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第53話

 祝福持ちたちを救うという名目で、彼らは国内で活動らしきものをしているらしく、ユリアもそれに協力したことがあるらしい。


 ユリアはそれを鵜呑みにして、何度も祝福持ちたちのことを保護したと言っていた。


 祝福持ちたちがどこへ行ったかは知らないそう。それを、信じてしまっていたなんてとユリアは青ざめ、泣いてしまった。


 ユリアは話をしている内に、話している本人のユリアの体調が悪くなってしまったため、一時中断することになってしまった。


 王様以外の参加者がどう思っていたのかは分からないが、あまりいい雰囲気ではなかったのは確かだ。


 部屋の空気が悪かったし、何事かコソコソと話し合っている人もいて感じが悪かった。


 文句を言いたかったが、あたしは庶民だし、ユリアの体調の方が心配だったからその人たちに文句は言わなかったが、顔は覚えた。


 とりあえず、外の空気を吸った方がいいとジゼルに手伝ってもらって、さっき待たされていた部屋から見えた庭にあたしたちはやって来た。


 色とりどりの花は綺麗だけど、今はそれを楽しんでいる余裕はない。


「水もらってきたよ」

「ありがとう」


 ユリアをベンチに座らせた後どこかに行ってしまったと思ったら水を持ってきてくれていたらしい。


 あたしは何も考えられなくて、噴水の水の音を聞きながらユリアの背中をさすっていた。


 ジゼルにお礼を言ってユリアに飲ませる。さっきよりは顔色がよくなってはいるが、これ以上ユリアに話しを聞かせるのはどうかとジゼルと話し合っていたらユリアが「聞く」と言い出した。


「えっ、でも……」

「あたしがアルフレッドの手伝いをしなければ、他の国の人たちは家に帰って家族に会えてたんだよ」

「……そうだけど」


 そこまでユリアが気負う必要はないんじゃないの?


 あたしはユリアより優しくないから、悪いことしたあの国が悪いし、ユリアは知らなかったんだから仕方ないんじゃ? としか思わない。


 でも、ユリアを上手く宥めるための言葉が出てこない。


 ジゼルにどうにかしてよと視線を向けるが、ジゼルにもいい言葉が浮かばないのかオロオロとユリアとあたしの表情を見比べている。


 これは誰も役に立ちそうもない。


 こういう時上手く宥められたらよかったけど、あたしにそんないい言葉なんか浮かんでくれるはずがない。


 このままユリアが話しに加わるのは酷なんじゃないかと思う。それに、あたしは元々一人で復讐するつもりだった。だから、ユリアがあたしがしようとすることに首を突っ込む必要はない。


 ユリアには綺麗な場所で綺麗な物だけ見て幸せに笑っていてくれたらあたしにとっては幸せなのに。


 ユリアには幸せでいて欲しい。そのためにはあたしが汚れ仕事をする。そのために今日ここに来たんだ。


 あたしがあっちに戻ったらジゼルにユリアの面倒を見てもらう予定だし、ユリアは後から少しずつジゼルに聞けばいいんじゃないかって言っても首を頑として縦に振らない。


 このまま参加させても今みたいに気分が悪くなってしまってしまったら話が進まなくなってしまう。


 あたしはさっさと話し合いを終わらせてあの国に戻りたかったんだけど、他の国まで出てくるんだったらまた事情が変わってくる。


 こんなに問題になっているのなら、あたし一人で動くなんて出来る訳ない。


 あの人たちも祝福持ちたちを取り戻すために戦うのだろう。


 これからきっとたくさんの血が流れる。


 たくさん辛い思いをしたのだから、もうユリアには辛い思いなんかして欲しくない。


 どうしても残るというユリアを半ば無理やり馬車に乗せてあたしとジゼルは王様たちを待たせていた部屋に戻った。


 部屋に戻れば、人数は半数程に減っていた。


 そりゃそうだ。さっきから中断してもらってばかりいたし、今回はユリアを説得するのにかなり時間を使ってしまった。


 王様もいないのは何かあったのかも。


「遅かったわね」

「ああ、陛下たちは?」

「お腹が空いたって食事に行っちゃったわよ」


 中に入って若く褐色の肌の女性がジゼルに話し掛けてきた。ジゼルはその女性と知り合いだったのか、話し出した。


 こういう場合一緒に会話に加わるべきなのかも分からないので、黙って座っていた席に座るべきか悩み出した。


 室内に残っている人たち思い思いに過ごしているみたいで、机に突っ伏して眠ってる人や、窓から外の様子を見て話し合ってる男女に、本を読んでいる壮年の男性なんかもいた。


「それはそうとこの子」

「へ?」

「ああ、ラナだよ。姉の方だ」


 室内を見回していたら急にあたしの話題になったらしく、びっくりして二人を見れば、女性があたしのことをジッと見ていた。


「へぇ。この子が」


 女性の視線は強く、ジゼルの後ろに隠れてしまいたくなったが、ここで隠れたらなんか負けた気がしてそれはしなかった。


「中々負けん気の強そうな子だね。あたしはグロリア。グロリア・リンサージュ。グロリアって呼んでくれ」

「……あたしはラナです」


 グロリアって名乗った女性は黒髪に茶色の瞳。身長はジゼルより頭二つ分低いが、存在感が強い。


 貴族なのにかなり気さくでとっつきやすそう。


 もしかしたらさっきから何度もあたしたちのせいで中断していることを文句言われるかと思ったけど、そんなことはなくグロリアは軽く挨拶をして去って行った。


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