美しい彼女に見惚れていた。ジンだけは気付いていた。ここで死んだお嬢様の家族、兄妹、親戚だけは顔色が悪くなっている。車椅子を押しているのは主催者代理レイグリス。ジンは彼を怪しんでいた。何もしていないから逮捕も監禁も出来ない。
「お嬢様。どうぞ」
レイグリスが彼女を立たせる。美しい青い瞳。胸元に輝く宝石が彼女の美しさを際立たせる。
「ありがとう、レイ。ダンスパーティーをはじめましょうか。最初で最後の楽しい楽しいパーティーを」
「嘘よ嘘よ嘘よ」
彼女を指差して取り乱しはじめたのは、ここに入院していたお嬢様の母親。
「落ち着け。あれが生きているわけがない」
「だってあなた、立って話しているじゃない。
わたくし達家族が、親戚一同が話し合って毒を盛り殺したはずなのに」
突然の自白に静まり返る会場。聞こえてきたのは、女性の笑い声。車椅子から立ち上がった彼女だった。
「レイ。あなたの言った通り、虚しいわね。殺される。分かっていたけど、毎日兄妹が父様、母様が淹れてくれるココアが大好きだった。家族だって認められた気がした」
「ナタリー嬢。それでもおまえは家族を愛した。
殺されると分かっていても、家族を信じようとしたおまえを誰も笑わない。笑う権利はない。
おまえの夢を叶えよう」
パチン。
レイグリスが指を鳴らす。会場の音楽がワルツの曲にさま変わりした。彼女のささやかな夢。最後に叶うならダンスパーティーでダンスを踊りたい。元気だった頃、彼女はダンスが生前1番の特技だったのだ。