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第28話 ランプル一座団長2

 ラナとユリアの天幕を出てからリズに声を掛ける。


 二人の前でケントの話をしなかったのは、怪我して混乱しているのに、さらに混乱させてしまう訳にはいかないと思ったから。


「あいつは?」

「捕まえて今縛ってあるよ」


 ラナがはしごから落ちた時、ケントがはしごに体当たりしたのを目撃した者は多く、ケントはその場で捕まったと聞く。


 ラナは全治一ヶ月程でよくなるらしいが、ここで生活している以上団員たちの安全は団長である自分が守らなければならない。


 怪我をさせないようにと毎日細心の注意を払い、舞台に準備に、観客の怪我もないようにと気を配っていたのに、ここにきてケントがやらかしてくれた。


 ケントは前の団長がどこからか拾って来た子だからと長い間目を瞑って来たが、さすがに今回のことは看過出来ない。


 リズの言葉に頷いてケントを捕まえている天幕へと向かう。ラナたちの天幕から離れているが、怪我させた張本人を近くには置けないから仕方ない。


 ケントを捕まえたのはメイビだったためか大人しく捕まったらしいが、自分は悪くないと叫んでいて騒がしいので、何度かメイビが小突いているのにも関わらず反省している様子はないとか。


 どこまても救いようのない奴だな。


 ケントが捕まっている天幕に近付いてくと、ギャーギャーと喚き散らすケントの醜い声が聞こえて来た。


 話の内容までは分からないが、とりあえずケントが見苦しいということだけは分かりたくないが、分かった。


「メイビ、ご苦労様」

「団長、あの子……ラナだったか。ラナは目が覚めたのかい?」

「ああ」


 メイビに短く返事をする。気になるのならラナの容態は後でリズから聞いてくれ。今はケントの方だ。


 メイビにやられたからかボコボコになって前より男前になったんじゃないのか? もっとボコボコにされて人前に出られない顔になればいいのに。


「ケント」

「あ、なあ、これ外してくれよ! 俺は悪くない!」


 メイビがこいつを殴った理由が分かる。私でもこいつのことを殴りたくて仕方ない。


 ラナは新人でもうちの団員になった。


 その団員を守るのが私の役目であり、先代の団長の信念でもあった。それを先代の団長に一番可愛がられていたはずのこいつが理解出来ていないのを私は理解出来ない。


 今まで見たことがないぐらい気持ち悪い生き物が目の前に居るような錯覚に目眩がしそうになるが、私がするべきことは団員を守ることだ。


 ケントも団員だったが、団員を傷付ける奴はもううちの団員じゃない。


 集まったみんなの顔を見れば私と同じようにケントを得体のしれないものを目を向ける者、私がケントに対してどういう判断をするのか面白そうに見守ってる者に固唾を飲んで見守ってる者と反応は様々だ。


 面白そうにしている奴らの顔は覚えた。


 あいつらは今後見張っておいた方がいいかもしれない。第二のケントを出さないためにも。


「うるさい。静かにしろ」


 あれこれ考えている間もずっと自分は悪くないと言いつのっていたが、黙れと言えばピタリと口を閉ざした。


 初めからこうすればよかった。


「ラナが梯子から落ちた時ケントを見た者は?」


 天幕の中全体に聞こえるように声を張り上げれば、何人かパラパラと手を上げる。そいつらは面白そうに成り行きを見守ってる中の者ではない。


「じゃあ、ケントがラナの梯子を倒したのを見た者は?」


 さっきより人数が少ないが、数人が手を上げた。


 ケントを睨めばまだ自分が置かれた状況が理解出来ないのか、手を上げた者たちを睨んでいた。その態度に思わず蹴り上げればケントは短く呻いた。


「ったぁ……何すんだ!」

「は? うちの団員を殺そうとした男を蹴っただけだが、何か問題があるか?」

「ぐっ……」


 そのままケントの太ももをぐりぐり踏みつければケント痛みに呻いた。


 そこそこ高さのあるヒールのブーツを履いてるが、ケントが苦しむ顔を見れるのならもっと痛いピンヒールにしておけばよかった。


 こいつの処分は決まっているが、ラナにこいつの処分に決めてもらうつもりだ。


 こいつのせいでラナは死に掛けたんだ。


 最終的には私が決めるが、ラナがこいつに復讐する権利はある。


 だから、ラナに知らせずにこいつを追放することはしない。


 もう一発蹴りを入れてケントが倒れ込んだところで、メイビにケントが逃げ出さないように縛り上げて閉じ込めておくように指示。


 そして、成り行きを見守っていた団員全員に聞こえるように息を吸う。


「ケントはうちの団員を傷付けた。打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。そんな奴を私は許したくはないが、ケントの処分は後日決定する。それまでケントは謹慎させる。また同じようなことがあれば、それが誰であれ私は今回と同じように処罰をするつもりだ! もし、ケントと同じように同じ団員を傷付けようと思っている奴が居るのならば、今すぐこのランプル団から出て行け!」


 言い終わってから団員たちの顔をぐるりと見回す。


 さっきまで面白そうにしていた奴らも今度は大人しく真面目な顔をしている。とりあえず、この場から去るような者は居ないらしい。


 私はそのことに少々ホッとしながら解散を促す。


「お疲れ様」

「シフィーか」


 皆がそれぞれの天幕に戻って行く中シフィーが私のところにやって来た。


 シフィーとは十年以上の付き合いになるから私の性格も知りつくしている。


 こういう場はいつまで経っても慣れないのをお見通しなのかもしれないな。


「大変だったわね」

「大変なのはこれからかもな」


 さっきまでへらへらしていた奴らの顔を思い出す。今日は帰ったけど、明日以降辞めると言い出す奴が居るかもしれないから注意はする。


 あんなことを言ったが、団員が減るのは悲しいから。


 メイビがケントを引きずって行く。さっきまで大人しくしていたのに、また暴れ出してる。


 権力に弱い奴か? だったら権力に媚び売って大人しくしておけばよかったのに、余計なことしやがって。


 思わずため息を吐けばシフィーが苦笑している。


 笑ってる暇があるんだったらあいつを何とかしてくれ。


「まあ、団員が減ってもやり方は変わらないんでしょ?」

「そうだな。これはこの団の初期の頃からの理念だからな」


 団員に害をなす者がそれが誰であれ徹底的に抗戦するべし。


 この理念のお陰でかなり大変な目にもあったり、行けなくなった地もあるが、私はこれからもこの理念を守るつもりだ。そのお陰で団員たちの結束が強くなったが、ケントみたいな馬鹿が混じると大変な目に合う。


 ラナが怪我したのはもちろん駄目だが、馬鹿を追い出すきっかけになったのは正直ありがたい。


 ラナにお見舞い金を出すつもりだが、多めに包んでおくか。


「これからもよろしく頼むよ」

「仕方ないから頼まれてあげる」


 苦笑しながらシフィーに頼めばシフィーも苦笑しながら合わせてくれた。


 頼むよ。こういう馬鹿が増えたら私一人じゃ対処しきれなくなるから。


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