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第44話

 ジゼルの提案を受けた後、あたしはユリアにジゼルのことを一応話した。


「その人は大丈夫なの?」

「分かんない。ユリアの祝福のことは知らないだろうけど……」

「あたしもその人に会った方がいいかな?」

「危なくない?」

「危ない人だったらお姉ちゃんを拐うかなんかしてるんじゃない? ……あたしの時は上手い話をちらつかせてだったけど、何度も同じような感じになるかな?」


 ユリアの言うことは一理ある。


 それなら、ジゼルとユリアが会う時は街中で人の多い時間帯にということにした。


 ジゼルの屋敷にそれを伝えに行こうかと思っていたが、ジゼルはいつものようにフラフラと遊んでいたので、それを捕まえて話せば、ジゼルの都合のいい日時を教えてくれた。


「来週の水曜日の昼なら確か空いてたはずだから……」

「じゃあ、その日」


 ユリアは怪我をしてから人の多いところにはあんまり行ってないからちょっとだけ心配したけど、当日は案外普通に出掛けられた。


「はじめましてジャスティンだ。ラナにはジゼルって名乗っている」

「はじめましてユリアって言います。お姉ちゃんから話は聞いてます」


 選んだお店はそこそこ混んでいて、あたしたちを気にする人は居ないと言いたいところだけど、ジゼルが目立つせいでそこそこの視線が集まってくる。


 場所を間違えたかと後悔したが、視線が集まるのなら集まるでジゼルが変な気を起こせないだろうから良しとするべきか悩んだけど、ユリアはまわりの視線は気になってないみたいなので、多分大丈夫なんだろう。


 ユリアがジゼルと話しているのを横目に店内の様子を見ていても大丈夫そう。


 みんなの視線はジゼルに向かっているためか、あたしたちには誰も注意は払ってないけど、ジゼルには護衛ついてないの?


 ラフォン様にはゼランが付いていたのに。偉い人には必ずついていると思ってたんだけど。


「ねえ、あたしからも質問いい?」

「いいよ」


 ユリアの話の邪魔をするつもりはなかったけれど、気になったんだもん。それに、ジゼルも気になることは聞いていいってくれていたし。


「ジゼルには護衛いないの?」

「ああ、うん。今日は二人に僕のことを知ってもらうだけだったから連れて来てないよ」


 いつもはいるけど連れて来てないってことよね?


 あたしたちのことをちゃんと考えてくれているらしい。


 それだったら少しだけジゼルのことを信用してもいいのかもしれない。


 あたしは聞きたいことを聞いたからまた二人の会話に耳を傾けるだけにした。


「お姉ちゃんから話を聞いたんですけど、あたしたちを家に置いて何するつもりなんですか?」

「特に何もと言いたいけど、それじゃあ納得しないだろうから……そうたなぁ」


 黙ってしまったジゼルの姿にあたしたちはこそこそと相談を始める。


「どう?」

「お姉ちゃんが警戒するよりはまともそうだけど、今日だけで決めるには早いかな」

「そうだね」


 目の前でどうしようかと悩んでいるジゼルからは悪意はなさそうに見えるが、あの国の王子だって最初の頃はユリアの前では優しげに見えていたらしいし、完全に警戒を解くのはよくない。


 だけど、少しぐらいは信用してもよさそう。


 あれから数回ジゼルとユリアは会った。


 あたしも居る時もあったけど、仕事の都合で行けない時もあったけど、ジゼルは紳士的にユリアのことを送ってくれたりしてくれた。


 あれこれと話をする割には、こちらに踏み込み過ぎないようにしてくれてるっぽくて、その優しさはあたしたちのことを考えてくれていることが分かるので、そろそろあたしたちは警戒するのをやめた。


 そして、ジゼルの提案を受け入れることにしたけど、条件をつけた。


 あたしはユリアの体調が整い次第、あの国に戻るつもりだもん。


 あたしが居なくなったとしても、ユリアのことを見捨てないで欲しい。


 ただそのことを上手くこちらの事情を隠しながらだと、上手く説明することが出来なさそうで、まだそのことはジゼルに伝えられてないけれど、でも、それでもジゼルの話は今のあたしたちからしたらかなりの高条件だったから意地を張り続ける必要はないと言うことになり、ジゼルの提案をあたしたちは受け入れた。


「……何か緊張するね」

「そうね。あたしもよ」


 今日はジゼルに会ってあたしたちがジゼルの提案を飲んで、ジゼルの保護下に入るつもりであることを伝える予定。


 ジゼルにはこちらの事情を上手く話せないのがネックだったけど、それは、あたしの変わりにユリアがしてくれるって言ってくれたから任せることにした。


「あ、来た」

「二人共どうかしたかい?」


 あたしたちが真面目な顔をしていたからか、ジゼルは不思議そうな顔をしながらやって来たので、何でもないと誤魔化す。


「何でもないの」

「そう?」

「あ、あの、あたしたち二人で話し合ったんです。それで、あの、これからよろしくお願いします」

「……いいの?」

「はい。駄目でしたか?」

「いや、ラナにはずっと断られていたからちょっとびっくりしただけだよ」


 にっこり笑うジゼルにあたしたちからのお願いを聞いてもらおう。


「あの、あたしたち条件があるの」

「条件?」

「そう」


 目をぱちくりさせて一体? と首を傾げるジゼルにあたしたちはお互いの手をぎゅっと握って勇気を出す。


「あのね、ユリアのことを面倒見て欲しいの」

「それは、当たり前だよ」

「あたしが居なくなっても」

「……どういうことだい?」


 不思議そうな顔をするジゼルにどう説明しようかと迷うが、ユリアが話をしてくれるんだったとユリアを見れば泣きそうな顔で俯いていた。


 やっぱり話したくはないはず。ユリアにこれ以上話をさせるべきじゃない。


「あ、あのね。あたしはユリアをこんな目に遇わせたやつに復讐したいんだ。だから……」

「それはこの国の人間かい?」

「……違う。復讐出来るかも分かんない。だけど、どうしても許せないの。あたしはそいつに復讐する。だけど、ユリアのことは心配だから……」

「……それは、僕が君との約束を破ってユリアちゃんのことを見捨てるって思ってるってこと?」

「それは……分かんない。でも、あたしが死んじゃったらユリアがどうなるかなんてあたしには分かりようがないから」


 だから不安は出来るだけ取り除いて行きたい。


 あたしの方に興味があるって言っていたジゼルからしたらおもしろくはないだろうけど、ユリアのことが心配なんだ。


 だからこれだけは譲れない。


 ここで断られたらこの話はなかったことにしてまたお金を稼げばいいだけだもん。


「……それはもちろん約束しよう。ところで復讐する相手の名前は聞いてもいいかな?」

「何で?」

「もし、僕に何か出来るのならラナは出て行かなくていいんだろ?」

「そうだけど……」


 相手は隣の国の王子だ。


 ジゼルに手伝ってもらえるのは嬉しいけど、それだと戦争になってしまう。


 あたしは自分の復讐がしたいだけであって、他の人を巻き込んでまでするのは違うんじゃないかって思っている。


「……」

「言いたくなったら言って」

「……うん」


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