れていたのですぐに眠りました。
「……!!!!????」
やられました。
翌朝、目が覚めたら、まわりに誰もいません。
私は部屋の床で一人になっていました。
昨日、また明日って言ったのに……。
いつもなら、起こしたってなかなか起きない子供達が今日は誰もいないのです。
私は少し呆然として、その後ポロポロ涙がこぼれ落ちました。
いつまでも、こんなことをしていても、らちがあきません。
涙をそでで拭きながらドアを開けました。
「あら、あら、夜泣きですか。レイカ姉はまだまだお子ちゃまですねえ」
一番年下だったチマちゃんに言われてしまいました。
「あ、あなた達! 何をしているの?」
「うふふ、朝食の準備ですよ」
イサミちゃんが笑いながら言いました。
「ばかーーっ!!」
私はイサミちゃんに抱きついて大声で泣いてしまいました。
大人のつもりでいましたが、感情はまだまだ幼児なのかもしれません。
「レイカ姉、驚かせてすみません。でも、安心してください。私達四人はレイカ姉を一人にしません」
そう言って、イサミちゃんは私をギュッと抱きしめると、頭を撫でてくれました。
それを見た、チマちゃん、シノブちゃん、ヒジリちゃんが私に抱きついてきました。
一番年下だったチマちゃんとヒジリちゃんも七歳になり、いつの間にか私より大きくなっています。
私は、やっと元通りの六歳の体になりました。
時々無茶をして、魔法を使いすぎるのでなかなか成長できません。歳は八歳になりましたが、見た目は六歳児のままです。
「皆の方がお姉さんみたいね」
「ううん、いつまで経っても、レイカ姉が一番のお姉ちゃんだよ」
一番大きい、イサミちゃんが言ってくれました。
皆が激しくうなずきます。
こっ、この子達!!
かわいい!! 可愛すぎる!!!! 私は胸がキュンキュンしてとまりません。
私のなんだか表現しにくい感情が爆発してしまいました。
「どうやら、レイカ姉は追ってこないみたいだ。じゃあ、皆、ここで別れよう」
体の一番大きな、イクサが言いました。
「……」
皆が無言でうなずきます。
私達五人は、これから、男として生きて行きます。
お互いを呼び捨てにすると決めました。
真夜中の森の中を一晩中走ったので、かなりヤマト村からは離れたはずです。
「じゃあ、最初に決めたとおり、アサが北、私は北西、トウカは西、ライは南西、マイは南だ。レイカ姉の夢を実現させるため、それぞれの行き先で頑張ろう」
イクサが言いました。
私は……俺は、北に向います。
名前はアサコですが、これでは女です。
今日からはアーサーと名のる事にしました。
「おう!!」
全員で男の様に返事をしました。
レイカ姉の夢は、かわいそうな奴隷のいない世界。
そんな世界を実現するため、俺達は、それぞれの道を進むと決めたのです。
「うふふ、みんな元気でね」
一人だけ一コ年下のマイが、女の子のように言いました。
目には涙が溜まっています。
「うわーーん、うわーーん」
それを見た、トウカとライが泣き出しました。
つられてマイも私も涙が止まらなくなりました。
「ば、ばか!! 泣いたらダメだろーー!! うわぁーーん!!」
そう言いながら、最後はイクサも泣いています。
五人は抱き合って、泣きました。
不安で、心細くて……。
ヤマト村はとても楽しくて幸せでした。それが思い出されて涙が止まりません。
自分たちで決めた事ですが、すでに少し後悔をしています。
抱き合っていると、イクサの胸が柔らかいのに気が付きました。
少し体が太くて大きいイクサは胸が大きくなっているようです。こんなんで、男としてやっていけるのでしょうか。心配になりました。
「ぎゃーーーー!!!!!! おまっ、お前達、何をするんだーー!!!!」
イクサが叫びました。考える事はみんな同じようです。
さすがは姉妹です。いいえ、兄弟です。
四人の手が、イクサの胸をもんでいました。
「ぎゃはははははははーーーーーーー」
全員、涙は止まっていませんでしたが、全力で笑い合いました。
不安を吹飛ばすように……。
そして、無言でしばらく抱き合いました。
「じゃあ、行こうか」
イクサが沈黙をやぶって言いました。
「うん」
私達は吹っ切れたように清々しい顔で返事をします。
五人は腰の刀を抜き、高く持ち上げて刀同士を重ね合せました。
私達は、この刀にヤマト魂と名付けています。
「ふふふ、ヤマトだましぃーーー!!!!!」
全員で腹から声をだしました。
そして、笑顔でそれぞれの方角へ別れました。