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第26話

 もうそろそろこの国から出るらしい。


 最初はいつ捕まるんじゃないかって気が気じゃなかったけれど、あたしたちは未だ捕まる様子はなく、なんとか平和な日々を送っている。


 こんなに平和でいいのかなと思うけど、何事もないのだからありがたいと考える方がいいよね。


 このまま何事もなく、他の国に行けたらいいな。


 でも、不思議なのは姫の祝福であたしたちのことを見張ってると思うんだけど、どうしてまだ捕まって居ないんだろう?


 もしかして、あたしたちが二人で行動するのを待っているとか?


 それだったら──


「おーい、ラナ! こっちの大道具が破れちまったから、ちょっと手伝ってくれないか!」

「えっ、あ、はーい!」


 また呼ばれた。


 ここんとこずっとこんな感じ。


 考えごとをしようとしても、すぐに呼ばれるから何か考えている暇もない。


 手に持っていたホウキを片付けてから大道具の修理を手伝っていたら、すぐ近くに誰か来た。


「あ、ラナ、衣装が破けたの直してくれない?」

「それはユリアに頼んで!」


 顔を上げて誰かと確認する間もなく、用件だけ伝えて足早に去ろうとする背中に向かって大声で返事をする。


 こうでもしないと、すぐに去って行ってしまいそうだったから。


 繕い物はあたしに言わないで、ユリアにお願いして頂戴。この間キュリアさんからお達しがあったはずなのに、何であたしに言ってくかな。


 そして、あたしは修理の手伝いをしているのが見えないの?


 文句を言いたかったのに、用件だけ告げたらさっさと立ち去ってしまって、文句を言う暇もなかった。何なんだ一体。


「あ、ラナ」


 何かおかしい。


 まただ。また手伝いの催促がやって来た。


 最近やたらと声を掛けられる。


 声を掛けられる内容は雑用が多い。一番下っ端だから仕方ないのかもしれないけど、入ってすぐの頃と比べるとかなり増えたし、あたしでは無理なことも頼まれたりする。


 無理なことは断れるんだけど、雑用とかだとやれるでしょってぐいぐい押し付けられてしまって大変。


 一応雑談の時もあるけれど、すぐに横から用事を押し付けられてしまうので、まともに雑談も出来ない。


 完全にキャパオーバーなんだけど、これはあたしがここに慣れて来たって判断されたってことなのかな?


 それだったら嬉しいような気もするけど、それにしても多い。


 さすがに仕事の量が増えたからか、ユリアも変だと気付いて心配してくる。


 その度に大丈夫だと言っていたが、そろそろ限界。


 疲れた。休みたい。一週間ぐらい何もせずにゴロゴロしたい。だけど、それは出来ない。ユリアの治療費や今後のことを考えたらもっと仕事はしたい。


 そういえば、ここに入ってから休みの日ってあったかな?


 誰かに聞いた方がいい?


 でも、あたしのところにやってくるのは仕事の話を振って来る人たちばかり。無理と言う前にそそくさと去って行くから話も出来ない。


 リズに相談したいけど、こういった時に限って見つからないし、デンバーのところに行く余裕すらない。


 夜は泥のように寝ちゃうからユリアともあまり話せていない。


 何でこんなに忙しいのか誰か説明して欲しいのに、相談出来ないのがもどかしい。


 どうしてこうなったんだっけ?


 考えてみても考えられそうな理由が思い浮かばない。


 この忙しさは異常な気がするけど、一時的なことかもしれないからまだ我慢出来る。




◇◇◇◇◇◇




「お姉ちゃん大丈夫?」

「ん?」


 何か言った?


「顔色悪いけど……」

「顔色?」


 顔をペタペタ触ってみたが鏡がある訳じゃないんだから分からなかったけど

熱はないっぽい。


 最近忙しいから疲れが溜まって規定しまっているのかもしれない。


「最近忙しかったから疲れてたのかも。しばらくしたら暇になると思うから大丈夫」

「でも……」

「平気。平気」


 ユリアがまだ何か言い掛けていたけど、まだ仕事があるからって早々に天幕を出た。


 ユリアには心配させないようにって気をつけていたはずなのに顔に出てしまってたのかな?


 誰かに鏡を借りて後で確認した方がいいかも。


「おーい! ラナ!」

「はーい」


 そんなことを考えていたら早速呼ばれて、すっかりそんなことは頭から抜けて慌ただしく働いていた。


 けれど、それは突然やって来た。


 舞台の大道具の片付けをしていた時だった。


「ラナ!」

「へ?」


 その時のあたしは梯子に登っていた。


 高いところにある物を片付けたり、出したりとしていた時だった。


 くらりとめまいがしたような気がしたんだけど、気のせいだと思って頭を振ったのがいけなかった。


 バランスを崩したあたしはそのまま落ちた。


「ラナ!」


 さっきよりも大きな声で呼ばれた。


 起き上がろうとしたけれど、あちこちぶつけたせいかどこもかしこも痛くて痛くてとてもじゃないが起き上がれない。


「おい、医者呼んでこい!」

「ラナしっかりして!」


 しっかりしていると言いたいけど、頭がぼんやりしてきた。


 これはヤバいかもしれない。もしもあたしに何かあったらユリアを一人ぼっちにさせてしまう。


 死ぬのならせめてこの国を離れてから死にたい。


 段々と意識が薄れていく中、そんなことを考えていた。


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