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第46話

「さあ、もっと食べなさい。二人共食べ盛りなのだから」

「は、はい……」


 これは一体どういう状況なんだろう……。


 ユリアが半ば無理やりお菓子を食べさせられるのを横目に、あたしはカップを持ちお茶を飲む振りをしながら、この国の王様らしき人をこっそりと観察する。


 らしきというのは、まだお互いに自己紹介してないし、誰もこのおじさんについて教えてくれないのだから推定ってことで。


 場所はユリアの部屋から移って、庭の見えるテラスに移動して何故か始まったお茶会。


 ユリアの足のことがあるからあんまり移動するのはと思ったけど、知らない人と同じ部屋にいるのはストレスが溜まるだろうからと、ユーリスを始めとした人たちが、あたしたちをこっちに移動させた。


 あたしは気にしないけど、ユリアはどうかなんて分からないから大人しくついてきたが、もう帰りたい。


 このおじさんは一体誰?


 さっき玄関ホールから漏れ聞こえてきていた会話から察すると王様なんだろうけど、もし、別人だったら恥をかいてしまうかも。


 別にあたしだけ恥をかくのならいいが、一緒にいるユリアまで言われたらキレる自信しかない。


 この状況にさらされているのが自分じゃなければ、そんなことがあったのかぐらいで流せたのに。なんであたしここでお茶飲んでなきゃいけないのよ。意味分からなさすぎる。


 ユリアはジゼルの屋敷に来てから右目は人に見せたくないと、眼帯をつけようとしたが、見た目がどうとかメイドたちに言われて右目を覆う小さめの画面があるとかで、それをつけていたんだけど、部屋だったからと油断してつけてなくて見られてしまったとちょっとショックを受けていた。


 部屋を出る際にユーリスにこっそりとジゼルのことを呼び戻しているからと耳打ちされたので、ユーリスは思っていたよりもいい人なのかもしれない。


 ジゼルの言う通り、そんなに警戒する必要もないのかな?


 ユーリスのことでも、数日は帰って来ないって言っていたのに、すぐに戻って来るのだろうか?


 まあ、あたしたちはジゼルがどこにいるかなんて知らないから、なんとも言えない。


 なので、ユーリスの言葉を信じて待っていた方が気が楽。


 こんな場面じゃなかったらのんびり庭を堪能したかった。せっかくいい天気だし、ピクニックに行くのもいい。


「あ、あの……」

「ん? おお、そっちの子ももっと食え」

「食べています」

「そうか。それで、二人は──」

「あたしはラナでこっちは妹のユリアです」


 ジゼルの屋敷に来てから毎日たくさん食べさせられてるのに、これ以上食べさせられてたまるかとつっけんどんに答えていたらようやく話が進みそうだと名乗る。


 相手が名乗ってない以上これぐらいは失礼に当たらないとは思うけど、王様相手ならかなり失礼なんだろう。ジゼルがそれで怒られたりするかもしれないが、この国のマナーはあたしが習ったものと同じなんだろうか?


 このお屋敷に来てからユリアのリハビリの方を優先していたからまだマナーとか全然習ってないのだから多少のお目こぼしはあると思いたいけど、どうなんだろ。


 誰かに聞きたいところだけど、王様の前で教えてくれる訳ないよね。


 遅いけど、後で誰かに聞いておくか。でも、あんまり失礼だったらユーリスの表情が変わってるだろうから多分まだ大丈夫。


「ラナとユリアか。二人共可愛らしい名前だな」

「ありがとうございます」

「それで……おじさんは?」


 ユリアがお礼を言っている横で、どう呼んでいいのかわからないなくてちょっと迷ったけど、おじさんと呼ぶことにした。


 ユーリスが焦ったような意味の分からない何か言いたげな顔をしている。


 やっぱりマズかったのかも。


 さっきみたいに耳打ちしてくれたらこのおじさんの正体が分かるのに。


 あ、でも、本人を目の前に耳打ちなんてしていたら感じが悪いよね。


「ああ、私か。私は──」

「ここにいたんですか!」

「ジゼル!」


 ゼーハー言いながら走って来たのか、汗だくになったジゼルが現れた。


 現れたんだけど、タイミングが悪くてこのおじさんの名前を聞けなかった。


 もっと前に来るか、もう少し後にきて欲しかった。タイミング考えて欲しかったな。


 息が荒いながらも、ジゼルは正体不明のおじさんに向かって文句を言おうとしていたが、ジゼルがむせたりしたためにユーリスが水を渡したりと、甲斐甲斐しくお世話をしてあげていてちょっと落ち着いてから来ればよかったのにという感想しか出てこない。


 対するあたしとユリアはおじさんの正体も分からなかったし、突然入ってきたジゼルにどうしていいのか分からずに、じっと成り行きを見守っているしかない。


 どうする? とお互いの顔を見合せても何か分かる訳ないもん。


 正体不明のおじさんはジゼルの姿をじっと見ているだけで、何も言わないので、このおじさんも成り行きを見守ることにしたのかも。いや、あんたが何か言ってくれないと、話が進まないのよ!


 まず名乗れ! そして、何の用であたしたちとお茶をするのかはっきりさせて!

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