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第47話

 ジゼルが落ち着くのを待って、ジゼルの席も用意された。


 これでようやく話が進む。


「この人は──」

「自分で名乗れるわ。──初めまして小さなお嬢さんたち。名乗るのが遅れたが私はライディオン。この国の王だ」


 なんなとなくは分かっていたけど、やっぱり王様で合っていたみたい。


 ユリアが慌てて立とうとしていたのを止める。


 ここまで移動するだけでも結構疲れていたんだから、もう少し休んでいた方がいいと判断して止めた。


「お姉ちゃん?」

「いい。楽にしていなさい」

「ほら、王様もこう言ってるんだから座ってな」

「あ、うん」


 あたしだけ立てばいいかとユリアを止めたのに、正体不明のおじさん改め王様にも止められてしまい、あたしは立つ必要がなくなってしまった。 


 そして王様は咳払いをしてジゼルを追い出しに掛かった。


「お前はまだ仕事があったはずだが?」

「しかし、うちの支援している子たちに、陛下が興味を持つ必要はありませんでしょう」

「いいではないか。お前が仕事もせずにすぐに帰ってしまうぐらいに可愛らしい子たちなのだろう? 一度ぐらい見せてもらいたくてな」

「まだこの子たちにはマナーの講師を探している最中なので」

「そういうと思ってやって来たんだ。その言葉を待っていたら何だかんだと言って絶対に見せようとはしないだろうからな」

「……そんなことは」


 王様を追い出したいジゼルとジゼルを追い出したい王様。


 にこやかに会話をしている風だが、外なのに二人の間の空気が悪い。


 喧嘩するんだったらあたしたちとは関係ないところでやって欲しい。空気が重いせいで居心地が悪くて仕方ない。


 二人がどこか行かないっていうのならあたしたちが移動したいけど、人払いまでしてあたしたちを残す必要はない。


 王様の話しからすると、あたしたちに用か話しがあるみたいだし。 


 もしかして、あたしが指名手配されていることをバレてる? 捕まえに来た?


 捕まえに来たっていうのなら、わざわざ国で一番偉い人が出てくる必要はないはず。だから、そんなに悪い話しではないと思いたい。


 二人のやり取りはジゼルの方が若いせいか、ジゼルの方があまり余裕がなさそう。あたしはどっちを応援するべきか。


 ジゼルの方を応援するべきなんだろうけど、王様に下手なことを言って不敬罪とかで捕まりたくないし、王様があたしたちに何の用なのかも気になる。


 ジゼルには悪いけど、あたしも王様があたしたちに興味を持ったことの方が  気になる。


 しばらくジゼルたちのやり取りを黙って見ていたけど、やっぱりジゼルの方が分が悪かったみたいでジゼルはユーリスに連れられてうなだれながら去って行った。


「さて、邪魔が入ったがそろそろ本題に入ろう」


 王様の言葉に、残っていた使用人たちも去って行ってしまった。


 ユーリスだけは残りたそうにしていたが、王様に睨まれてしまえば出て行かざるおえないみたいで、何度も振り返っていた。


 珍しく心配そうな顔をしていたのが印象的だったが、あたしたち二人と王様だけが残された。


 置いてかないで。あたしたちも一緒に行きたい。


 どんな話しをされるのかとドキドキとしてしまう。 


 どうか、あたしの心配が杞憂でありますように。


「君たちが隣の国からきたことは知っている」

「……じゃあ、あたしたちが何をしたか知っているんですか?」


 やっぱりいい話しじゃなかった。ジゼルたちを追い払ったのはジゼルたちはあたしたちのことを知らないって思っていいよね?


「いや、それは分からないな。あの城に近寄るのは容易ではない」


 それはあの国の姫の祝福の効果のせいだろう。


 あの時逃げられたのは、お目こぼしがあったからだと思うけれど、でも、隣の国の人が調べようとしていた事実に背筋が寒くなる。


「……あたしはこの国の人たちに迷惑を掛けるつもりはありません。ユリアの安全が確保出来たらあの国に戻って復讐するつもりです」

「復讐?」


 ちらりとユリアを見ればユリアは頷いたので、あたしは今まであったことを王様に話した。


 途中泣きそうになったけど、今は泣いてる暇はない。そのまま話を続け、王様は最後まであたしの話を黙って聞いてくれていた。


 話しが終わるとあれこれと質問はされたけど、あたしたちのことを捕まえるとかの話しはされなかった。


「捕まえないんですか?」

「いや、実を言うとあの国のことは昔から気に食わなかった。ちょうどよい時に使えそうな駒がきたと言うべきか。もしも、あの国に一泡でも二泡でも吹かせてくれるのならば、お前たち二人を歓迎しよう」


 気になっていたので聞いてみたら否定された。そのことにホッとするが、


 どういうこと? あたしたちをあの国に突き出さないの?


 駒って言われるのはムカつくけれど、どうして王様があたしたちに協力してくれるのか分からない。


 ニヤリと笑う王様には悪いが、あたしたちの頭にはクエスチョンマークがいっぱいだった。


 詳しく聞きたかったのに、王様はそれだけ言って去って行ってしまってあたしたちの疑問は解消されることはなかったし、王様が帰ってしまってから何の話をしていたとジゼルからしつこく聞かれて大変だった。


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