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第35話

 ケントが追放を喰らってからも関係なくあたしたちは毎日働いた。


 ケントのことは詳しくは聞いてないけど、キュリアさんたちが何かしたって


 お見舞い金に、沢山働いたからそれなりにお給料も出た。これで隣国に渡ったとしてもしばらくは問題なく暮らしていけそう。


 だけど、メイビたちに剣の扱い方教えてくれることはなかった。


 理由は怪我したばかりだからと言うものだったけれど、怪我はとっくに治っていたのに、結局最後まで教えてくれることはなかった。


 もしかしたら、あたしには剣は向いてないということなんだろうか?


 でも、筋トレぐらいは教えてくれてもいいと思っていたのに、それすら教えてくれなくて、がっかりした。あたしには剣とか筋肉って向かないのかな?


 それなら、暗殺者を雇うべきなんだろうけど、そういう人たちがどこに居るのか分からないし、いくらぐらい掛かるんだろ。王族の首だから多分かなりの高額になるだろうし。


 それだったら自分でやった方がいい。教えて欲しかったけど、無理だったから別のやり方を考えた方がいいよね。


「本当にいいの?」

「はい、決めました」

「今までありがとうございました」


 ユリアと一緒に頭を下げる。


 国境沿いの街の手前。


 ランプル一座のみんなはもう少しこの国で商売してから別の国に行くそうであたしたちとはここでお別れ。


 みんなに剣の扱い方を教えてもらえなかったからという訳ではなく、元々国を出る時までって決めていたので。


 国境近くに来たのだからちょうどいいと思って、ユリアと相談してあたしたちはこの国を出て行くことにした。


 長々とこの国に留まってこの人たちに迷惑を掛け続ける訳にはいかないし。


「あんたたち双子だから絶対舞台映えすると思ってたんだけどねぇ」

「そうだよ。あたしも色々教えたかったのに」


 エリザとリズの言葉に苦笑する。


 ユリアと一緒だと、祝福の使えないあたしはどうしたって見劣りする。


 最初は物珍しさでいいかもしれないが、ユリアが祝福を使い出したらあたしなんかまた裏方に戻されるかユリアの引き立て役にしかならないのでそんなことしたくはない。


 ユリアは国を出るまでは使うつもりはないって言っていたけど、隠していてもいつかはバレちゃうんだから出て行くのは早い方がいい。


 そのことを長々とみんなに説明するつもりはないので苦笑するだけにした。


「今までありがとうごさいました。ユリアの怪我もちゃんと治してあげたいので」

「……そうね。じゃあ、怪我が治ったらまた来なさい。あたしたちはいつでもあなたたちのことを待っているから」

「「ありがとうございます」」


 二人揃って頭を下げてからみんなと別れて国境に向かった。


 国境の門は行列が出来ていたけど、人数と通行料を払うだけで特に引き留められることはなさそうでホッとした。


 これならあたしたちでも簡単に通れそうだ。


「お姉ちゃん」

「あ、ごめん速かった?」


 ユリアに気遣うのを忘れて、うっかりと早く行かなくちゃと焦ってしまっまついたらユリアに呼び止められて足が止まった。


「ううん。あのね、もうこの国ともお別れだなって思って」


 ユリアはそういうと最後に見ておきたかったと言う。


「あ、そうか。移動する?」

「ううん。それは別にいい」


 どこか小高いところから見ようかと提案してみたけれど、そこまではいいとのこと。


「あたしお城では自由に動けなかったけど、でも、アルフレッドがどういう人だったかは分かる。彼は自分の思った通りに動かなければ容赦のない人。逃げ出したあたしは許されないはす。だからここでゆっくりとしてる暇なんてないのは理解しているよ。ごめんねこんなことに巻き込んじゃって……」


 ユリアの手を握ればユリアも手を握り返してくれた。


 ユリアの手はあたたかくて何故か分からないけど、あたしは今日のことは絶対に忘れないだろうと確信していた。


「違うよ。巻き込んだのはあたし。あたしがあそこからユリアを連れ出そうと思わなければユリアは追われる身にはならなかったもん。だからあたしこそごめん。ユリアをこんなワガママに付き合わせちゃって……あたしはユリアにあんな酷いことした王子のことが許せない」

「……お姉ちゃんが来なければ、あたしはあそこで死ぬよりも辛い目に遭わされていたはずたもん。夢でもいいからお姉ちゃんに会いたいって思ってた。お姉ちゃんがあたしの前にいた時は神様があたしが死ぬ前にお姉ちゃんを遣わせてくれたんじゃないかって思ってた……でも、お姉ちゃんがあたしを迎えに来てくれたって分かった時に、」


 途中からユリアは嗚咽混じりで、何ならあたしも一緒になって泣いてた。


 二人してわんわんと泣く姿は異様だったのか、まだ街の入り口だっていうのに人だかりが出来ていて、泣き止む頃には二人して恥ずかしくて恥ずかしくて、一晩国境で過ごす予定だったけれど、それを中断してそそくさとシェスタ・マーベレストを後にした。


 いつかまたこの国に戻って来る時が来るだろうけど、その時はこの国の奴らに復讐をする時だ。それまであたしたちはこの国に足を踏み入れることはないだろう。


「──さようなら」

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