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第55話

 三回目も四回目も前と同じように話しがヒートアップするだけで、全然話が進まない。


 頼りになるはずの王様は沈黙を保ったままだ。


 何で何も言わないんだろ? もしかして、あたしが自分で事態を何とか出来るのか見るつもり?


 でも、何とかって言ったってあの人たちはあたしの言葉なんて聞こうとしないだろうし、どうしたものか。


 ジゼルに相談したいところだが、あの二人のせいでかなり機嫌が悪そうだし、グロリアは王様と同じで成り行きを見守っているだけ。


 色々と教えてくれるって約束してくれたのに、どうしてグロリアは黙っているのか。


 次に会った時に聞いてみた方がいい。いや、次の話し合いの時じゃ遅いかもしれない。


 グロリアの家の場所は聞いたことがある。


 王様のところにも聞きに行きたいが、あっちはおいそれといける場所じゃないからジゼルに頼むかしないといけないだろうけど、今ジゼルの機嫌は悪いので、また今度頼もう。


 グロリアの家に行くために、ユリアにはジゼルの機嫌を取っておいてとお願いする。


 あたしが事情を全然伝えてないからユリアは不思議そうな顔をしていたけど、快諾してくれた。


「あたしは話し合いに行く訳でもないし、復讐もお姉ちゃんに任せちゃってるから……あたしが出来ることなら何でもするから言って」

「うん。ありがとう。ジゼルのことお願いね」


 ジゼルと出掛けない時は屋敷の使用人を誰か連れて行くように言われている。


 だけど、屋敷の主の機嫌が悪いからか、最近話すようになっていたメイドたちも落ちつかない雰囲気であまり姿を見かけなかった。


 ユーリスに声を掛けて出掛けようとしたら、護衛だと騎士を二人つけられた。


「二人も?」

「何かあったら困るだろ?」


 別にグロリアのところに行くだけだからそんなに困ることはないと思うんだけどと考えていたが、馬車の運転をやってくれたのは普通にありがたかった。


 あたしも出来なくはないが、下手だったから助かった。


 それに、グロリアの家は知っていても行ったことはなかったから、道案内までしてくれて助かった。


 二人は多いかもしれなかったけど、凄くいい人たちだらいいか。


「うわ~」


 ジゼルの屋敷も大きかったけど、グロリアの家もかなり大きい。


 もしかして、あたしかなり失礼なことしちゃってた?


 敬語も使ってなかったし、下手したらかなり失礼なことも言っている可能性もある。


 今までのあたしの言動は大丈夫かと思い返している間に屋敷の中に案内されてしまった。


「ラナいらっしゃい。今日はどんな用で来た? 遊びに行こうか?」

「グロリア……」


 あたしが来たことを聞いていたらしくグロリアはにこやかに出迎えてくれたんだけど、大きなお屋敷に高そうな調度品の数々に来てしまったことを後悔して何の話をしに来たのかすっかり忘れてしまった。


「えっと……あ、あの」

「うん?」


 どうしよう。何で来たんだった? 


 用事を紙に書いてから来るべきだった。


 あっちこっち視線を移すけど、そんなところに答えがある訳でもなく、グロリアに不審がられてしまった。


 とりあえず、グロリアの部屋に案内されたが、そこでも部屋の広さや、置いてある物の値段を考えたら頭が真っ白になってしまった。


「緊張しているの?」

「……うん」


 そう答えるのが精一杯。


 一緒について来た騎士たちは、グロリアの屋敷では何もないだろうとグロリアのところの執事に別室に案内されていた。


「あの、今日来た理由忘れちゃって……」

「ああ、たまにあるね。あたしも何回かやったことあるよ」

「そうなんだ」


 あたしだけじゃないのね。


 グロリアの気遣いだったのかもしれないが、その優しさにホッとする。


 グロリアがメイドにお茶を頼むとあっという間にいい匂いのするお茶が出てきた。それをいただいて一息つく。


 ラフォン様のところにいた時、お茶を淹れることがあったけど、ここまで素早く、しかもこんなにおいしいお茶を淹れられていただろうか。


 あれから結構経つ。


 もし、あの国に戻れるなら少しだけでもお会いすることが出来ないだろうか。


「あ……」

「言いたいこと思い出した?」

「うん」


 ラフォン様のことを思い出していたらここに来ることにした理由を思い出した。


 カップを置いてグロリアの顔を見る。


「あのね、」


 話し合いの時にあのおじさんたち以外殆ど発言しないことと、ジゼルと仲が良さそうなのにどうしてグロリアはあの人たちを止めないのかと、あたし以外の人たちもあの国のことをよく思ってないはず。


 だから、みんな早く行動したいはずなのに、いつまで経っても話が進まないのはどうなのかということを聞いた。


「ジゼ……ジャスティンとは仲がいいんでしょ? それなのに、グロリアも黙ったままだし、それでいいの?」

「……あたしが、あたしたちが何も言わないのが気になる?」

「うん。だから、次の話し合いの前に聞きに来たの」

「──陛下には聞かなくていいの?」

「へ?」


 王様に?


 王様ってそんな簡単に会える人じゃないんじゃないの?


 意味が分からなくてグロリアの顔を見たが、グロリアはあたしのことをじっと見ている。何て言うべきなんだろうか。


「じゃあ、行こうか」

「どこに?」


 尋ねてみてもグロリアは不敵に笑うだけで、どこに行くか教えてくれなかった。

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