「おお、ここが……」
「想像してたより深そうだな」
「落ちたらどうなんだ?」
「押すなよ。これ落ちたらシャレになんねえぞ」
四人の賑やかな声を聞きながら、あたしは四人のちょっと後ろから滝を眺めることにした。
あたしはこの間覗き込んでいるからね。今回は譲ってあげよう。
滝になる前の川はそれなりに大きい。ここより上から流れてきてるから上流へ行けばもしかしたら、山頂付近から流れているのかもしれないけど、とりあえず今はそこまで行くつもりはない。というか、行けない。
行ったら怒られるからね。それに、狼に追いかけられたばっかりだもん。また狼が出てきたら嫌過ぎる。
上に行くためには狼の活動が減る時期の方がいい。
滝壺にどうやってたどり着けるか。あの辺に剣があるか知りたいのに、どうやって行こうか。
ここから降りられたらいいのに、パッと見近くに降りれそうな場所が見当たらない。
どうしよう。どこから行けばいいのだろうか。
下からはまだのぼったことのないルートの方が多く存在しているから、下からしらみ潰しに探して行くしかないよね。
それともこの滝は一旦諦めて、別のところに行く?
それは、宿のおばさんに下に狼が出る間は駄目だって言われてるから外にも行けない。
しばらくはこの山の麓で過ごすしかないか。
その内、山に入るのが解禁されてからまたここに来ることがある
いつかはこの下の滝壺にもたどり着くはずなんだけど、下の滝壺から川下になっている先を辿って行けば、木々に邪魔されて先がどこへ続いているのか分からない。
麓には川がなかったし、多分別のところに流れてしまっているのだろう。こういう時、ちゃんとした地図がないのは不便。
この辺りで川がある場所ってどこなんだろう。
麓の辺りは井戸だったし、近くに川があるなんて地図にも書いてなかったから結構離れているとか?
考えてみたけど、滝に夢中になっている四人に聞いてみるかと、未だにはしゃぎ続ける彼らに近寄って行こうとした時、パキリと枝が折れる音がどこかからした。
今ここにいるのはあたしたち五人だけのはず。
麓の人たちの有志の集団はまだ別のところで他に狼がいないか、探しているはずだもん。
じゃあ、何だろう?
鳥か何かの小動物だったらいいんだけど、他の狼だったらとても困る。
それに、今はあたしが見張りみたいなもんだもん。音を無視しちゃいけないでしょと音の発生源はどこだと辺りを見回す。
「あ」
狼だ。
さっき倒した狼より一回りぐらい大きな狼があたしたちのことを睨んでいた。
何でまた狼が出てくるのよ。この間ここに来た時はいなかったのに、タイミングが悪い。
もしかして、四人のすぐそばに置いてある狼の死骸のせいで怒って出てきたとか?
狼の存在に気付いた時には一歩後ろに下がっていた。
「あ、あ……狼! 狼が出た!」
「えっ……」
「わっ!」
「おい、やるぞ!」
「分かってるよ!」
けど、四人に狼が出たことを伝えないと、全員危ない。
慌てて叫んだらば、さっきまで滝に夢中になっていたのに、あたしの声にハッとしたように彼らは立ち上がって狼を睨みながら腰にさしていた剣を抜いた。
「くそっ! 何でこっちに出てくんだよ!」
「知るか! そんなことよりお前も戦え!」
狼に一太刀二太刀浴びせようと剣を振るってる姿を見ていたら、ジャンに下がっているように言われた。
確かに戦えないあたしがいたら邪魔になる。
言われた通りに邪魔にならないようにと、崖近くにまで下がる。
ジャンがあたしの前に立つのは守ってくれているのだろう。
三人の戦いを見ようとしたが、ジャンが見ないようにと配慮しているのか、邪魔をしてくる。
見たいけど、守られている立場だからそんなこと言わずに隠れていた方がいいよね。
みんなが怪我をしないこと祈るしか出来ないのはもどかしい。
やっぱり王都に戻ったらすぐにグロリアに教えてもらおう。
でも、それだと遅いかな? この人たち後であたしに剣術の稽古つけてくれないかな。それが無理なら護身術だけぐらいは教えて欲しい。
「おい!」
「あぶねえ!」
「そっち行ったぞ!」
「は?! ふざけんな!」
ジャンの声が焦った物になった。あたしにはジャンの背中しか見えないけど、こっちに狼が向かってきていることだけは分かった。
このまま避けて狼があたしたちのことを滝壺に落としてしまえばいいんじゃない?
毛皮とか取れないのはもったいないけど、背に腹は変えられないでしょ。
「ジャン、あのね」
「危ないから下がってろ!」
「え」
「あ」
ジャンの服を引っ張って横に逸れようとした瞬間、ジャンが剣を抜いて下がるようにってあたしを押した。
そのタイミングが悪かったのか、掴んでいたはずのジャンの腕に振り払われあたしの体はぐらりと傾いた。
あたしは狼を避けるために崖の方に下がっていた。
場所も悪かった。
傾いて行く体と焦ったようなジャンの顔と狼の驚愕したような顔に場違いながら狼も意外と感情が分かりやすかったりするのかと、驚きながら頭から落ちた。