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猫まね
猫柳円
文芸・その他ショートショート
2024年11月08日
公開日
1,068文字
完結
「吾輩」こと猫のタマは、人間が猫のマネばかりしているのは「猫族を尊敬しているから」だと思っていたが……。

猫まね

 人間。特に人間のメスというものはわれら猫族の真似まねばかりしている。

 クネクネとした歩き方からピカピカとした爪、それに黒く、時には赤く縁取ふちどられたまなこなど、実にそっくりに真似ようとしている。

 しかしながら、子が親を真似るように『真似まねる』という事は尊敬のあかし。悪い気はしないのである。



 吾輩と同居している人間の若いメスは、より一層われらに近づくために爪研つめとぎもしている。ただ、不器用なために自分だけではうまくげないらしい。たまに『ねいるさろん』なる所へ出掛けていく。かわいいヤツだ。


 ある寒い日の事、吾輩はキャリーバッグに入れられて薬品くさい場所に連れてこられた。

「1日の入院で済むんだって。終わったら迎えにくるからね」

 人間のメスはそう言ったが、

 なんだか不安になってにゃーにゃーと抗議するも、「いしゃ」という人間におりに入れられてしまった。

 こうなっては眠るしかない。


 目が覚めると、何やら全身が少ししびれたように力が入らない。寝過ぎてしまったのだろうか……?

 吾輩はいつものようにゆっくりと毛繕けづくろいをしてウォーミングアップをすることにした。

 手、顔、腕、腹、また……んん!?

 そこで、違和感に気がついた。

 在るべき所にあるものがない!


 驚いたことに、ふぐりが無くなっているのだ!! (※『ふぐり』とは金玉のことである)

 どういう事だ……!? 吾輩のあのプリプリふわふわしたふぐりは何処いずこへ……?


「ごめんねタマ。迎えに来たよー! がんばったねぇ」


 猫撫で声で言う人間のメス。

 しかしその両耳には恐るべきモノがぶら下がっていた。

 吾輩のふぐりである。

 思わず手を伸ばす。


「あはは。ファー付きイヤリング、揺れるからやっぱり気になるんだね。でもこれはオモチャじゃないから、触ったらダメだよ〜。でも、手術後なのに元気そうで良かった」


 恐ろしい。なんて恐ろしい生き物だ。

 吾らの姿形すがたかたちに近づきたいからといって、吾輩の大切なふぐりまでも手にかけるとは……!


 家についてから暫くはベットの下やソファーの下など、ならべく人間のメスの手の届かない所に居るようにしていた。

 これ以上何かられたらかなわぬ。

『てれびじょん』で見たが、最近は猫耳も流行っているらしい。こわや。こわや。

「タマったら、いいかげんにご機嫌直してよぅ」

 何を言うか。ふぐりを盗っておいて。

 もう二度と信用しないぞ。


 ……だがしかし、それはそれとしてベットの下は寒い。

 猫にとって人間は椅子いすのようなもの。

 そろりそろりと人間のメスのひざの上、

 毛のないすべすべとした温かい座面ざめんに這い上がると、やがてうとうととしてしまい……。


「タマったら。お腹を出して寝て〜。まるで人間みたいね」

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