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第26話

「これは、なんですか」


 ポルックスは目玉焼きを見るのは初めてだった。目玉焼きを売っているコンビニはレイブンも見たことがない。作れないからこそ、目玉焼きぐらいは常識で知っておいてもらおうと思った。


「目玉焼きだ」


「目玉を焼くのか。誰の」


 紫水がぷっと吹き出し笑いをして、ごめんねと謝った。謝罪しているのに笑っている。謝ってもらった気はしない。


「ポルックス。誰の目も焼いていない。これは鶏の卵を割り、フライパンで焼くとこうなる。分かったか」


「そうなのか。レイブン。このまま食べれば良いのか」


 紫水が塩。ソース。マヨネーズ。醤油。ケチャップ。ポン酢を置いた。意味が分からず疑問の視線をポルックスは向けた。


「ポルちゃんが好きなのをかけたら良いよ。

シンプルな味が好きならお塩。濃い味が好きなら、ソース。マヨネーズも一緒にかけても良い。

さぁどうぞ。使ってください」


 ポルックスは何となく全てを使いたくなかった。馬鹿にされているような気がしてならなかった。


「トイレをお借りします」


 紫水の視線、レイブンの視線から逃れるように、ポルックスはトイレに逃げてしまった。どうしたらいいか分からなくて。直ぐに思い直してトイレから出た。2人の声が聞こえてきた。


「純粋過ぎないか彼。向いてないよ。

 レイブンの仕事の助手には」


 「分かっているのだよ。彼は汚れも闇も知らない。だからこそ眩しく見える。無知は罪だ。彼には本当にやりたいことをさせたい。こちらからは何も言わないのだよ」


 無知は罪。やりたいことをさせたい。やりたいことって何。おれは常識も何も知らない。それでも少しはレイブンのことが分かっているつもりだった。


「情けなぁ。おれ。何にもなれてなかった。レイブンの」


 何故だか、ポルックスは泣きたい気持ちになった。



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