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第50話

 あっという間に時間は過ぎていき、今日は王様に会う日。


 一週間しかなかったから、準備不足だとジゼルが不満そうにしていたが、そんなことはあたしたちにはどうすることも出来ないので、聞かなかったことにした。


 王様と会う時間は昼からなはずなのに、朝早くから起こされて身支度をさせられている。


 移動する時間があるとはいえ、同じ王都内だからそんなに時間は掛からないと思うんだけど、やることがたくさんあるらしい。


 こんなにあわただしくするなら昨日から準備しておけよとか思うじゃん?


 あたしもそう考えていたけど、実は一昨日ぐらいからスキンケアとかは準備は始まっていたらしい。


 そんなことは知らずにマナーを叩き込まれているだけだと思ってた。


 そういえば、お風呂の時間に珍しくメイドたちがいるなとは思ってたけど、あんまり気にしてなかった。


 あれは、あたしの洗い方が下手なのかなんなのかだと考えていたからあんまり気にしてなかった。今思えばあれも準備の一環だったんだろう。


 元々、貧乏暮らしだったからね。色々と足らないところはあるだろう。


 それは、あっちの国でセリーヌにもミーヌさんにもたくさん言われてたから。だから、気にしてなかったのよ。


 でも、普段よりも丁寧に洗われて、髪も香油まで塗られて気持ちよかった。


 王様に会いに行く


 こんなに時間を掛けて身支度を整えられて、馬車に詰め込まれるとジゼルも乗ってきてびっくりした。


「ジゼルも?」

「僕も行くよ。君たちの後継人だからね」


 てっきりユリアと二人だけだと思っていたからびっくりした。


 でも、マナーを間違ってしまったとしてもすぐに指摘してもらえるかもしれないから、ジゼルがいるのなら少しだけ安心できるような気がする。


 うん。ジゼルがいてくれた方がいいよね。


 今日の服はあたしがライトグリーンのドレスにユリアはレモンイエローのドレス。髪型はユリアはいつも通りのツインテールにしててあたしは左側にサイドテールにして垂らしている。


 アクセサリーは同じ物にした。そこだけお揃いにしたのは、メイドたちの熱心なアドバイスを受けてだ。


 最初あたしたちはアクセサリーも別々にしようとしてたが、お揃いの部分は絶対に欲しいと言われて、渋々メイドたちの意見を取り入れた。


 綺麗にしてもらって全く意見を聞かないのは、どうかとユリアに指摘されたから。


 あたしはそんなこと気にしたことなかったけど、考えてみたらあたしも自分が言った意見を全否定されたらムカつくし、悲しくなる。


 だから、彼女たちの意見を聞き入れることにした。


 これはこれで可愛いから結果的にはメイドたちのアドバイスを聞いてよかった。


 ジゼルも一緒だとは思わなかったけど、どうせ、王様との会話の時はジゼルはどこかにおいやられるだろうから、それまで一緒なら心強い味方になってくれるだろう。


 お城で平民だなんて数少ない下働きぐらいだろうし、王様の周りは貴族で囲まれているはずだから緊張するなって方が変だもん。


 あっという間にお城に着く。お城はシェスタ・マーベレスト国の白亜の城とは違って堅牢なという言葉が似合いそうながっしりとした造りのお城だ。


 気になってジゼルにこの城のことを聞いてみたら元々戦に備えた城だからと言われた。


「ねえ、このお城何でこんなにゴツいの?」

「物語のお城って何か白くて綺麗でしょ。何で?」

「隣の国とは戦争はしてないけど、それ以外の国や海向こうの国なんかとはたまに戦争になることもあるから戦いを想定してるんだ」

「へー」


 あたしの下手くそな聞き方を上手くまとめてくれたユリアに視線を向ければ、ユリアは頷いたのでありがたく任せよう。


 そして、戦争に備えたお城か。


 今までこういうお城は見たことなかったからあちこち見て回りたいけど、そんなことをしたら怒られちゃうかもしれない。


 ユーリスには城に着いてからジゼルから離れないようにと言われている。


 案内役の青年から少し視線を反らせば、着飾ってる人たちからの視線。


 その視線は同じ人間を見るような目ではなく、なんていうか、動物を見るような目と言えばいいのか。何か嫌な視線だ。


「どうかした?」

「……ううん。何でもない」


 ジゼルはこの視線に気付いてるはずなのに、普段通りに振る舞えるのは凄い。


 あたしもこういう風になれるとは思わないが、自分の感情ぐらいは隠せるようにはなりたい。


 そうしたらユリアに心配を掛けさせるような真似はしないのに。


 旅の間に出来た傷はかさぶたになって髪の生え際にうっすらと跡になってしまった。


 目立たない位置だし、あたしは気にしてないが、ユリアは気になるようでたまに視線がそこに向いている時もある。


 その視線に気付かないふりをするしかないのが、もどかしい。


 だけど、それを指摘して泣かれてもあたしにはどうすることも出来ない。


 あたしだってユリアを見つけた時のことを思い出すだけで胸が潰れそうなぐらい苦しかった。


 だけど、それをぐちぐち言っていたって仕方ない。


 あたしには今出来ることをしないと。まずは、王様に会うこと。


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