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0010 思い出と

「レイカ姉ーー!! カツを捕まえてきたぞーー!!」


イクサちゃんとライちゃんが、いのししを捕まえて帰って来ました。


「もう、二人ともー! それは、カツじゃなくて、いのしし、いのししですからねー」


二人が捕ってきたのは、400キロを越えるほどの大きないのししです。超巨大です。

あれからさらに、一年が経ちました。

最近、ヤマト村の周辺に異変が起きています。

動物たちが何故か巨大化しているのです。

このいのししも、異常な大きさです。あの、もののけのような、主のような大きさです。


「ふふふ……」


二人は笑っています。

うふふ、もう二人ともいのししという事は、分っていながら言っているようです。


「これで四ヶ月は、お肉に困らないわ」


「ははは、四ヶ月じゃないよ。八ヶ月だよ!!」


イクサちゃんが言いました。

そうすると、ライちゃんがイクサちゃんの背中を突っつきました。


「四ヶ月です。ふふふ……」


ライちゃんが言い直します。

私は何か分りませんが、これには違和感があると不安を感じました。


「レイカ姉ーー!! 素揚げを捕ってきたぞーー!!」


トウカちゃんとアサコちゃんです。


「わぁおーっ!!」


素揚げとは、どでかいスズメバチです。

しかも、どでかい巣まで持って来ています。


「カラアゲを探していたら見つけたんだ」


アサコちゃんが言います。


「刺されなかった?」


「二人いれば楽勝さ」


今度はトウカちゃんが言ってくれました。

この二人のスズメバチの捕まえ方は豪快で、巣を蹴って落とし、襲いかかるスズメバチを木の棒で、頭を弾き飛ばして全滅させるというやり方です。

頭を飛ばすのは、食べるときキバが硬くて食べられないので、あらかじめ飛ばしてしまうのです。


こんなやり方はこの二人にしか出来ません、他の人ではできませんので真似しないで下さい。

スズメバチは素揚げにして、蜂の子は炊き込みご飯です。


「レイカ姉ーー!!!!」


今度は川で洗濯、いいえ川遊び班です。


「すごいねー!!」


シノブちゃんが巨大な魚を抱えています。

一メートルを越えるようなマスでしょうか、捕まえたようです。

川の生き物まで巨大化しているようです。

体の小さい子は砂金と、あの重い赤と青の金属を捕ってきてくれました。


晩ご飯のメニューは当然、とんかつとスズメバチの素揚げ、蜂の子の炊き込みご飯、焼き魚とお味噌汁です。


巨大な私の手のひら位の、スズメバチの素揚げをかじったときに、私はこの世界の両親とじっちゃん、ばっちゃんを思い出しました。

私の住んでいた村でも、スズメバチは貴重な栄養源として食べていました。


「ひっひっひっ、今日はスズメバチかーー、ギンギンになって眠れねえなー」


じっちゃんが、笑います。


「げへへへ、本当になあ、ギンギンで眠れねえなあ」


おっとうまで笑います。


「こりゃあ、ばっちゃんがよろこぶなあ」


「だなあ、おっかあもよろこぶなあ」


「なに馬鹿な事を言っているだ! このエロ爺!!」


ばっちゃんとおっかあが怒ります。

二人は、私が分らないと思って滅茶苦茶言っています。

私は前世の記憶が少しあるので、言っている意味がわかっていますよ。まったく、まったくーー!!


――うふふ、なつかしい……


私は、知らず知らずに涙がこぼれていました。

それを見たためか、全員が泣いています。

きっと、皆も両親の事を思い出しているのでしょう。

貧乏な家では、蜂は貴重な栄養源でしたものね。

皆、食べていたに違いありません。


「うわーーん!! うわーーん!!」


大きな子達まで大泣きになりました。


「ご、ごめんなさい!! 私が泣いたばっかりに……」


泣きながら、全員首を振っています。

????……

私はここでも何か違和感を覚えました。


その夜は、お風呂から出ると定位置が変わっています。

私の横に、イクサちゃん、ライちゃんがいます。

そして、時々トウカちゃん、アサコちゃん、マイちゃんが入れ替わります。

おかげで、中々寝付けませんでした。

それでも、幼いこの体は眠気には勝てず、ぐっすり眠ってしまいました。


「くすん、くすん」


目を覚ますと、小さい子達が泣き声を殺して泣いています。

きっと、私を起こさないためですね。


「!!!!????……」


やられました。

昨日、いのししの肉が八ヶ月もつと言ったのも、食事の時に泣いていたのも、夜眠るときに定位置が変わっていたのも、言葉遣いが男言葉なのも、このためだったようです。


「もう皆は、行ってしまったの?」


小さい子供達は、大きくうなずくと、大きな声を出して泣き出しました。


「うわーーーん!! うわーーーーん!!」


大きい子達は、この子達には行く事を話していたようですね。

私に言うと反対されるから、私にだけは黙っていたのでしょう。

大きい子達は、きっとよく考えての事でしょうね。

私は追いかけるのを、あきらめました。

その代わり、あの子達の個室を見に行きました。


「うふふ、あの子達」


「レイカ姉、どうしたの」


小さい子達は、泣き止んで私の後ろをついて来ています。


「うふふ、ちゃんと持っていってくれたみたいです」


私は、子供達の部屋に、一つずつ武器と、等分に砂金を分けた物を枕元に置いておきました。

それを、しっかり持っていってくれたようです。


「よかったね」


チマちゃんが言ってくれました。


「うん」


既に村での、木人狩りではレベルがほとんど上げられなくなりました。

だからあの子達は、社会に出て成長しようと考えたようです。

まだ、十歳と九歳の子達ですが身長は百六十センチを超えています。

見た目で、子供扱いはされないでしょう。

強さも、あの子達が瞬殺する木人は、一体で大きな山のクマをも凌駕します。

ここは、心配は尽きませんが、あたたかく送り出してあげましょう。


イクサちゃん、ライちゃん、アサコちゃん、トウカちゃん、そしてマイちゃん、お元気で……。

五人はヤマト村を巣立って行きました。

私は、一人になってから誰にも気付かれないように大声で泣きました。

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