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女子高生に歴史を語らせるな!
独楽居十四彦
現実世界青春学園
2024年11月08日
公開日
3,351字
完結
主人公は、自分たちの都合で勝手に歴史を変えようとする女子高生を、マークしている。

女子高生に歴史を語らせるな!

 僕は鈴村真一。高校二年生。

 将来は、公安の仕事に就きたいと思っている。

 そう、公安――。この国を陰ながら守る仕事に就きたいのだ。陰ながら、というところが僕にピッタリだと思っている。(決して、陰キャらだからという理由ではない!)

 そんな僕は普段から、将来こいつは日本に害をなす人物になるだろう、という奴を監視している。

 そして、いたのだ。うちの学校に。超危険人物が!


 朋子と恭世だ。


 この二人は、僕とはクラスは違うが、同学年。見た目からして派手なので、目立つ存在である。

 彼女たちは、いつも中庭でお弁当を食べる。その時、とんでもない会話をしていたのだ!


 これは僕が、彼女たちの会話を盗み聞いた記録だ。(決して、お弁当を一緒に食べてくれる友達がいなくて、ボッチ飯を決め込んでいたわけではない!)


「昨日の夜、うちのおじいちゃん行方不明になってん」

 朋子が、事件を匂わせるようなことを言い始める。

「やばいやん、それ」

 心配気に応じる恭世。

「めっちゃ焦ったけど、外に向かって『おじいちゃん、ご飯やでー。今日はカレーやでー』て言うてたら、走って帰ってきたわ」

「カレーはひとりのボケ老人を、少年に戻すんやな」

「ほんまやで」

 事件でも何でもなかったか。

「5時間目の日本史、面倒くさない?」

 朋子が不満をもらすと、恭世がとんでもないことを言い始めた。

「そもそも、何でそんな大昔のことが分かるんやろな。直接見たわけでもないのに」

 学者先生たちの長年の調査を疑うというのか、お前たちは!

「そやねん。もしかしたら学者のただの妄想かもしれへんことを、うちらは必死に覚えさせられてるんやで」

「それで間違えたら、こっちがアホ扱いされるしな」

「やってられへんわ、ほんまに」

 なんて不届きな奴らだ。危険すぎる。こいつらは危険すぎる!

「『卑弥呼』って奴いるやん。漢字で書くのが微妙に難しい女」

 また朋子が不満を漏らし始める。

「いるいる。特に難しい漢字やないねんけど、いざ書くとなると書けへんねん、あいつの名前」

 あいつって言うな。日本の初代女王だぞ!

「卑弥呼の呼、『呼』ぶって漢字使うねんで。子供の『子』でええっちゅうねん」

「もう平仮名でもええぐらいやわ」

「そもそも卑弥呼に名字はあるんかな?」

「無いことは無いんちゃう」

「どんな名字やろ?」

「偉い人やから、それっぽい名字とちゃうかな。江戸川とか目暮とか」

「竈門とか煉獄とかか」

 普段どんなアニメを見てるのか、今ので分かったぞ。

「でも、あの人らは跡継ぎをたくさん残そうとするやろうから、今現在たくさんある名字とちゃうか?」

「ほな、佐藤とかかな」

「佐藤卑弥呼――。なんか近所にいそうやな、そんなおばちゃん」

 日本の初代女王を、近所のおばちゃん扱いするな!

「それか、もしかしたら卑弥呼って、おっさんやったかもしれへんな」

 また朋子がとんでもないことを言い始めたぞ!

「有り得るわ。卑弥呼って、名前の最後が『こ』やから、つい女やと思てまうけど、ほんまは男やったと」

「そうそう。男って、アホみたいにてっぺんに立ちたがるやん」

「そう! まるで、てんとう虫みたいにてっぺん行きたがるねん、男って!」

 フッ、てんとう虫って、クククッ。――って、笑ってる場合じゃない!

「名前もほんまは卑弥呼やなくて、『卑弥呼ノ助』やったかもしれへんしな。それがいつの間にか卑弥呼に省略されてしもたんやわ」

「それは……有り得るな」

「有り得るやろ」

 有り得ないよ!

「ほな、卑弥呼の正式名称は、『佐藤卑弥呼ノ助』で決定いうことで」

「よっ、佐藤卑弥呼ノ助! よっよっ!」

 大変だ! 卑弥呼が、佐藤卑弥呼ノ助に改名されてしまった! こいつら、何の権利があって歴史を変えようとするのだ!

「でも、ちょっと長ない?」

「そやな。かえって漢字が増えてしもたし、やっぱ元の『卑弥呼』に戻しとこか」

「そやな」

 急転直下の原点回帰! しかも漢字が多いからという理由で!


 結局この後、富士山に何度も登りたがる奴は、卑弥呼の子孫である可能性が高い、と結論付けて、二人はお昼を終えた。


 こんな具合に、この二人は、自分たちの都合のいいように日本の歴史を変えようとするのだ。

 またある時は、こんなこともあった。例によって場所は中庭。お昼休みの時間だ――


「昨日の夜も、うちのおじいちゃん行方不明になってん」

 また朋子の祖父の話から始まった。

「またなん?」

「『おじいちゃん、今日もカレーやでー』って叫んでんけど、おじいちゃん、帰ってけえへんねん」

「やばいやん、それ」

「うちもやばい思て、『今日は二日目のめっちゃ旨いカレーやでー』って叫んだら、おじいちゃん猛ダッシュで帰ってきたわ。しかも、先っちょの割れたマイスプーン持って」

「常に持ち歩いてんのかいな」

 フッ、先っちょの割れたマイスプーン持参って、どんだけカレー好きなんだよ、クククッ。――って、どうでもいいんだよ、お前のジジイの話は!

「『本能寺の変』っていう殺人事件あるやん」

「織田信長が殺された、あの事件な」

 本能寺の変を、殺人事件と言うな!

「あれ、部下の明智光秀って人が犯人やってんけど。未だに犯行動機分かってへんらしいで。でもな、うち、分かってもうてん」

「マジで?」

 朋子ごときに分かってたまるか。お前はジジイの心配をしてろ!

「それはな――朝が早かったからやねん。朝が早すぎたせいで、攻める方向間違えてしもてん」

「ほお~!」

 『ほお~』じゃない。そんなわけないだろうが!

「実は、あたしもあの事件について考えたことあんねん。あたしの推理、ちょっと聞いてくれる?」

 恭世も考えただと。いったい、どんな推理をしたのだ!? 聞きたくないけど、聞いてみたい気もする!

「明智光秀ってな、けっこう年とってはったらしいから、ボケてはったんやと思うねん」

「認知症やったんかいな。うちのおじいちゃんと一緒やん」

「そやから、よう分からへんまま本能寺に行ってしまわはったんやと思うねんな」

 まさかの明智光秀、徘徊説!? どうしたら、そんな発想が出てくるのだ!?

「『敵は本能寺にあり!』って有名な言葉あるけど、あれ、ほんまは『敵は本能寺に……あり?』って小首傾げながら言わはったんやと思うわ」

「なるほど。自信満々に叫んだんやなくて、自分に問いかける感じやったと」

「そう」

 そんなわけないだろう! お前たちは、名言まで変えようとするのか!?

「そやったら続きがあるかもしれへんな。『敵は本能寺に……あり? う~ん、どないやったかなぁ……おばあちゃ~ん』って、ここまでが明智光秀の言葉やったんちゃう? うちのおじいちゃんみたいに」

 だから、お前のジジイを出すなって!

「そやのに最初の言葉だけが間違ったニュアンスで伝わってしもたんやろな」

 明智家の遺族に怒られるぞ、お前ら!

「もしくは、信長はマジシャンやったとかな」

「えっ、ということは、本能寺の変はマジックショーやったってこと?」

「そやねん。ちゅうことはやで――」

 ちゅ、ちゅうことは……? いったい何なんだ!?

「明智光秀もグルやったっちゅう可能性が出てくるねん!」

「そうきたん! そうつながってくるん!」

「そやねん。あれは信長と光秀が仕掛けた世紀の大マジックショーやったねん!」

 なんと、本能寺の変が世紀の大マジックショー!? ――って、そんなわけねえだろうが! いい加減にしろ!

「何百年にも渡って、みんなを騙し続けてきたんやから、信長も光秀もたいしたもんやで」

「でも、あたしらの目はごまかせへんかったな」

「信くんも光ちゃんも、まだまだお子ちゃまやな」

 日本の偉人をガキ扱い! お前らいったい何様なんだ!?


 と、こんな具合なのだ。

 僕は、これからも彼女たちを監視し続けようと思う。

 そして晴れて公安になったら、彼女たちを日本冒涜罪で逮捕してやるんだ!(そんな法律があるのか知らないけれども。なければ作ってやるさ!)


 誤解されると嫌なので言っておくが……僕は決して彼女たちの話を面白がって聞いているわけではない。(そりゃあ、たまに吹き出してしまうこともあるけれども。次はどんな話を聞かせてくれるのかな、って胸が弾む思いでいるのは確かだけれども)


 他にもまだまだ彼女たちの調査報告書はあるので、機会があればお伝えします。


 最後に――僕も先っちょの割れたマイスプーン買いました! カレーライスの日が待ち遠しいです!


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