だんっ!
うるさいな。
眉間にシワを寄せながら、音の発生源を見ればアルフレッドが怒りを露に、宿の備えつけのテーブルを殴っていた。
あんなことをしても、手が痛いだけで状況が変わる訳でもないのに、どうしてあんなことをする必要があるのか分からない。
「どうして見つからないんだ! 兵たちは何をしている!」
仕事していたに決まっているでしょう。こんなのが兄だなんて──
自分の無能さを棚に上げるなと言いたいが、無能なのは私も同じ。
ユリアとラナの二人は、私の祝福を使えばすぐに見つかると思っていた。それなのに一日経っても二日経っても、それどころかもう一週間以上見つけられない。
どうして見つからない? そんな思いから焦りが生まれるけれど、遅々として進まない捜索はアルフレッドではなくとも苛立つ。
アルフレッドに対して思ったことだけど、私自身にも同じことが言える。状況が変わらないことに対する腹立ちを今すぐにでも、どこかにぶつけてしまいたい。
だけど、そんなことをしたらアルフレッドと同じ低レベルの人間にみられるのだけは私はごめんこうむりたい。
ラナはラフォンのところで働いていたから、ラフォンが何かしら協力しているはずなのに、それらしい動きがないのもおかしいわ。
ラフォン以外にも協力者がいる?
あの姉妹のことをもっと調べさせておけばよかったしら? 私の祝福では、あの二人に大した人脈はなかった。唯一彼女たちが掘り当てた人脈がラフォンぐらい。
だからラフォンが何かしらの行動を起こすと踏んでいたのに、彼の行動は殆ど変わりがない。唯一の変わりがあったのが、陛下に会いに行ったことぐらい。
ラフォンの父親は王弟だけれど、本人は王位に興味がなかったため、すんなりと私たちのお父様に継承された。
だけど、ラフォンが王位に目がくらんだとかは聞いたこともなく、陛下とも距離を取った付き合いをしていたのに、ご機嫌伺いという名目だったようだけど、きっと何かあると残して来た使用人たちに調べさせているところだが、今のところ不審な動きはない。
ラフォンじゃないのならば誰が?
どうして見つからない? もしかして、もう国外に逃走した後?
それらしい人物を見かけても、全くの別人だったり、それらしい痕跡もなくなってしまう。まるで私の祝福に詳しく、こちらを翻弄するかのように。
いくら考えても分からない。すぐに捕まえて終わりだと思っていたのに。
姉は祝福なし、妹は怪我をしていてまともに動けない。だからすぐにカタが付くと思っていた。
兄が護衛に着いてきた者たちに向かって唾を飛ばしながらギャアギャアとみっともなく罵っている姿は王族と呼ぶには──
これ以上は考えないようにゆるく首を振って宿の兄に与えられた部屋を出る。
廊下に出れば私の護衛の騎士が二人寄ってきた。
その二人に部屋に戻ると告げ移動する。
本来ならば兄と二人で移動するはずだったのに護衛なしでは嫌だと駄々をこねる兄に仕方なく護衛を連れて行けば、安い宿は嫌だとごねるので高級宿に泊まりとしていては見つかるものも見つからなくなってしまいそうだ。
いっそ私一人で行動すればと思うものの王命は絶対。
あんな低能が兄だったとしても私は女というだけで継承権の外。誰かと結婚して子を産み育てるだけしか使い道がないと思われている。
アルフレッドみたいな愚者が王になると決まっているのならば反乱を起こして私が女王になってしまいたい。他の国では女が王になってはいけないと決まりはないし、実際に国を治めている女王だっている。それなのにこの国は時代錯誤過ぎる。
本当に嫌になる。
「ラナとユリアの二人のことを調べ直して」
「はっ!」
「それからラフォンはどうしている?」
「それが、ラフォン様は隣国へと旅立たれました」
「この時期に?」
ラフォンが何かしらしていたと思っていたけれど違った? それならばユリアが嘘を吐いて姉の祝福を隠していたとか?
考えても分からない。どうせあの二人のことを調べ直しをするように命じたから数日もすれば分かることだ。
それまではあの馬鹿な兄の相手を適当に相手をしていればいいけど、あんな愚かな奴と一緒に居たくない。
宿の私に与えられた部屋に入る。城と比べたら遥かに狭い部屋だけど、一日か二日泊まるだけの部屋に文句を言うつもりはない。
そのまま窓際に移動し、千里眼の祝福を使い、辺りの様子を窺う。
「宿を窺っているのが数人居る」
「いかがされますか?」
王族とバレないように少人数で移動していたし、服装もかなり質素な物に変えていたのに。誰かが私たちのことを見張っている。一番可能性ありそうなラフォンは国外に居るそうだ。
だとすれば私たちを警戒しなければいけない者は誰だ? この国は長らく平和だ。あんな出来の悪い兄でも王位継承者になれるぐらいなんですもの。
それともただの悪漢か? アルフレッドは金使いが粗いからそれを狙った者かもしれない。
宿を見張っている奴らの姿はその辺りを歩いていても不思議ではないが、少々小綺麗過ぎる気もしなくはない。
だが、その顔に見覚えはないので軍や城の関係者ではなさそうだ。それに王都に住む者たちとも違う。
私たちが王族だと知っている者の仕業だとしたら私の祝福を知らないはずがない。ただの悪漢の可能性の方が高い。
もしくは他の国の者か。
「見張っておいて。それと、出来たら穏便に近付いて目的を聞き出しなさい」
「御意」
誰であれ私の邪魔をする者は許さない。