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第48話

 王様と会った日以降、あたしたちの生活が劇的に変わるとかはなかった。


 王様が去ってから数日はユリアと二人であれは一体何だったんだと話し合っても答えは出ず。


 しかも、ジゼルが何を話したんだとしつこすぎたため、ただでさえ自分たちの理解を超えていたのに、余計に分からなくなってしまいそうだったため、ジゼル適当に世間話をしたとだけ言っておいた。


 ジゼルはそのことに納得はしてなさそうだったけど、詳しくは聞いて来なかったのは、王様に何か言われたんだろうと思う。 


 そうじゃなきゃあんなにしつこかった割にはあっさりと引いたことが説明できないもん。


 あの日、あたしたちと会話を終えた王様は、ジゼルと長く話し合っていたみたいだった。


 そのことをあたしも気になるけど、聞かなかったのに何か嫌な感じ。


 王様が帰った後は、ぼちぼちこの国の貴族の暮らしを教えてもらい始めたけど、こんなの必要あるのだろうか?


 すぐにこの国を出て行くつもりだったけど、王様の言葉は気になる。だからもう少しだけここにいることにした。


 貴族の暮らしより、どっちかと言ったらあたしは剣を習いたかったんだけど、ここでも何故かダメだって言われた。


 そりゃ、ジゼルにお世話になってるんだから、ジゼルの意見が優先されるのは分かるけど、あたしにだってやりたいこととかあるのに。


 どうしたらあたしの意見も通るのか。


 今日はあたしが使わせてもらっている部屋でのんびり過ごしながらああでもないこうてもないと話し合っている。


「何であたしは剣を習っちゃいけないのよ……」

「お姉ちゃんに剣は似合わないとか?」

「包丁ならかなり使ってるのに……」


 刃物の危なさは充分に分かっているつもりだし、相手は一国の王子。


 小さな頃から剣術の訓練を受けているだろう。そんな相手に今から習ったところで焼け石に水でしかないが、でも、それでもやらないよりはやった方がいいと思うのに、どうしてみんな止めたがるのか。


 あたしの人生なんだからあたしの好きなようにさせて欲しい。


「どうしたら訓練させてくれるんだろ……」

「お姉ちゃん、包丁と剣はだいぶ違うと思うよ。あ、そうだ! 剣が駄目なら毒とか他のにする?」


 あたしだけが復讐をと叫んでばかりいるけど、ユリアもユリアであの王子には思うところがあるのだろう。


 最近はあいつのことを殴ってやると息まいている。


 前の心優しいユリアに戻って欲しいとは思わないが、この子も結構物騒な思考になってきたよね。あと、危ないから復讐はあたしにやらせて。


 あれこれと復讐の計画をしていたら部屋のドアがノックされた。


「誰?」


 部屋にはあたしとユリアだけジゼルがいない日は使用人たちはあたしたちのことを放っておいてくれるので、あたしたちもこうやって屋敷の中で物騒な話をしていても安心できる。


 今日は使用人たちが放っておいてくれていたからジゼルがいないと思っていたんだけど、戻ってきたのかな?


「今いいかい?」


 この声はジゼルだ。


 仕事から帰ってきたらしい。


 部屋の中にあたしたちしかいないからとリラックスしていたけど、ちょっとだけ姿勢を正してジゼルを室内に招き入れた。


「どうぞ」


 家主だから勝手に入ってくればいいのにと思うものの、どこの家でも入る前に声を掛けてから入るべきだと逆に怒られてしまった。


 そういうものなの? それとも、貴族ルール?


 今まで住んでたところは、どこかにお互いの顔が見えるのが当たり前の暮らしをしてたから、分からない。


 というか、こんなに広いお屋敷なら当たり前なのかもしれない。 


 これは、庶民がどうとかの問題ではなく、あたしたちの常識がかなり乏しいのかもしれないと気付いたのはここのメイドたちに色々と教えてもらってから。


 あたしたちも年ごろの少女だからとあれこれと教えてもらい、自分たちがいかに常識外れなのかを分からされた。


 というか、世の中の人は知ってることが多すぎじゃない?


 こういうことがあるから勉強って大事なんだって思い知らされる。


 そんなことを考えている間に、部屋に入ってきたジゼルは一人だけだった。いつも一緒にいるユーリスは今はいない。他に用事でもあるのかな?


「どうかしたの?」

「それはこっちの台詞なんだけど」

「「?」」


 意味が分からなくてユリアと顔を見合せるが、ユリアも分かってないみたいで、二人一緒に首を傾げるしかない。


 仕方ないのでジゼルの方を見れば、ジゼルは一枚の封筒を差し出してきた。


 金の縁取りの綺麗な封筒に赤い封蝋が押されてあった。


 封蝋にはワシの絵がある。これは確かこの国の王家の紋様だって聞いた。他の家の家紋も覚えていこうって言われたけど、渡された本の厚みにこんなの覚え切れる訳がないと部屋の片隅に放置してある。


 とりあえず、王家のとジゼルの家の家紋だけ覚えておけばいい。それ以外は必要になったら覚えていけばいい。


「陛下からの手紙だ。あの日世間話だけしかしてないと言っていたが、他にも何か話したんじゃないのか?」

「そんなこと言われても……」


 封筒には開けられた形跡がないので、開けていいのかとジゼルに視線を向けるとジゼルが頷いたので封筒を開けてユリアと一緒に内容に目を通す。


 手紙の内容は回りくどくてちょっと分かりづらかったけど、どうやらあたしたちをお城に招待してくれるものらしかった。


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