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第42話

 ジゼルの話は怪しかった。


 だって、取り柄のない孤児を引き取って育てるだなんて、小さい頃に夢見ていた世界じゃあるまいし、そんなことあり得ないのは分かってる。


 それに、あたしは孤児は孤児でも隣の国で指名手配されているような人間だ。冤罪だけど、こっちではそのことが知られてないが、もし、知られてしまえば、こんな風に暮らすことすら出来なくなる可能性の方が高い。


 ラフォン様たちみたいな人も居るのかもしれないが、それだって、半分夢みたいなモノだったんだもん。


 あんなことが二度もあってたまるもんですか。


 ユリアにジゼルのことを相談してみようかと思うこともあったけど、ユリアに心配は掛けさせたくない。だからジゼルのことは言うつもりはない。


 言ったとしても、多分だいぶ先に変わり者の貴族がいたと伝え聞いた風に話すつもりだ。


 あたしが怪我をしてからユリアは心配性になった。


 離ればなれになる前はいつも二人一緒に居たし、それが普通だと思っていたから今までは気にしてなかった。


 でも、ユリアと離れて沢山の人に出会って、あたしたちの中にも少なからず変化があった。


 ちょっと前まではあたしの方が心配性だったのに、今では両方共が心配性になったけど、それじゃあ、日常もままならないので、お互いに変わろうとしているところだ。


 それなのに、また不安にさせるようなことを言うのは違う。それに、ラフォン様の時のようにジゼルが優しい人かも分からないんだもん。信用し過ぎてもいけない。


 というか、ジゼルがこれからもやって来るようなら、どこかに引っ越した方がいいかも。


 引っ越して来たばっかりなのに、ユリアにはどう説明しようか。


 それにお金も不安になってくる。せっかく見つけた新しい居場所を手放すのは


 まだそこそこはあるけど、出来たら使いたくないお金。


 お金のことを考えると何も考えたくない。


 そんなことを考えていたら、仕事の帰り道の途中にジゼルが壁に凭れ掛かって誰かを待っている風だった。


 違う道から帰ろうか。でも、いつかはどこかで会うことになるのなら、今ここでもいい。


 それに断るのなら、早い方がいい。


「……ジゼル」

「やあ、ラナ」


 ジゼルが待っていたのはどうやらあたしたったらしい。


 あたしが声を掛けてもびっくりした様子はなかったので、多分そうなんだと思う。


「あのさ」

「ちょっと待って」

「え?」


 何? この間の返事をさっさと済ませて帰ろうと考えていたのに、どうして待たなきゃいけないのよ。


 睨むに睨めないので、ジゼルの顔を怪訝な顔で見つめていたらジゼルはあたしの手を取って歩き出した。


「えっ、ちょ、ちょっと!」

「すぐに断られそうだと思ってね。先に僕の提案を見てもらえたらって思ってて」


 断られるって分かってるのならば、どうして着いて行かなきゃいけないのか分からない。


 ジゼルの手を振り払って逃げたくても、相手の力の方が強すぎて振りほどけないので着いて行くしかない。


 ここで大声出したって相手は貴族だ。誰も助けてくれるはずがない。


 ジゼルはさっさと馬車に乗ると御者に行き先を告げていたがらあたしには聞き覚えのない場所だった。


「……どこに行くの?」

「そんなに警戒しないでいいよ。とりあえず、服屋からかな」

「服屋?」


 今着てる服はこっちに来てから買った物だ。


 まだ破れてないし、汚れてもない。少し色は抜けて来たような気はしなくもないが、多分気のせいぐらいにしか分からない。


 だから、見苦しくはないはずなんだけど。変だった?


 それに、変なら周りの人たちが教えてくれるからそこまでおかしなことはないはずなんだけど。


 変じゃないようにこっちで買ったからこちらでは一般的な服だ。もしかして、貴族的な服じゃないからってこと?


 それなら、あたしには分からないけど、でも、まだ着れるのにわざわざ服を買う?


 自分の服装を改めてまじまじと見つめていたら向かい側のジゼルが笑っているのが見えてムッとした。


 文句を言いたかったが、それよりも先に馬車に乗せられてしまったため、


 お店に着くなり、ジゼルと店員によって着せ替え人形のようにされた挙げ句、色々と服を買いそうになっていたのを慌てて止める頃にはぐったりしていたが、ジゼルの行動はそれだけに留まらず、お高そうなレストランにまで連れて行かれて、あたしたちが暮らす予定だというお屋敷にまで連れて来られてしまった。


 いや、あたし断るつもりなんだけど。


 でも、一着だけと無理やり着せられた一着。髪の色に合わされた水色のドレスは動きにくいけど、可愛らしい。上等そうな服を汚しそうで怖いけど、こういう服を着れたのはいい思い出に出来そう。


 ジゼルのお屋敷は広くて、使用人も多い。ジゼルがそれなり以上の貴族だってことが分かる。


 一応爵位を聞いてみたら侯爵だそうだ。


 侯爵がどれぐらい偉い人なのか分からないが、王都にこんな広い敷地を持てるのだから結構偉い人なんだろう。


 ミーヌさんに貴族についてもっと聞いておけばよかったと後悔するが、後の祭りだ。後で調べるにしたってもうかなり失礼なことしちゃっているはず。


 ジゼルの優しさにその辺のこと今まで考えてなかったけど、もし、次会うことがあれば気をつけた方がいいのかも。


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