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第60話

 いくつもの山を巡り、多分西の方にある山の半分ぐらいは来た。


 山に入るまでは、自分の体力はかなりあると思っていたけれど、前よりも脚がたくましくなったような気もするし、身長も王都を出た時よりも伸びた。


 色々と体が変わって来たけれど、まだ祝福の力を無効化する剣は見つかってない。


 さくさくと見つけて戻れたらよかったのに。


 物語とかだとすぐに見つけられるよりも艱難辛苦の末にって感じだからそれよりはマシなんだろうけれど、それでもさくさくと見つけてさっさと戻りたい。


「ユリアに会いたい……」


 会って抱きしめたい。お互いが生きていることを確認したい。そして、お茶を飲みながら話をしたい。たわいのない話をしていたい。けれど、それはつかの間の夢のような時間。


 あたしのやるべきことはあの国の王子に復讐することだもん。


 ただの慰めだ。そんなことをしていても、ユリアが受けた傷が消える訳じゃない。


 そりゃ、復讐したって傷は消えないのはあたしだって分かってる。でも、あいつだけは許せない。許したくないんだ。


 だから、復讐してやる。


 それなのにあたしは山に入って今日もうろうろしているだなんて。いつになったら復讐出来るのか。


 そのためにはさっさと剣を見つけて王都に戻らないといけないのに、何でまだ見つからないのよ。


 見つけて帰ったら王様からの残り二つのやることをやらないといけないのに、今日も何も見つけられない。


 時たま野生動物は遠目に見かけることはあるが、今のところ追いかけられたりとかないのは運がいいのだろう。


 熊とか狼が出るっていう山もあったし。


 一回路銀が尽き掛けたこともあったけど、山に行くので珍しい薬草とか採ってきてお金を稼いだりしていたからしばらくはまた大丈夫。


 問題があるとしたら帰りのことぐらいでしょ。


 また馬車がとんちんかんな場所に行ってしまわれると帰るのが遅くなる。


 そうならないようにするのはやっぱり歩きかな。


 山歩きでたくましくなったけど、王都までの距離を考えるとうんざりする。ジゼルが迎えに来てくれるとかしないかな?


 無理かな? 誰の力も借りないのならば、ジゼルを待つのもダメだよね。


「ん? あれ?」


 何だ? 視界に何か入ったような気がするけど、なんだろ。


 羽音は聞こえて来なかったけど、鳥が飛んだとか?  


 狼だったら困るけど、あっちはまだ行ってない方だし、見に行ってみようかな。


 どうせどこを見ても剣なんて見つからないんだもん。どこを見たって同じだ。それならどこを見たっていいじゃないか。


 今いる山はかなり大きな山で、地元の人も麓付近しか入らないそう。


 上の方は空気も薄いし、ここは狼が出るらしいからとのこと。地元の人に獣避けの香をもらったからかまだ姿を見てない。


 香のお陰で安全に動けているから文句はないが、深くまで入り過ぎたら帰りが遅くなる。あんまり遅くまでいたら危ないから程々のところで戻らないと。


 空を見ればまだ中天を通り過ぎた辺り。


 これならまだしばらくは動き回っていても平気だろう。


 さっきちらっと見えた物を見に行っても大丈夫でしょうと考えて移動し始めたらばすぐに川のせせらぎが聞こえて来た。


 近くに川があるらしい。川の流れが太陽の光に照らされて、光っていたのかも。


「わっ!」


 そんなことを考えながら川に近付いて行く。散々歩きとおしだったから疲れて休憩したいと思って川にたどり着くとそれが見えてきてびっくりした。


 川下に続くところをたどって行けば、途中が川はぷつりと切れてどうやら下に流れて行ってるみたい。


 どれぐらいの高さなんだろうと崖下を覗き込めば、かなり高いことが分かった。


 滝のゴウゴウと唸る音が凄くて、かなりの迫力がある。


 そして、かなり下に滝壺がある。これに落ちたらただでは済まなさそうで、そろりそろりと滝から離れる。


 こんなところに滝があったとは思わなかったよ。麓の人たちは知ってたのかな? と思ったけど、知っていたのなら事前に話してくれているはずだ。


 とりあえず、滝壺の方は分からないけど、崖の部分にはなさそう。


 どうしよう下に降りてみる? 直接は降りれないだろうから道を探した方がいいかも。


 それか、今は一旦下を探すのは諦めて別の日にまた来るか。


 かなりの高さがあるから別のルートを探したい。


 とりあえず、地図を出して滝の場所を確認する。


 この山は麓にも中腹までのおおざっぱな地図しかない。だから、この滝のことも書いてあるかと思ったけど、書いてなかったので辿って来たと見える景色から大体の位置を書き込む。


 戻ったら麓の人たちにも山のこと教えて欲しいと言われてこの地図を預かって来たんだもん。


 あ、でも、書いてないのなら麓の人たちも知らないってことだよね。麓の人たちに話しても装備があるかどうか。


 ちょっと迷ったけど、なかったらなかったで考えればいいだけだもんね。


 そう考えて滝の位置を覚えて、その日はもう少しだけ山の中をうろうろしてから麓に戻った。

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