王様に連れられて城内を移動させられている。
グロリアに連れられてここに来た時も思ったけど、どこに行くの?
移動ばかりで意味が分からない。
グロリアは一緒に来るのかと思っていたけど、あまり興味がないのか着いて来なかった。
自分が連れて来たくせにという思いはある。それに、グロリアのところまで一緒だったジゼルの家の騎士はどうなったんだろ?
グロリアとここに来る時は着いて来てなかった。
もしかしたら、先に戻ってしまったのかもしれないが、そのことをグロリアに聞いておきたかったのに。
「そなたはワシが何も言わないことを気にしておったな」
「ええ、そうですね……」
移動するのはあたしと話す時間が欲しかったとか?
それだったらあそこでもよかったんじゃ? もしかして、グロリアがいたから?
王様の考えていることは全然分からない。
自分のことすらあんまり分かってる訳でもないのに、数回しか会ってない人のことなんて分かる訳がないから仕方ないんだろうけどさ。
「どうするのか反応を見てみたかったのもあったが、あの二人が熱くなりすぎたようでちっとも話しにならんからな。そこで趣向を変えることにした」
「趣向?」
何だそれ。聞いたことのない言葉だ。
分からなかったから聞き直したんだけど、王様は聞いてなかったのか前を向いたまま歩いてる。
聞き直そうかと思ったけど、それはしなかった。
「君にはこれから三つのことをしてもらう」
「三つ?」
三つ? 何をするの?
というか、既に決定事項なの?
「君がそのことをしている間にあの二人をワシが静かにさせておく」
「! あたしは何をするんですか?」
あの二人が大人しくなるのなら何だってするわよ!
反射的に王様に何をするのかも尋ねずに聞いてしまった。
「ちょっとしたお使いのようなものだ。ただし、君が一人でするんだ」
「あたし一人でですか?」
「出来ぬか?」
「いえ、やります」
何をするのか分からない。普段なら何をするか聞くんだけど、今はそれよりも早く話を進めたいと思う気持ちの方が強かった。
「何、簡単だよ。この国のどこかにあるという神の祝福の力を無効化してくれるという剣を探し出してくれ」
「そんな剣があるんですか?」
祝福を無効化する剣? なんだそれは、そんなの聞いたことがない。
祝福は文字通り神の祝福と言われている。そんな力を消すだなんてまるで悪魔の力だ。
「ある。これは過去に葬り去られて、知る者は極僅かだがな。ワシの一族はその秘密を知っておるが、これを知るのは一族内だけでも極僅かな者しかいない。この秘密を知る者はワシと王太子と──」
「あ、あの、そんな秘密あたしが聞いてしまってもいいんですか?」
「構わぬ。あの国を憎んでいるのだろう? それに、この情報が洩れたところで祝福持ちたちを集めているあの国からしたら余計な情報だろうしな」
それは一理あるかもしれない。
でも、あたしがその剣を壊すとか考えない辺り王様も人がいいんだろうな。しないけどね。
「さて、着いた」
「ここは?」
白の両開きのドアはさっきより大きい。
王様の執務室よりも大きな部屋って言ったらどこだろ? 謁見室とか?
でも、今まで必要ないからと入ったことはないし、今必要かな?
何の部屋だろ? と考えている間にドアが開いた。
「わぁ!」
部屋の中はどこもかしこも本だらけ、王都の図書館も本がいっぱいだと思っていたけど、ここもかなりの量がある。
「城の書庫だ。ここには一般には出回ってない本もある。こっちだ」
本に圧倒されていたら王様に呼ばれてまた移動する。
今度はどこに行くんだろうと思っていたら王様は奥へ奥へと進んでいく。
「奥には持ち出し禁止の本がある。我々が行くのはそこだよ」
奥。持ち出し禁止の本って何だろ? それだけ貴重ってことは本当にあたしが行っていいのだろうか?
悩んだけど、王様がいいって言ったんだからいいんだろう。誰かに後で何か言われたら王様のせいにすればいい。
奥へ行く程薄暗くなるが、ところどころに灯りがあるため、そこまで不便に感じない。
「ここだな」
王様は大きな鍵を取り出してドアを開ける。
ドアは暗い色でとても重そうだった。
王様に入るように促されて中に入れば、王様はドアを閉じて本棚に向かって行った。
「この本だな」
王様が差し出した本を見ればかなり古く、何度も読まれたのか表紙はボロボロだった。
「この本に祝福を無効化する剣のある場所がある。頑張って探してくれ」
王様が見せてくれた本を読んだけど、あたしにはさっぱり分からないなかった。
本の中身は思っていた通り古く、今の字とは違って古代文字で書かれているらしく、投げ出したくなったけど貴重な本だからと我慢した。
貴重な本は弁償出来ない。
ジゼルに頼んだら何とかなるかもしれないが、そこまで頼むのはさすがに図々し過ぎでしょう。
持ち出し禁止だから写すしかないけど、本なんて写したことなんてなかったからこんなに大変だとは思わなかった。
王様がいる時しか入れないから作業もチマチマとしか進まないし、変わりに誰かやってくれる人がいないかと思うが、王様も何かしらの作業を書庫でしているのでいなさそう。
作業が進んだところまで文字の解読をするけどちんぷんかんぷん。
誰かに手伝ってもらいたいけど、それは駄目だって王様に約束させらたからだ。
これも自分の力でしないと駄目なんだとか。これぐらい手伝ってもらってもいいんじゃないかっていう気持ちもあるし、ユリアも手伝おうかって聞いてくれたこともあった。
だけど、あたし一人でって言われた以上、自分の力でやってやりたい。
それに、これぐらい一人で出来ないって言って、あの二人のおじさんにほら見たことかと鼻で笑われる姿を浮かべばてはこのくそ野郎がと頑張った。
古代文字の解読の本がある図書館に行ってはあれこれ調べている内に何とか形になってきた。
多分祝福を無効化剣があるのはこの国の西の方の山っぽい。
本には地図もあったけど、随分と古いものだったから今の地図と睨みながら何度も確認したが、具体的な場所までは分からない。
しらみ潰しに歩き回る体力と時間が惜しいけど、一人でって言われている。
ジゼルには言うべきかと悩んだが、ジゼルのことは王様が何とかしてくれるらしいので、あたしはジゼルに何かしなくてもいいっぽい。
ジゼルがいない間にあたしは出かけることにした。
「留守の間よろしくね」
「うん。何か聞かれても適当に誤魔化しておくね」
ユリアとユーリスには王様に頼まれて出かけることは伝えてある。
ジゼルは王様のところに無理やり連れてかれてめちゃくちゃ嫌そうにしていたが、仕事だと言われれば、断ることも出来ずに嘆いていた。
早く行ってくれと何度思ったことか。
あんまりしつこく言うつもりだったら殴ろうかと思ったほどだったもん。あたしが殴る前にお城の人たちが連れて行ってくれたお陰で殴らずに済んでよかった。
「少しだが軽食と路銀を入れておいた」
「ありがとう。じゃ、行ってきます」