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第61話

「えっ、あの山に入っちゃ駄目って急に何でですか!?」

「それがねえ──」


 麓に戻って滝の件を伝えると、宿のおばさんにすぐに申し訳なさそうに山に入っては駄目だと告げられてしまった。


 せっかく山の知っているかも不明な情報持って来たのに、あんまりな仕打ちじゃない?


 それに、あたし山に用事あるって言ったじゃん!


 何でいきなりこんなこと言われなきゃいけないのよ。


「麓の方にも狼が出るようになったのよ。危ないからしばらくは入らない方がいいわ」

「そうそう。その内ここの男連中が有志募って退治しに行くから、それまで待っていた方がいいわよ」


 宿のおばさんとその友人のふくよかなおばさんの話しだと、数日前から動物がいなくなる。もしやこれはと思い、見張っていたところ狼が鶏をくわえて持って行ってしまったらしい。


 あたしがいない間に麓の人たちは集まってどうするか話し合ったらしい。その場にいたらと思わなくもなかったが、あたしはよそ者なため、その集まりのことはいたとしても教えてもらえなかったかもしれない。


 それだったら意味ないよね。麓の人たちで勝手に決まってしまったんだもん。よそ者のあたしがとやかく言ったって馬鹿にされたり、最悪追い出されてしまうかもしれない。


 それなら、大人しく彼らの言うことを聞いておいた方がいいでしょ。


 でも、退治してくれるのはいいけど、もっと早く退治してくんないかしら? 何で数日掛かるのよ。そんなに忙しい訳?


 聞けば、他のところに働きに行っている人もいて予定を合わせないといけないんだとか。


 ここの人たちも生活があるから仕方ないんだろうけど、なんだかなぁ。もう少し何とかならなかったんだろうか。


 狼は発情期で気が立っているはずだから、刺激しない方がという声も上がっているらしいけど、あたしからしたらそんなことどうでもいい。


 わりかし順調に探して回っていたのに、ここでストップ掛けられるとは思わなかったんだもん。


 ついてない。何で今日までは行けていたのに、明日からは狼のせいで行けなくなるのは、ちょっとねえ。


 順調だったのかは分からなかったけど、狼の姿なんて見てなかったからかなりびっくりしたもん。何でこんな時に出てくんのか。


 麓の人たちの話を無視して山に行きたい気持ちはある。だけど、それがどれだけ危険なことなのかもちょっと考えたら分かるだけに、勝手な行動に出にくい。


 狼が退治されてから行った方が安全なのは分かる。分かるけど、あんまり分かりたくない。


 狼退治の集団に混ぜてもらえないかなと思ったが、麓の人たちの話を聞く限り男性しか行けなさそうな雰囲気。女性が行けたとしても、よそ者の女の子なんてお呼びじゃないらしい。ものすごく残念。


 宿のおばさんたちの会話は段々と狼の話題から普段の生活の話へと変わって行ったため、それ以上は聞けなかったのであたしはその場を離れた。


 離れた後麓の人たちの会話に耳を傾けたり、話を聞きに行ってみたけど、麓の人たちの会話はどれもあまりよろしくない。これは着いて行くのは無理っぽそう。


 このままここにいても、あんまり狼が退治されるまでここにいるか、それとも別の山から調べに行くか。


 どっちがいいのだろうか?


 半分ぐらいまで来たんだもん。別のところに行ってすぐに戻ってきてもいいんだよと囁く自分もいるが、この山は大きいから中途半端なところで止めたら分からなくなってしまわないの? と囁くうるさい自分もいる。


 ここまで一応順調だったのに、こんなところで足止めされるとは思ってなかった。


 ここに残るか、別の場所へ行こうかどっちにしようか迷ったけど、動けないのにいつまでもここにいては時間と宿代がもったいない。


 また後でここに戻って来ればいいやと、早々に荷造りをして宿を出ようとしたけど、無理だった。


 宿のおばさんには日が落ちると危ないからと引き留められてしまったが、どうしてもあたしは行きたかったため、ちょっと揉めてしまった。


 一応宿のおばさんの言うことも分かるので、一旦落ち着いて狼が退治されるのを待ってから出ることにした。


 その間暇になるし、お金を稼げないかと相談してみた結果、宿の下働きを住み込みで出きることになった。


「引き留めたのはあたしたちだからねぇ。ちゃんと働いてくれるんだったらいいよ」

「本当ですか!? あたし頑張ります!」


 しかも、まかない付き! これは頑張るなっていう方が無理でしょ。


 宿代は取られるらしいけど、一応割引してくれるそうで思わぬラッキーに飛びはねて喜びそうになったが、ジゼルに注意されていたため我慢した。


 山にも他のところにも行けないのはちょっとあれだけど、余裕が出来たと思えばなんとかなる。


 狼退治まで数日あるらしい。すぐに行ってくれる訳ではないことに落ち込んだけど、その間は時間も出来る。  


 今まではバタバタしていたけど、少し余裕が出来たからユリアたちに手紙でも書いてみようかな。


 やりたいことリストもちょっとずつ書いていたし、あれを同封してユリアにも書いてもらおう。ユリアのしたいことってなんだろうな。


 とりあえず、しばらくはバリバリ働いて頑張ろう。


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