「レイカ姉ーー!! カツを捕まえてきたぞーー!!」
イクサちゃんとライちゃんが、いのししを捕まえて帰って来ました。
「もう、二人ともー! それは、カツじゃなくて、いのしし、いのししですからねー」
二人が捕ってきたのは、400キロを越えるほどの大きないのししです。超巨大です。
あれからさらに、一年が経ちました。
最近、ヤマト村の周辺に異変が起きています。
動物たちが何故か巨大化しているのです。
このいのししも、異常な大きさです。あの、もののけのような、主のような大きさです。
「ふふふ……」
二人は笑っています。
うふふ、もう二人ともいのししという事は、分っていながら言っているようです。
「これで四ヶ月は、お肉に困らないわ」
「ははは、四ヶ月じゃないよ。八ヶ月だよ!!」
イクサちゃんが言いました。
そうすると、ライちゃんがイクサちゃんの背中を突っつきました。
「四ヶ月です。ふふふ……」
ライちゃんが言い直します。
私は何か分りませんが、これには違和感があると不安を感じました。
「レイカ姉ーー!! 素揚げを捕ってきたぞーー!!」
トウカちゃんとアサコちゃんです。
「わぁおーっ!!」
素揚げとは、どでかいスズメバチです。
しかも、どでかい巣まで持って来ています。
「カラアゲを探していたら見つけたんだ」
アサコちゃんが言います。
「刺されなかった?」
「二人いれば楽勝さ」
今度はトウカちゃんが言ってくれました。
この二人のスズメバチの捕まえ方は豪快で、巣を蹴って落とし、襲いかかるスズメバチを木の棒で、頭を弾き飛ばして全滅させるというやり方です。
頭を飛ばすのは、食べるときキバが硬くて食べられないので、あらかじめ飛ばしてしまうのです。
こんなやり方はこの二人にしか出来ません、他の人ではできませんので真似しないで下さい。
スズメバチは素揚げにして、蜂の子は炊き込みご飯です。
「レイカ姉ーー!!!!」
今度は川で洗濯、いいえ川遊び班です。
「すごいねー!!」
シノブちゃんが巨大な魚を抱えています。
一メートルを越えるようなマスでしょうか、捕まえたようです。
川の生き物まで巨大化しているようです。
体の小さい子は砂金と、あの重い赤と青の金属を捕ってきてくれました。
晩ご飯のメニューは当然、とんかつとスズメバチの素揚げ、蜂の子の炊き込みご飯、焼き魚とお味噌汁です。
巨大な私の手のひら位の、スズメバチの素揚げをかじったときに、私はこの世界の両親とじっちゃん、ばっちゃんを思い出しました。
私の住んでいた村でも、スズメバチは貴重な栄養源として食べていました。
「ひっひっひっ、今日はスズメバチかーー、ギンギンになって眠れねえなー」
じっちゃんが、笑います。
「げへへへ、本当になあ、ギンギンで眠れねえなあ」
おっとうまで笑います。
「こりゃあ、ばっちゃんがよろこぶなあ」
「だなあ、おっかあもよろこぶなあ」
「なに馬鹿な事を言っているだ! このエロ爺!!」
ばっちゃんとおっかあが怒ります。
二人は、私が分らないと思って滅茶苦茶言っています。
私は前世の記憶が少しあるので、言っている意味がわかっていますよ。まったく、まったくーー!!
――うふふ、なつかしい……
私は、知らず知らずに涙がこぼれていました。
それを見たためか、全員が泣いています。
きっと、皆も両親の事を思い出しているのでしょう。
貧乏な家では、蜂は貴重な栄養源でしたものね。
皆、食べていたに違いありません。
「うわーーん!! うわーーん!!」
大きな子達まで大泣きになりました。
「ご、ごめんなさい!! 私が泣いたばっかりに……」
泣きながら、全員首を振っています。
????……
私はここでも何か違和感を覚えました。
その夜は、お風呂から出ると定位置が変わっています。
私の横に、イクサちゃん、ライちゃんがいます。
そして、時々トウカちゃん、アサコちゃん、マイちゃんが入れ替わります。
おかげで、中々寝付けませんでした。
それでも、幼いこの体は眠気には勝てず、ぐっすり眠ってしまいました。
「くすん、くすん」
目を覚ますと、小さい子達が泣き声を殺して泣いています。
きっと、私を起こさないためですね。
「!!!!????……」
やられました。
昨日、いのししの肉が八ヶ月もつと言ったのも、食事の時に泣いていたのも、夜眠るときに定位置が変わっていたのも、言葉遣いが男言葉なのも、このためだったようです。
「もう皆は、行ってしまったの?」
小さい子供達は、大きくうなずくと、大きな声を出して泣き出しました。
「うわーーーん!! うわーーーーん!!」
大きい子達は、この子達には行く事を話していたようですね。
私に言うと反対されるから、私にだけは黙っていたのでしょう。
大きい子達は、きっとよく考えての事でしょうね。
私は追いかけるのを、あきらめました。
その代わり、あの子達の個室を見に行きました。
「うふふ、あの子達」
「レイカ姉、どうしたの」
小さい子達は、泣き止んで私の後ろをついて来ています。
「うふふ、ちゃんと持っていってくれたみたいです」
私は、子供達の部屋に、一つずつ武器と、等分に砂金を分けた物を枕元に置いておきました。
それを、しっかり持っていってくれたようです。
「よかったね」
チマちゃんが言ってくれました。
「うん」
既に村での、木人狩りではレベルがほとんど上げられなくなりました。
だからあの子達は、社会に出て成長しようと考えたようです。
まだ、十歳と九歳の子達ですが身長は百六十センチを超えています。
見た目で、子供扱いはされないでしょう。
強さも、あの子達が瞬殺する木人は、一体で大きな山のクマをも凌駕します。
ここは、心配は尽きませんが、あたたかく送り出してあげましょう。
イクサちゃん、ライちゃん、アサコちゃん、トウカちゃん、そしてマイちゃん、お元気で……。
五人はヤマト村を巣立って行きました。
私は、一人になってから誰にも気付かれないように大声で泣きました。