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第51話

「陛下が来るまでこちらでお待ちください」


 あたしたちをどこかの一室に案内してくれた青年はお茶の用意をして部屋を出て行った。


 部屋の中は壁の二面が本棚になってて、一面はガラス張りになってて庭園が見える。


 ジゼルの屋敷もたくさんの花が咲いていて綺麗だと思っていたけど、お城のはそれ以上に見ごたえがあった。


 噴水の向こうには見たことのない花もあって、後でユリアと見に行こうと話をしていたらジゼルに座るように言われた。


 どうやらはしゃぎ過ぎていたみたいだ。お城に着いたら気をつけるように言われていたのに、うっかりしていた。


「とりあえず、お菓子でも食べてなよ」


 ジゼルはお茶を飲みながら言ってきたので、あたしたちもジゼルの隣に座った。


 目の前にあるお菓子。甘い匂いをさせるそれらは、色とりどりで宝石のようでどれもおいしそうで目移りしてしまう。


 どれを食べようかとユリアときゃっきゃっと話してると、その都度ジゼルにたしなめられるので、詰め込んだマナーなんて食欲の前では無に等しいのかとしみじみとさせられた。


 そりゃ一週間程度のマナーなら仕方ないのかもしれないけど、セリーヌたちにも教えてもらっていたのにと思うと残念に思う。


 そうやって何度目か分からないが、たしなめられていた時、ようやくノックの音がしたのでジゼルに最後に釘をさされて気をつけて立てばジゼルはドアに向かって声を掛けた。


「どうぞ」

「……誰か聞くべきではないか?」

「呼び出された相手が相手なので問題ないでしょう」


 入って来たのは王様を筆頭に十人以上の集団だ。


 王様のすぐ後ろを二人の騎士にその後ろに四、五十代ぐらいのおじさんが四人。そのさらに後ろにはジゼルと同じぐらいの男女の若者が合計で十人ぐらいいた。


 その人数の多さにびっくりしたけど、一番びっくりしたのはジゼルが王様に食ってかかったことだ。


「その人たちは?」

「この者たちは今回の話し合いに必要だから呼んだ。それより、お前は何でここにいるんだ」

「この子たちの後継人だからですけど?」

「だ、そうだが、二人はこの者が一緒でもいいか?」

「えっ」


 いきなりこっちに話が振られてびっくりして変な声が出ちゃった。


 その場にいる人たちの視線があたしたち二人に注がれて、なんて言っていいのか分からなくなりそうで変な汗が出てきた。


 そういえば、王様にジゼルに話していないことを言ったっけ?


 どうしよう覚えてない。


 冷や汗が流れてくるけど、こうなったら話してしまった方がいいのかもしれない。


「あたしたちはいいです。いてくれても」


 あたしが何を言おうかと迷っていたらユリアが変わりに答えてくれた。


「いいの?」

「うん。黙ってたっていつかは分かっちゃうことだもん」


 だからいいとユリアが言ってジゼルも同席してもらうことになったけど、席足りないんじゃ? と思ったけど、また移動することになってしまった。


 最初から話す部屋に案内してくれたらよかったのにと考えたが、王様には王様の考えがあるのだろう。


 ユリアは足が悪いのだからあまり歩かせたくないのに。


 胸中でぶつくさ文句を言っていたが、案内された部屋はさっきの部屋からそんなに離れてなかったため、実際に文句を言う必要はなかった。


 新しく案内された部屋は移動する全員が座れる部屋だったが、王様についていた騎士たちは部屋の外で待機するらしく少しだけ人が減った。


 王様の提案でそれぞれ自己紹介したが、人数が多くて全部の人は覚えられなかった。


「それでは、この集まりに疑問を持っている者もいるからそれから話そうか」


 一番疑問に思っているのはジゼルだろう。さっきから一人だけずっと王様のことを睨んでいる。


 あたしたちが呼ばれたのは、この間の話の続きのはずなのだろうが、それにしてもこの人数を呼ぶ必要があったのか。


 あの国に一泡吹かせるとか言っていたが、何をするつもりなのか。


 さっきジゼルから戦争に備えた城だって聞いたけど、もしかしたら戦争をするとか?


 でも、それにしては集まった人たちの人数の年代の多くが若い。こういうのって国の偉い人たちで集まって話すだろうから全員がそれなりの年齢になっていそうなのに。


 ジゼルにこっそり教えてもらいたくても、さっきから王様のことをジッと見ているからあたしの視線には気付いてないみたいだった。


 王様が今回集まったメンバーにあたしたちが王様に伝えた話をするとジゼルが息を飲んでるのが分かった。


 でも、あたしはそっちを見る余裕がなかった。


 ユリアがつらそうにしてないか気になっていたのと、とてもジゼルの顔を見る勇気が出なかったから。


「──何か言いたいことがある者はいるか? なければ、この場に集まってもらった者たちに今回の趣旨を話そうか」

「ちょっと待ってください!」


 ジゼルの声が室内に響いた。


 言うつもりもなかったし、聞かせるつもりもなかった。こんな形でジゼルに知られるとは考えてなかった。


 もしかしたら幻滅されるかもしれないと考えていたからジゼルが何ていうか聞くのが怖い。


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