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第49話

「この格好変じゃない?」

「そうかな? それよりあたしの杖の方がドレスに合ってなくて変な気がするんだけど……」


 室内は色とりどりの布で溢れ返ってる、そんな中メイドたちもあれこれと手に取って、どれがいいかと話し合う。


「それがないと駄目だから、今度可愛いの作ってもらおうよ」

「でもでも……」


 杖は必要でしょ。


 いくらリハビリをしてるからと言っても、ないと不便でしょ。


 前の狭い家だったら杖はなくても平気かもしれないけど、ジゼルの屋敷は広いから


 ジゼルに買ってもらった服を引っ張り出して、ああでもないこうてもないと話し合ってるのは王様に呼び出されたせい。


 手紙をもらってから呼び出される日まで一週間しかなくて、ジゼルにマナーの特訓を受けさせられ、その合間にドレスだのなんだのと、身を飾る物を選らばされている。


 お陰で寝る間も殆どないぐらいだが、こうやって今まで着たことがないような豪華な服やアクセサリーを選んでいる時間はあっという間で、もう少し余裕を持って選らばさせて欲しい。


 貴族の間では普通一月ぐらい前から手紙でお伺いをたてるらしいけど、あたしたちに与えられた時間は一週間しかなかった。


 ジゼルは一週間しか時間がないことと、普段から溜まっている鬱憤のせいか、ぶつぶつと文句を言いつつ、新しいドレスを作らせるべきだって言ってたが、時間がなかったのでそれはまた今度となった。


 今でもたくさんあるし、成長期だから服はそんなにいらないって言ってんのに、気がついたらあっという間にクローゼットがパンパンになってしまって、衣装部屋がある。


 こんなに服はいらないと思っていたが、お城に行くのに役に立った。でも、多いけどね。


 きらびやかなドレスは自分たちとは今まで関係ないと思っていたが、こんな風に可愛らしくしてもらえるだなんて夢みたいだ。


 本当にこの国に移ってきてよかった。


 こうやって楽しいと思える日がやって来るなんて。


 きゃっきゃっとメイドたちを交えてああでもないこうてもないと話していたらいきなりジゼルがやってきてびっくりした。


 ここの使用人たちとは普段はあまり話をしなかったけど、こういう場は彼女たちもテンションが上がるのか、珍しく楽しそうにしていたって言うのに邪魔しないで欲しかった。


 これをきっかけに仲良くはなれなくても、あからさまな陰口や冷たい視線を向けられなくなったらいいなと思っていたのに、何なんだろ?


「どうかしたの?」

「ああ、ちょっとね。君たちは二人に似合いそうなの適当に見繕っていて」

「「「かしこまりました」」」


 綺麗に返事を揃えた彼女たちにちょっとびっくりしていたが、ジゼルは気にしてないみたいで、ジゼルにとっては普通のことなんだろう。


 こういうところを見ると貴族という生き物は、あたしたちとは違う生き物なんだと知らされる。


 本人は純粋な貴族ではないと言っているが、あたしからしたら貴族以外の何者でもない。


 でも、ジゼルはそんなこと言われたくはないだろうからあたしも言わない。


 それに、ジゼルの話を聞いてたらジゼルの立場になりたいかって言われてもなりたくはない。


 それにしても、ジゼルがここにきた理由は何だろうかと疑問に思った頃、ようやくジゼルが口を開いた。


「で、どうしたの?」

「陛下の呼び出しの件だけど、あの日していたのは本当に世間話だけだった?」

「……またその話?」


 何度も聞かれてうんざりする。 


 世間話ではなかったのは、あたしもユリアも自覚しているが、それは言うつもりがないからずっと世間話で通しているのに、こうやってことあるごとに聞いてこられても困る。


「じゃなきゃ、あの陛下がこんな風に他人に興味を持つはずがない」

「ジゼルの中で陛下ってどんな人なのよ……」

「性格の悪いおっさん。笑顔で他人を地獄へと突き落とすような」

「……」


 呆れて聞いてみたら思ったよりも評価が酷かった。


 ここまで言うのって過去に何かあったったって何かで聞いたことがある。深く聞くと余計なことまで聞いてしまいそうだから適当に聞き流してしまった方がいい。


「それより、あたしたちドレスなんて初めてだからジゼルも一緒に選んでよ」

「双子なんだから同じドレスにしたら?」

「安直じゃないの! もっと意見出してよ」

「えー」


 ギャーギャー言いながらジゼルも含めてドレス選びをしていたらあっという間に時間が過ぎていき、気がつけばすっかり夜も更けてしまった。


 上手く話が反れたお陰で、ジゼルからそれ以上追及されることはなかった。


 ジゼルにいつかあたしたちのことを知られるのだろうが、まだ何となく知られたくはない。


 嫌だけど。でも、いつかは話さないといけないんだよね。


 こういった話はあまり先のばししない方がいいがいいのは、頭では分かっているのに、どう話し出せばいいのか分からずにずるずると先のばしにしてしまったが、そろそろ話した方がいいのかもしれない。


 いつ話そうか。考えただけでも気が重い。このまま言わないでいられたらいいのに。気が重いよ。


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