結局あの日はあれ以上話し合いに対する時間は取れなかったが、グロリアととは仲良くなれた気がする。
あれ以降グロリアは次の話し合いまでに何度かこっちの祝福持ちたちの状況やなんかを教えてくれたり、あたしたちに色々と気を使ってくれている。
グロリアは姉御肌って感じのお姉さんだった。あたしが長女だから分からないけど、お姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかな?
ユリアも祝福持ちたちの行方とかが気になるのか、グロリアに何度も話をしてもらっていた。
その度にうわ言のようにごめんなさいと言うのが鬱陶しかったのか、グロリアはユリアとはあまり関わらないようにしていた。
その変わりなのかは知らないが、みんなには内緒であたしに剣術の特訓をしてくれるって約束してくれた。
あたしはそれに嬉しくてら習っていたマナーなんかをうっかり忘れて飛びはねてしまい、どこで見られていたのか分からないが、ユーリスとジゼルからしっかりと怒られてしまった。
でも、剣術のことはバレてないみたいでそこだけはホッとしている。だけど、剣術はジゼルの屋敷では教えてもらうことが出来ないだろうし、どこでするんだろ。
ジゼルとはあたしたちが黙っていたことをちゃんと話して、あたしたちと一緒にいてくれるかも聞いた。
ジゼルはそれに当たり前だとあたしたちの頭を撫でて言ってくれた。
それに誤魔化された訳ではないが、ジゼルは前と変わらない優しさであたしたちと接してくれていることにホッとしている。
たまにあの優しさが急に変わってしまって、あの国の王子みたいにあたしたちに酷いことをしてくるんじゃないかって疑ってしまいそうになってしまいそうになる自分に嫌悪感すら抱きそうになる。
あんなに悪い奴がそう何人もいてたまるか。
うん。そうだよ。気のせいだよ。
自分で自分を納得させた後、また動きが止まってしまった現実にどうしようかと悩んでいる間にも時間は進んで行き、あっという間に二回目の集まりがやって来た。
今回の集まりにはユリアは参加しなかった。
グロリアの話を聞いただけでも、毎日うなされるようになり、ユリアを城で見つけた時程ではないが、やつれてしまった。
そんな繊細な子には集まりに参加しても前回と同じように話が進まなくなってしまう可能性があるからと、グロリアとジゼルに止められてしまった。
ユリア本人も、自分が参加することが邪魔になるのならとジゼルの屋敷で待機することを選んだ。
今回の話し合いもお城でする。
来た人たちは前回と同じ人たちだが、誰もユリアがいないことに指摘する人はいなかった。
というか、あたしにも興味はないみたいで、グロリアに挨拶した後はただ黙って話を聞いているだけになっている。
話し合いの中で気になった部分はあの国にこっそり入って各国の祝福持ちたちが集められている場所を見つけ出すこと。
これまでもそういった場所を探していたが、今まで見つかったことはなく、またあの国の姫の祝福のせいでおおっぴらに動けないため、少しずつしか動けないのがもどかしいとか。
そんな中、祝福持ちを連れ合いてあの国からやって来たあたしたちはかなり凄いことらしい。
国境では特に引っかかることもなく、すんなりと出られた。
まさか、祝福持ちが出られないだなんて思ってもなかった。
こっちに来てからそういったことを調べたら分かったはずなのに、もしかしてあたしが探していたところってかなりの見当違いだったってこと?
かなり時間を無駄にしてしまった気がするが、ジゼルに会えたから結果的にはよかった。
それに、ジゼルのところにいるお陰で話が凄い勢いで進んでく。
ジゼルに会えなかったら未だにどうやって復讐しようかって悩んでいたはずだもん。
それに、この人たちに紛れてあの国に戻れたら──
「この小娘を連れて行くというのか!」
「えっ!」
机を力強く叩きながら勢いよく立ち上がった人は中年の男性の一人。
その人、名前は分からないけど、その人があたしのことを指差して睨んでいた。
あたし?
考え事をしていて話し半分にしか聞いてなかったから詳しい話は分からないけど、この人はあたしのことが気に食わないってことでいいのかな?
「……ゲルマン卿少し黙っていてくれませんか」
あたしが聞いてなかった間の状況把握しようとしていたら、ジゼルが苦虫を噛み潰したみたいな変な顔をして、あたしを指差しているおじさんに声を掛けた。
声を掛けられた方のおじさんも苦虫を噛んだみたいな顔をしている。何なの? 仲良しなの?
あたしが知らないだけで、ジゼルはおじさんの友達が多いのかも。帰ったらユリアに話してあげよう。
でも、それよりもだ。
「あたしはあの国から逃げて来ました。この間あたしの妹を見ましたよね? あたしは妹にあんなことした奴を許したくないんです」
「だが、あの国は祝福持ちたちを連れ去った。そんな国の人間が信用できるか!」
「そんな……」
「そこまで」
どうやってこの人の言う信用とやらを証明するのか分からないが、あたしの復讐が出来なくなるのは困る。
だから、何か言わないとと口を開いたのに、それを止めたのは別のおじさんだった。
このおじさんはこの間の話し合いで本を読んでいた人だ。
「ドモンズ卿……だが、この娘を信じるには危険過ぎやしないか」
「お主の言いたいことは分かる。だが、そうやって何でも疑っていては何も進まん」
「だが……」
「疑うよりも利用すればいい」
「利用だと?」
「そうでしょう。彼の国が我らを騙そうというのなら、それを利用してこちらに有利な状況に持っていけばいいだけ。それに、この子は彼の国出身。もし、我らを騙すつもりで近寄って来たとして、この子しか分からないこともあるだろう」
「……これが素直に言うことを聞くと?」
「さあな。答えないというのなら多少手荒なことをしても」
「ちょっと待ってください! この子は僕が保護している子です。手荒なことはさせるつもりはありませんよ!」
段々とヒートアップしていく空気に不穏な言葉、それにジゼルが声を荒げるが、年かさの二人は聞いているのか聞いていないのか。
この状況を何とかしてくれる人はいないのかと、室内を見回すも皆成り行きを見守っいるのか黙ったままだった。
今回の話し合いはギスギスした雰囲気のまま、時間が来たため終了。
ジゼルは不機嫌なまま自室へと引っ込んでしまった。
話し合いの最中一番発言力がある王様が仲裁してくれたらよかったのに、王様も黙って成り行きを見守っているだけだった。
「お姉ちゃん今回の話し合いどうだった?」
「あ、うん……」
「?」
そうだ。ユリアに話し合いの内容を伝えることを約束してたんだった。
とりあえず、玄関ホールまで迎えにきたユリアと部屋に戻ってから話しをすることを伝える。
でもなぁ、話し合いの内容が疑われてただけで雰囲気最悪なまま終わったなんて言えない。
何か上手い言い訳があればいいんだけど、と歩きながら考えたが、さっぱり思い浮かばない。
そうこうしている内にあっという間に部屋にたどり着いてしまった。
部屋に着くなり、ユリアは何があったとせっついてくる。とりあえず座らせてとお願いして息を吐く。
……しまった。着替えさせてって言った方が時間稼ぎが出来たのに。
座ってから早く早くと急かして来るユリアに「あまり進まなかった」と言うのが精一杯だった。
「そっか。次はいつ?」
「分かんない。多分ジゼルに連絡が来ると思う」
今日の話し合いは一部かなり激しく言い争っていたから、しばらくは頭を冷やすためにも、少し間をあけた方がいいだろうと言われて次の話し合いは不明。
順調に進むかと思っていたのに、まさかあたしが疑われるとは考えてもなかった。
どうやったらあのおじさん……えっと、確かドモンズじゃなくて、ゲルマンだったっけ? あの人にあたしを認めてもらえるんだろうか?
別にあの人だけ騒いでいるのならいい。だけど、話し合いに参加した人たちが黙って成り行きを見守っていたのは、あの人の考えもあり得ると考えているとか?
頭の中で嫌な考えがどんどんと浮かんでくる。頭を振って悪い考えをどこかにやってしまいたいが、そんなことしていたらユリアに不審に思われる。
詳しいことが言えないのなら、それを表に出して悟られないようにしないと。