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第37話

「ユリア、あたしちょっと出かけてくるね」

「うん。行ってらっしゃい」


 ユリアに声を掛けてから外に出る。


 外は雲一つないいい天気。今日は久しぶりの休みだからゆっくりしててもよかったけど、やらなければいけないことがあるからそれを先に済ませたい。


 前に体を鍛えようと考えていたけど、それは一日じゃ無理だから


 さっき洗濯物を干して来たからこの天気ならすぐに乾くと思うので、ユリアが取り込もうとする前に戻るつもり。


 あたしたちがシェスタ・マーベレスト国でどんな扱いになってるのか知りたいし、ラフォン様があたしのせいで立場を悪くしていないかも気になる。 


 もし、そうだったとしても、あたしには何も出来ないけれど、それでも、ラフォン様のために祈ることは出来る。


 あの国の情報を手に入れるのなら国境の街にいた方がよかったが、あの国に近いところは嫌だったんだから仕方ない。


 王都でも得られる情報は少なからずあるはずだから、今日はそれを探しに行く予定。


 図書館に行けば近隣の国の新聞も保管してあるらしいので、そこから表面的な情報は得られるはず。


 国によって言葉が違うとかあるかと思っていたが、隣の国だからか、言葉も文字もそんなに変わりがなくて助かった。


 自分が生まれたところの勉強だってかなり大変だったのに、これ以上詰め込まないといけないのは嫌だったからよかった。


 もう勉強はこりごりだけど、本が読めるようになったことは、こうやって情報を集める時にはよかった。


 勉強は大変だったけど、今ではミーヌさんに感謝している。あたしは馬鹿だからこんな時に何をすればいいとか分からない。


 もしかしなくとも、遠回りなことをしているのかもしれないが、


 後は危ないけどそういう情報を扱っている人たちがいるって言うところに出かけてみてもいいけど、今日は図書館に行くだけになるかも。


 図書館に着くとそれなりに人は居るけどシンとしていて図書館特有の空気に慣れなくてソワソワしてしまう。


 というか、図書館なんて場所はあたしには場違いだと思って今まで近づいたことがなかったせいかも。これからはもう少し図書館に通ってみるのもいいかもしれない。


 近隣の国の状況が詳しく知りたいから、司書さんにその辺り詳しく書かれた本がないかとか聞いてみた。あたしがまだ若いからか、不思議そうな顔をされてしまったけど、きちんと教えてくれたからよかった。


 本は沢山あってどれが一番有益か分からない。そして、あたしは字は読めるとは言ってもかなり遅い。


 何冊か借りた方がいいよね?


 でも、せっかく図書館にまで来たんだからと何冊か読むことに決めて本をとろうとするとあたしが掴もうと思っていた本が取られてしまった。


「あ」

「ん? 君これ読むの?」

「いえ」


 相手は透き通るような薄い色の茶色の髪に緑の瞳をした背の高い二十代前半ぐらいの男の人だ。


 あたしが声を上げたからか不思議そうな顔をしてこっちを見てきたので慌ててなんでもないと声を上げた。


「……あー、じゃあどうぞ」

「えっ! いいんですか?」


 どうしよう。貴族っぽい人に声を掛けただけでも、人によっては怒って来るかもしれなかったのに、本まで譲ってもらってもいいのかな?


 まあ、本人がいいって言ってるんだから


「僕は子どもの時にもう読んだから懐かしくなって手に取っただけだからね」

「そうなんですか」


 柔和な笑みに釣られてこっちもにっこり笑ってしまいそうになる。


 でも、この人が子どもの時に読んだ本なら最近の本じゃないよね?


 貴族の青年に、その場はお礼を言って見送ってから、一番最後のページを開く。ここに発行年数が書いてあるとミーヌさんに教えてもらったことがある。


 思っていた通り、最後のページには三十年ぐらい前の刊行だった。これじゃ古すぎる。


 刊行年数が最近の他の物を探さないと。


 さっきの人に譲ってもらったのに、申し訳ないがこの本は本棚に戻して、出来るだけ最近出た本だけを探してたら、時間があっという間に過ぎていて気が付いたら夕方になっていた。


 もうこんな時間かとぼんやりと考えていたら洗濯物のことを思い出して慌てる。


 図書館だから叫ぶのはしなかったけど、それぐらい焦った。


 あたしがするつもりだったのに、こんな時間ならばもうとっくにユリアが仕舞っちゃってるはずだ。


 洗濯物を仕舞うのを出来なかったけど、せめて夕飯だけでも自分で作らなくちゃ。


 探し出した本の貸し出し手続きを済ませて、慌てて帰るあたしの姿を見ていた人がいたことにも気付かなかったし、帰ったら帰ったでユリアが夕飯作りまで済ませてくれていてちょっとだけショックだった。


 でも、本人はリハビリになったと喜んでいたからあたしが全部やらない方がいいのかな?


 一緒にいる時は手伝ってもらってまた昔みたいに二人で作るのも楽しそうだ。今度一緒に何か作るのも楽しそう。何を作ろうか。


 こうして笑っているとちょっとだけ昔に戻ったみたいで懐かしい気持ちがこみ上げてくるが、この気持ちは今は必要ない。


 心の奥深くにしまっておいていつか復讐を終えた時に取り出してまた楽しめる日がくればいい。

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