「ここも違ったか……」
とりあえず三つ目の山もしらみ潰しに歩いてみたけど、ここにもなかった。
小さい山なら一日で済むけど、大きな山となると一週間以上歩き回っても終わらなかったりする。
それなのにあたし一人でってかなりの無茶ぶりだ。
何であの時のあたしは何も考えずにやりますと言ってしまったのかと過去の自分を殴りたくなってきた。
過去の自分はあの時何を考えていたのか……いや、あの時は何も考えずにとっさに返事をしてしまっていた。
後先考えずの行動は後々後悔させられることになる。いい勉強になった。
もう二度としたくないけどね。
とりあえず、今日も今日とて山に入る。最近では山に入ってばかりだからか服がボロボロになるのが異様に早い。
それになんか引っ付いて来る草とか種も沢山あって洗濯出来ないと宿の人に怒られた。
何だあれ。今まであんなのがあるなんて知らなくて、びっくりしてしまった。
ちまちま取るにしたって時間が掛かって仕方ない。
ジゼルに買ってもらった服も、ジゼルのところに行く前に着ていた服も山じゃ動きにくかったので、こっちで買った服を着ることにした。
あんなのどうして生えてるのよ。服に着いたらチクチクして痛いし、生地が痛む。こんなのいつまでも相手にしてられないと選んだ服だったけど、だいぶいい。
あたしが選んだ服は、男の子みたいな格好だけど、格段に動きやすくなった。
これでさくさくと山の捜索が終わってくれたらいいんだけど、そうは行かないのが山というものらしい。
「あ、雨……」
ぽつりぽつりと当たって来たそれにすぐ止むかと待ってようか。
山の天気は変わりやすいと言うし、今麓の村にある宿に戻ってすぐに止んでしまったら戻ったらもったいない。
だったら止むまでどこかで雨宿りした方がいい。
「洞窟とかあればいいんだけど……」
今のところこの山ではそんなものは見ていない。
まだ見てない場所にあるかもしれない。
ぽつりぽつりと降る雨を避けるように走り出せば、すぐに本降りになってきてしまった。
これじゃ動けない。
慌てて近くの大きな木の下に逃げ込む。
「宿に戻る暇もなかったな……」
今から宿に戻ってもびしょ濡れだ。宿の人に嫌な顔をされてしまうかもしれない。
宿で働いていた時は床も濡れるし、タオルも余分に出さないといけない。
お客さんに文句は言わなかったけど、裏では客の良し悪しをあれこれ話している人もいた。
ああいう人にはなりたくないと思っていたけど、反対の客の立場からだとそういう人は嫌だし、そんな宿泊まりたくない。
しかも、うっかりそんな場面に出くわしてしまったら余計嫌だ。
あたしの精神衛生と山の捜索することを天秤に乗せた結果あたしは山に残ることにした。
それに、もしかしたらすぐに止むのかもしれないし、疲れていたから休憩する時間が取れたと思えば悪いことばかりじゃないはず。
雨が止むまでどれぐらいか分からないけど、休もう。
大きな木の下は全然濡れてない。これならしばらくは大丈夫そう。
木の根元にゆっくりと腰掛け大きく息を吐く。
こうやって何もしない時間はいつぶりだろ?
ランプル芸団で怪我した時以来?
今まであれこれと動いてばかりだったからこういう時間はやっぱり落ち着かない。あたしはジッとしていることは向いてないのかも。
今頃みんな何してるかな?
久しぶりの休憩だと喜んだのもつかの間、頭はもう動き始めている。
ぼんやりと考え事をしていても、悪い方へ考えが行ってしまいそうになるが、こう暇じゃ考えるなっていう方が無理がある。
復讐とかこれからのこととか。だけど、あたし一人で考えられることなんて高がしれてる。他の頭のいい人に考えてもらった方がいい考えが浮かぶはず。
そうだよ。あたしは頭を使うより体を動かしていた方が性に合うってことが分かった。
分からなかったら後から考えるか、自分より頭のいい人に聞いた方が早い。
だから、もうごちゃごちゃ考えずにくたくたになるまで動いていた方がいいや。
あっちこっち山歩くのも色んな景色を楽しめると思えば、案外悪くもない。
残念なことがあるとしたらユリアも一緒にこの景色が見られないこと。でも、それは全てが終わってから一緒にピクニックにでも来ればいい。
復讐を終えた後のことは全然考えてなかった。ただ、ユリアと一緒に笑っていられたらいいとしか。
だから、こうしてやりたいことが出来て嬉しい反面ちょっとだけびっくりしている。
「あ、そうだ。やりたいこと忘れないようにメモしておかなくちゃ」
ユリアとやりたいことリストでも作っておこう。
全部は出来なくともその内のいくつかは出来るはずだ。
帰ったら二人で考えるのも悪くないかもしれない。
考えただけでワクワクしてきた。あれもこれもやりたい。やりたいことがいっぱいある。
いつまでも休んでいられない。気がつけば雨があがっていた。雨があがったのならまた動かなくちゃ。