「……何でこんなことしたいの。もしかして、あたしたちが孤児だからってからかって楽しい?」
「そう見えたのかい? そう見えていたのなら謝るよ」
本当なら口調を改めるべきなんだろうけど、色々と疲れちゃってそういう気力もない。
それに、ジゼルも気にしてなさそうだし。
今は屋敷の庭園を見ながらのんびりとティータイム中。
こんなことしてる暇があるんだったら復讐のことを考えていたいんだけど、何であたしはこんなところでこんなことしてるんだろ。
「あたしはジゼルの提案を断るつもり」
「理由を聞いても?」
「……あたしはユリアのことが大事なの。ユリアを守るためならなんでもする」
そのためにこの国に来て力を付けようとしているのに、こんな訳の分からない人のために使う時間なんてもったいない。
今までのことを全部話す訳にはいかないから言えるところだけ伝える。ジゼルはお茶を飲みながらあたしの話しを聞いてるのか、聞いてないのかよく分からない反応をしている。
しばらく待ってみたけど何も言わない姿にまだ何か言わないといけないのだろうか? と頭を悩ませたけど、事情を隠してだとこれ以上言うことはないのでジゼルの反応を待つしかないけど、全く口を開こうとはしないジゼルの姿にイライラしてきた。
「あたしもう行く」
あんまり遅くなるとユリアも心配するから。
声を掛けたのは、この屋敷の主に何も言わないのは失礼に当たるってセリーヌに言われたことを思い出したから。
「ラナ」
「え?」
帰ろうと立ち上がって数歩歩いた時、名前を呼ばれた気がして振り返った。
ジゼルはさっきまでの優雅な姿勢のままあたしのことをじっと見ていた。
その視線の強さに目を反らしそうになってしまったけど、あたしもジゼルのことを見つめ返した。
「何?」
「どうしてそんなにカリカリしているんだ? 急いだって状況が変わる訳でもないよ」
「は?」
カリカリしているつもりはなかった。
それに、あの言葉。あたしのことを試しているのだろうか?
「僕を警戒するのは分かる。自分が同じ立場だったら僕だって警戒するよ。相手の思惑を調べたりね。でも、君は突っぱねるだけで、僕が何を考えているのか調べようともしない。もしかすると君自体に余裕がないのかと考えたんだけど、違うかい?」
「……じゃあ、聞くけど、あたしはジゼルのこと全然知らないけど、ジゼルもあたしのこと知らないのに、知らない人間を屋敷に住まわせようとする理由が分かんない」
ジゼルが親切なのかも分からないし、どういうつもりで近付いて来ているのかも分からない。
分からないことだらけで、半分以上は八つ当たりな気もする。
でも、このままジゼルに八つ当たりしていたところで状況が変わる訳でもない。聞いていいみたいだからこの際聞いてやるとジゼルの目を見つめたまま反応を待った。
「ムカついたから」
「は?」
聞き間違い?
いや、はっきりとムカついたって言ってたから聞き間違いってことはない。
「前に僕のことを話したじゃないか」
「ああ、うん」
確か、愛人の子で正妻に嫌がらせされていたとかなんとか。
それとあたしがムカついたってことは関係があるのだろうか?
よく分からないけど、話が長くなりそうで仕方なく座り直してジゼルの話を聞くことにした。
「僕は苦しくて辛かった。助けてくれる人も居なくて、世界中が敵になった気分だったよ。なのに、ラナには沢山の人が味方になってくれて羨ましくて仕方なかった。最初は嫉妬でかなかったのに、君のことを知っていく内に君のことが段々と羨ましくなってきてね。どうしたら僕もそんな風になれるのか知りたくて」
「他の誰かになんかなれないよ」
あたしだって小さい頃はユリアになりたかった。
でも、そんな願いが叶うことはなかった。あたしはあたしのままでユリアはユリアのままだった。
それに、願いが叶っていたのならあたしがユリアの変わりに怪我を引き受けてるわよ。
「でも、それに近付くことは出来るでしょ」
「えっ、何か気持ち悪い」
何でこんな人があたしなんかになりたがるのか分からないし、ジゼルが女の子の格好をするのを想像したら思わず声に出しちゃって慌てて手で口を塞いだけど、やっぱり聞こえていたみたいで微妙な顔をしていた。
機嫌を損ねたら何されるか分かんないけど、ジゼルはそういうことはしなさそうだという変な確信があった。
「……そうかな」
「そうだよ。それに、誰かになれるんだったらあたしはユリアになってる」
「そういうもの? 王様とかになって権力を欲しいままにするとかもあるだろうに」
「興味ないよ」
あたしにはユリアだけだし、ラフォン様を見ていて仕事が多くて大変そうだったもん。権力があったって仕事に追われていたら意味がないもん。
「……じゃあ、僕のことを利用するってのは?」
「何で?」
「ユリアだっけ? 妹の怪我の治療に住むところもかなりよくなるし、お金に困ることはなくなるよ」
「……」
「僕が怪しく見えたんだとしたらこれから僕のことを知ってその警戒が無駄だってこと分かってもらうよ」
「……考えておくよ」
今のあたしに出来る返事はそれだけ。
ジゼルはそれ以上引き留めることなく、あたしはすんなりと帰ることが出来た。