ここはあたしたちが生まれた国の隣の国グレースの首都セルフィー。
ランプル芸団のみんなと別れた後あたしたちはグレースの首都を目指した。
国境の街でもいい医者は居たのだけれど、あの国に近いからという理由でこっちまで来た。
国境に近い分捕まる危険も高くなる。
それに、あんな奴らの近くにユリアを置いておけない。だから多少無理はしたけれど、無事にセルフィーまで来れたし、そのお陰で前よりもいい医者にも出会えた。
住むところを探すのはちょっとだけ大変だったけれど、それでもいい人が多いお陰か、小さな一軒家を借りられることになった。一軒家だから家賃が高いかと焦ったけど、あたしたちがまだ子どもだからって大家さんがおまけしてくれるって言ってくれたお陰で格安で住まわせてもらっている。
ユリアも怪我のせいであまり動けないからか、小さい家の方が動きやすくていいと笑っていた。
家自体は小さいけど、あたしたち二人で住むには余裕だ。家賃も安いし、しかも、こっちの国の方が物価が安くてずっとこっちに住んでいたいぐらい。
でも、あれこれ買っていたらすぐにお金の底がついてしまうから必要最低限の物だけ買って後は追々買って行くことで落ち着いた。
家が決まったら次は仕事だ。これも、あたしたちが子どもだからって中々見つからないかと思ったが、優しい大家さんのお陰ですぐに見つかった。
あたしはお金を稼ぎたかったからいくつか仕事を掛け持ちさせてもらっている。ちょっと大変だけど、体力はある方だし、もう少ししたら休みを取るつもりだからそれまでは頑張る。
ユリアの怪我はこっちの医者にも聞いてみたが、やっぱり完全には治らないらしいけれど、でも、少しはよくなる可能性もあるって聞いてあたしたちはそれに賭けた。
そのお陰で、少しだけだけどユリアは助け出した頃と比べると元気になってきたし、笑顔も増えてきた。
右目は完全に視力がなくなってしまっているらしく、足も障害が残ってしまうらしい。
だが、ユリアは諦めてないみたいで、最近では内職の仕事をもらって来てそれをこつこつとやっているし、リハビリも続けている。前よりは表情も明るいので、ユリアもこっちの暮らしの方が合っているっぽい。
あたしはユリアの変わりに家のことをできるだけしたり、外に働きに行ったり、医者に薬にと奔走していたけれど、最近はそれも落ち着いてきて改めてユリアに何があったのか聞いた。
ユリアはもう話したからと言って、最初話したくなかったみたいだったけれど、根気よく聞き続ければ、口を開いてくれた。
途中から嗚咽混じりで聞き取りにくかった。だけど、ユリアはゆっくりとたどたどしくだけどあたしがあの小屋にたどり着くまでのことを話してくれた。
本当は聞かない方がよかったのかもしれない。もう既に聞いた話しだったから。でも、あたしはユリアに何が起きて何故あんな目に遭わされ、そして、この憎しみを忘れないためというよりは、更に強い憎しみを募らせるため。
あたしはユリアをこんな目に遭わせた奴を許さない。
地べたに這いつくばって命乞いをさせてから殺してやる。
そうやって決意をしていたのに、ユリアの話を聞いていたら気がつけばあたしはユリアと一緒に泣いていた。
ユリアを助けた日に泣く資格なんてないと思っていたのに。
あたしはあの時、もっと早くに見つけていたらとか、ユリアを引き留めていればと散々後悔した。
もうあんな後悔は絶対にしたくない。
あの時、ユリアを見つけたのが遅すぎたんだ。
あの日ユリアが王子と出て行くって言ったのを何としてでも引き止めておけばよかったと後悔してもしきれない。
泣いている暇なんてないって分かっているのに、気が付けばその日はユリアと二人してわんわん泣いていつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていた。
起きた時に瞼が腫れてめちゃくちゃブサイクになっててびっしりしているとユリアも起きて来てお互い同じような感じになっててお互い指差して笑い合った。
いつぞやも同じようなことがあった。
あの時はまだ心に余裕はそんなになかったけれど、こんな風にお互いを笑い合える日がもっと増えていけばいいが、でも、その前にそろそろあたしも動くべきだ。
あたしは復讐をする。絶対に。
どうやってあの国に戻ろう。あたしは指名手配されているはずだし。こっちに来る時、国境をすんなり通れたけど、あっちに入るのは時間もかなり過ぎているからすんなり行くかも分からない。
この国に来てから忙しくて、あの国の情報を全く入手出来てなかったからあの国の情報を少しでも欲しい。
あの国で暮らしていた時は、偉い人なんて一緒に見ることも関わることもないと考えていたが、ラフォン様のところでしばらく働けたんだもの。絶対はない。
それに、情報が多ければ逃げる時とか復讐する時にきっと役に立つはず。
幸いユリアの体調も良くなってきたから動くならそろそろ動き始めてもいい頃だ。
さて、とりあえず何から始めたらいいか。