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第9話 或る事故物件

 金田のマンションまでは、駅の東口から大通りを歩いて約十分。だが、今回は大通りではなく、森林公園の中を突っ切った。公園は二十四時間解放されており、夜は昼間とは違う顔を見せている。

「今日は公園の中を通るのか」

「そうだ。たぶん、当時犯人もここを通ったはずだ」

 移動中に、ミズキに三年前に起きた玉地区少年少女連続誘拐殺人事件たまちくしょうねんしょうじょれんぞくゆうかいじけんの概要を話した。その事件の犯行現場の一つが、金田のマンションの近くであることも話した。

 昼間は犬の散歩をする人や親子連れで賑わう公園も、夜になるとすっかり静まり返っている。

「誰もいない」

 家路を急ぐ人間が、少しは公園内を歩いているかと思ったが、誰ともすれ違わなかった。事件があった場所だから、忌避されているのかもしれない。

「暗いからな。ここを通って帰ろうって人間は少ないんだろう」

 二人の会話はほんの呟くような声だったが、しんと静まり返った公園に響いた。街灯はあるが、木々の茂みに阻まれ、充分に明るいとは言えなかった。十時を回った現在、人もいなく、道は暗い。

 公園の周囲には明かりの点いていない家も多かった。おそらく、空き家も多そうだ。――一人で歩く少年少女を連れ去るには、やりやすい場所だっただろう。

「その殺人事件と、今回の金田の自殺と、どう関係があるんだ」

「本当に関係があったかどうか、これから確かめに行く」

 ミズキは視線だけこちらに向けて、考え込むように口を閉ざした。

「三年前なら、まだ俺は生まれていない」

「そうだな」

 三年前に、ミズキがこの世にいなくてよかったと思う。ミズキの見た目は、まさに犯人が好みそうな、大人になりきる前の美少年だ。

「当時は毎日報道されてな。テレビのコメンテーターが、どんな人間がこんな残忍な殺人を犯したんだってプロファイルまがいのこともやっていた。捕まった時は、みんなテレビにかじりついていた。あんな残酷なことをする人間はどんな顔をしているんだ、どんな人間なんだって。――凶悪な顔つきの犯人でな、捕まった時は報道のカメラを思いっきり睨んで『撮るな』って怒鳴って」

「――撮るな?」

「俺は殺人犯の心情を理解しようだとか、理解できるだとかは思わない。けど、あそこまで自己中心的な、邪悪な人間は初めて見たと思った。三人もの子供の命を奪っておいてまるで悪びれない……」

 やがて見覚えのあるレンガ調の外壁のマンションの裏側に着いた。

 自転車置き場があり、正面の凝った雰囲気とは違う、飾り気のない裏口が現れる。建物脇に、薄暗い照明に照らされた外階段があり、四階ならば、外階段を昇って帰るのも苦ではなかっただろう。

 大通りから少し奥まった区画なので、ひと目もほとんどない。たとえ手や服が血で汚れていたとしても、このマンションに住む人間と鉢合わせないよう気をつければいいだけだ。

 マンションの正面に回り、やはりここだと確信した。

「ここは『大島てる』には載らない。殺人や自死は起きていないからな」

「ここでは、だろう?」

 察しのよいミズキは、すでに気付いているようだ。

「殺人や自死が起きるよりも、もっと怖い場所だ」

「……殺された人間じゃなくて、殺した人間がいたところ、だな」

 402号室。

 金田が引っ越してくる以前――

「そうだ。おそらく金田の部屋は、連続殺人犯が住んでいた部屋だ」


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