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第24話

「ねえ、ケントってどんな奴なの?」


 野菜の皮を剥きながら近くに居た料理人のデンバーに聞いてみた。


 デンバーはこのランプル一座の料理人で、厨房の一番偉い人らしい。


 あたしの他に数人の手伝いみたいな人がいるが、その人たちもあたしみたいにデンバーにあれこれ指示を出されてる。


 その指示や、大量の食材を素早く調理してくれるお陰で毎日おいしい食事が出てくる。デンバーが居なくちゃランプル一座の食事事情がだいぶ悲惨になるとリズがこっそり教えてくれた。


 昔デンバーが風邪で寝込んだ時は、団員たちがデンバーの変わりに作ろうとしたけど、上手くいかずにまずい食事に各自で勝手に買ったりした。


 ただ、その時に買った店が悪かったのか何なのか、何人かが食中毒で倒れてあの時程デンバーの存在がありがたかったと言っていた。


 どれだけなの? 食中毒はお気の毒としか言い様がないけど、団員が作った料理がマズイ料理だったのかちょっと気になった。


 普段から料理してるならそんなに変な物は作らないだろうし、デンバーにいつも指示を受けて作っていても、いつも通りに作ればよかっただけじゃないの?


 その辺のことはよく分からなかったから首を傾げるしかなかったけど、デンバーの手際のよさとか見てたら速過ぎて納得するしかなかった。


 前に働いてた食堂と比べても速いし、とてもおいしいんだもの。デンバーの料理を一度でも食べたらデンバーが居ないと困るっていうのは納得出来る。


 ここにいる間は出来るだけデンバーにくっついて料理を覚えたい。


 料理以外にも、デンバーにはこの一座のことをちょくちょく教えてもらっている。


 新人はデンバーを通して一座のことを知り、自分がどこに向いているのか団長と話し合って仕事を割り振られるとリズに教えてもらった。


 ユリアはまだ体を休めていた方がいいからと天幕に残して来たが、一人で大丈夫かと心配になる。


「ケント? ケントか……あいつまた何かやからしたのか?」

「やからしたって?」


 聞いたのはあたしなのに、デンバーからの質問にどういうこと? と皮を剥くのをやめてデンバーを見た。


「あいつは、小さい頃に前の団長に拾われたんだが、あの性格だろ? かなり馴染めなくてね」

「前の団長?」


 デンバーの話ではキュリアさんは三代目だそう。


 てっきりキュリアさんが立ち上げたのかなって思ったけど、違うらしかった。


 キュリアさんはかなり若いのに昔からいる団員からは非難されなかったのかと思えば、やっぱりされたそう。


「あの時はかなりの人数が辞めたし、ここも終わりかと思ったけど、あの時残った奴らでここまで盛り立てたからなぁ。あの頃の仲間意識は凄かったが、それを今まで後生大事にしてるのはケントぐらいだよ。あいつが何かしてきたら誰かに言え」

「あ、うん」


 そういうものなのか。


 ケントはその出来事より後に入って来た団員に自分から出て行くようにと何度も嫌がらせを繰り返し、その度にキュリアさんたちがケントを叱るが、態度を改める様子もないため、そろそろ辞めさせられるかもと噂されている。


「ただ、あいつも変に素直なところがあるから一度仲間だと思ったら大事にしてくれるから」

「どうやったら仲間って思うの?」

「それはあいつなりのこだわりがあるから何とも言えん」

「えー」


 自分で考えろってこと?


 デンバーの言い方にモヤモヤするけど、ケントと関わらないようにすればいいってことよね?


 幸いあたしは仕事を覚えるのにあちこち行ったり来たりで忙しい。


 ユリアもケントのことを伝えておけば、あたしたちが使ってる天幕からはあまり出ないから多分大丈夫なはず。


 デンバーの言う通り何かあれば誰かに助けを求めればいい。キュリアさんもいつまでも問題児を放っておく訳じゃなさそうだし、そこまで気にしなくてもいいでしょ。


「……教えてくれてありがとう。今のところ何かあった訳じゃないけど、注意しとく」


 教えてくれたデンバーにお礼を言ってこの話は終わり。その後は一座の中で流行ってることや、どこどこで食べた料理の味が忘れられなくて、自分でも作れないか試しているけど、中々上手くいかないと言うデンバーの愚痴を聞いたりもした。


 一応ユリアにもケントのことを伝えて警戒するようには言っておこう。それからリズにも伝えておけば何とかしてくれはしなくても、他にも目が増えるからケントも手を出しにくくなるはず。


 そう考えて早速リズがいる場所に行ってこの間ケントに声を掛けられたというか、一方的にまくし立てられたことを伝えるとリズは頭が痛いと言いたげに額を押さえた。


「……うわぁ、あいつ全然成長してなかったのか。あたしが言うことじゃないんだろうけど、なんかごめんね」

「うん」


 あたしとしてはケントに気をつけて欲しくて言ったんだけど、こんな風に頭を悩まさせてしまうのなら伝えない方がよかったかな? いや、でも

ユリアに何かされたらあたしも困るし。


「あたしの方から団長にも伝えとくよ。それでケントからは何かされた?」

「今のところは何も」

「それならいいけど、何かあったらあたしでも団長でも近くにいる奴らでもいいから言ってね」

「うん。分かった」


 これで、一安心かな。


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