「レディース&ジェントルメン。紳士淑女の皆様。今宵素敵な夜を過ごせますように。わたくし支配人代理レイグリスでございます」
支配人代理。レイだ。声で分かる。レイが作った声を変える魔道具を使っていても、レイの声だけはポルックスには分かる。
「あの人は何を」
「優しい人ですね。優しい怪盗さんだ」
最初に出会った医者骸骨。依頼したのはこの医者で、レイブンが盗むにあたいすると判断したから盗みに来ている。医者だけは概要も作戦も知っている。ポルックスはまた不自然な自分の体から魔力の乱れを感じた。
「優しいと言うより、変人なだけですよ」
給仕さん。チャラそうな見た目の客がポルックスを呼ぶ。話しを中断させて、ポルックスは呼んだ客の元に向かう。ポルックスの様子をレイブンは見ていた。レイブンは面食いだからと言う理由だけで顔が良い男に見えるようにしたわけでは無い。女性も男性も顔が良ければ目がそちらにいく。其れが狙いだった。
「わたしも行動開始しますか」
パーティー会場を後にして、別室に移動したレイブン。窓からさしこむ月の光に照らされて、車椅子に座る金髪の女性がいた。顔は医者と同じ骸骨。彼女を愛おしい物を見るかのようにレイブンは見つめる。蕩けるような笑みを浮かべてレイブンは言う。
「さあ、行きましょうか。お嬢様」
レイブンが懐から取り出したのは綺麗な桜の柄が彫られた手鏡だった。