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第45話

 ジゼルの優しさに甘えて、あの日あたしは結局復讐する相手のことは言えなかった。


 あたしたちはその日の内にジゼルの屋敷に招待されて、そのまま暮らしている。


 屋敷の人たちは、わりとあたしたちに親切にしてくれているが、中にはあたしたちのことが気に食わないと言いたげな顔をする人を見かけるかとがある。


 そういう人たちはあたしたちを見ては、あからさまにひそひそと喋り出したり、そそくさとどこかに行ってしまう。


 ああいう人はどこにでも居るものだって聞くけど、実際にやられるとひっぱたきたくなる。


 その中でもジゼルの執事のユーリスって人だけは、あたしたちを見れば顔をしかめたりとやりたい放題なんだけど、ジゼル曰くユーリスは大体誰にでもああだから気にする必要はないって言われたんだけど、何でそんな人雇ってんの?


 ジゼルの人選に意味が分からないよと言いたくなるけど、居候の立場であんまり物を言うのはよくないので黙ってる。


 一応あたしたちの立場は貴族に後見してもらっている将来有望な子どもその妹ってことになっているそう。


 本当は養子縁組をしたかったと言ってたけど、養子縁組するにはあたしたちとジゼルの年齢が近すぎるからこうするしかなかったらしい。


 ジゼルの年齢は思っていた通り二十代前半というか、22歳だった。そんなに若くて当主になるのって凄いことなんじゃないの?


 若すぎても他の貴族にあれこれ言われるって聞いたことがあるけど、ジゼルの事情はあたしが思っているよりも複雑なんだろうか?


 本人に聞いたところで答えてくれないだろうし、この屋敷ではあたしたちは新参者だからあれこれ聞くと警戒されてしまう。


 これはお城にいた時に教えてもらった。あの時のおばさんは元気だろうか?


 こんなことになるんだったらお城にいた時に王子様の顔を見ておけばよかった。


 あの時は王子が関わっているだなんて思っても見なかったから関係ない遠い人だって思っていたからなぁ。


 ミーハーな気持ちで見に行けばよかったな。


 今さらだけど絵姿とかあるんだろうか? この国では王族の貴族絵姿は結構流通しているし、あたしが働いいていたお店でも絵姿は掛けられていたが、あっちの国では全然流通してなかった。


 ラフォン様の顔だって知らなかったから流通してないのだろう。何でなんだろ。


 それをこの国の人に聞いてもいいものか分からないのでもやもやする。


 隣の国から来たことだけでも伝えるべきなんだろうか?


 下手なことして捕まりたくはないけど、貴族の家に入ったのだからもしかしなくともあたしたちのことは調べられている可能性は高いだろう。


 言わなくてもジゼルたちは知っているかもしれない。あたしがあっちの国で指名手配されてるってこと。


 でも、それを指摘してくる人はいないので、多分ここの人たちはかなり優しい人たちなんだろう。


 その優しさにしばらく甘えておこう。


 どうせしばらくしたらあたしは出て行くし。


 ユリアのリハビリやなんやかんやはジゼルが手配してくれたから、ユリアとその先生たちとの相性がいいかどうかとか確認したらすぐにでも出て行くつもりだ。


 このことはジゼルには伝えてある。


 ジゼルはもう少しいてもいいって言ってくれたけれども、あたしは今すぐにでも戻って復讐したいのだからこれでもかなりゆっくりしているつもりなんだけどな。


 あんまり長くいたらここの人たちに甘えてしまう。あたしにはヤることがあるからあんまり甘え過ぎるのはよくないよね。


 あたしたちはジゼルの屋敷の二階の日当たりのいい部屋を使わせてもらっている。


 部屋もかなり広くて二人一緒の部屋でもいいんじゃないの? と思わなくもなかったけど、ジゼル的には一人一部屋らしい。


 寝ている時に寝返り打ってユリアの怪我に当たったら駄目だし、仕方ないことなのかもしれない。一応隣の部屋だけど、広い部屋だから一々移動するのが面倒臭い。


 というか、貴族の屋敷ってどこもこんなに広いのかな?


 ラフォン様の屋敷が広いのは王族だからってのもあって、そういうもんなんだってあんまり気にしてなかった。


 今日はジゼルがいないけれど、屋敷の中が何だか騒がしい。


 それは、あたしたちでも分かるぐらいで一体何があったのかと、近くにいた人に聞いてみてもその人も分からないみたいで何があったかまでは分かりそうにない。


「あたし見てくるよ」

「あ、待ってお姉ちゃん。あたしも行く」

「ん」


 ユリアと一緒に廊下に出れば、屋敷の玄関ホールの方が騒がしいみたい。


 もしかしたらジゼルが戻って来たのだろうか? でも、ジゼルは数日は戻る来ないみたいなことを言っていたのに。早すぎじゃない?


 ユリアと一緒にホールに行けば騒がしさはさっきより大きいが、ジゼルの姿は見当たらなかった。


「ジゼルいないね」

「本当だ。別のことで騒いでるみたいだね」


 ユリアに返事をして戻る? と聞けば騒がしい原因がまだ分かってないから気になるとのこと。


 あたしはそんなに興味は残ってないからそこまで気にならなかったけど、ユリアが気になるのだったらもう少しいようかな。


 でも、これだけ騒がしいのに誰も注意しないのも不思議。


 屋敷の主人のジゼルがいないせいかな?


 そうこうしている内にホールを覗き込めば階下の声が聞こえてきた。


 会話は細切れにしか聞こえて来なかったけど、国王陛下がとか聞こえてくる。


「王さま来るの?」

「分かんない。でも、来るんだったらあたしたち下がっていた方がいいよね」

「そうだね。お姉ちゃん戻ろう」

「うん」


 詳しいことはあとで誰かが教えてくれるだろうとあたしたちは部屋に戻った。


 しばらくユリアの方の部屋でのんびりしていたけど、いきなり部屋のドアが開いてびっくりした。


 ここの使用人ならあたしたちに不満があったとしても、一応あたしたちに気を使っているからこんなことはしない。


 こんな風にいきなりドアを開ける人はこの屋敷にはないはずなんだけどと、ドアを見れば見知らぬおじさん。


 厳めしそうで威厳があるとでも言うのだろうか? 怖そうなおじさんの後ろには慌てたユーリスを筆頭としたこの屋敷の使用人たち。


 あの慌てようはあたしたちと会わせたくはなかったっぽい。 


 隠れようにも今さらだし、それに隠れるにしたってすぐに見つかっちゃうでしょ。


 ユリアを見ればびっくりして入って来たおじさんの顔を見つめて固まっている。


 さっき王様とか聞こえていたから、このおじさんはこの国の王様なんだろうか? いや、その前にノックとかしてよ。


 入って来たのが王様なら挨拶した方がいいかもしれないけど、突然のことにパニックになっちゃってどうやって挨拶するのか頭から飛んで行っちゃうどころかびっくりし過ぎて動けない。


 どうしたらいいのか分からない。というか、ジゼルに今すぐ戻ってきて欲しい! この状況何とかして!


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